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15.ビビアナ様

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 ようこそいらっしゃいませ、ビビアナ様。わたくしがエリザベートですわ。

 さあ、どうぞお座りになって。メニューをご覧になってくださいな、え、なんでもいい? 分かりましたわ。色んなお菓子のわんぱく詰め合わせにいたしましょう。少しずつ試して、お好みに合うものを追加すればいいもの。お飲み物はー、すっきりした麦茶にいたしましょうね。


 ビビアナ様、緊張なさってるのかしら? ああ、人見知りされるのね。よろしいのですよ、気が乗らなければ話さなくても。まったりいたしましょうよ。そうそう、わたくし最近塗り絵に夢中なのですわ、一緒にいかが? 無心になれて雑念が消えますのよ。


 あら、わたくしったら、もうこんな時間だわ。塗り始めると周りが見えなくなってしまって。ビビアナ様、お腹すいてらっしゃらない? 焼き肉いたしましょうよ、焼き肉。最高級の和牛を取り寄せましたのよ。一人で食べてもつまらないもの、今日ビビアナ様がいらしてくれてよかったですわ。


 あー、食べすぎましたわ。胸焼けがいたしますわ、ふふふ、でもおいしかったですわね。


 そう、怖くて部屋から出られないのですね。悪役令嬢ものの本をたくさん読んでいらしたけど、読んだことのない世界に転生されたのですね。それは怖いですわ、無理もないですわ。


 ご家族はどのような? まあ、ビビアナ様に関心がないの……。侍女も信用ができないの……そう、ひとりぼっちで悲しいのですね。かわいそうに、それは悲しいですわね……。


 婚約者はいらっしゃるの? まだですのね。そう、再来年までには婚約が整いそうとお父上が……。



 ビビアナ様、お手を、ええこちらにお立ちになって。さあ、何が見えるかしら? そう、美人が二人……そうですわ、極上の美女が二人ですわ。


 正直におっしゃって、前世ではどの程度でいらして? そうでしょう、せいぜいが中の上ですわよね。なんなら中にかろうじてひっかるぐらいでしたでしょう? わたくしもそうでしたわ。


 さあ、ご覧になって、まばゆいほどのこの美貌を。前世でベストコンディションの日、メイクも服もばっちりきまった日、それでもこのレベルには到底およびませんでしたわよね。


 ビビアナ様、これから毎朝じっくりと鏡をご覧になるのですよ。そして、その美を楽しむのです。


 ご家族に会ったら、ただ微笑んでいればよろしいわ。仲良くなる必要などございません、会社の上司だとでも思って受け流せばよろしいの。

 
 召使いなど有象無象は捨て置きなさい。しょせん身分が下のもの、取るに足りませんわ。


 婚約者や他の殿方は一歩引いた目で観察なさい。どのみちヒロインが現れれば彼女に夢中になってしまうのですわ。ビビアナ様には不要な者たちですわ。


 さあ、いざというときのために、最悪の事態を想定しておきましょう。ええ、どんなことが起こりえるかしら? そうね、処刑エンド、奴隷や娼婦に落とされる、貧民街で野垂れ死に、隣国に亡命、貴族籍剥奪、お家取り潰し。ええ、修道院に送られれば御の字でしょう。


 そうですわ、孤独に怯えている余裕はございませんわ。ビビアナ様の武器はその美貌ただひとつ。もっと武器を増やさなければなりませんわ。資金や仲間も必要よ。奴隷を買ってもいいのです。

 
 ね、部屋に閉じこもるのはもうおしまい、戦わなきゃいけないわ。辛くなったら鏡を見るの。こんな美人に産まれればって何度も夢想したでしょう? 誇り高い女王として振る舞うのです。




 よいかビビアナ、退路は断たれた、敵を殲滅せよっ!

 地獄の果てでお待ちしておりますわ。


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