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1.ナターリエ様

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 ようこそいらっしゃいませ、ナターリエ様。わたくし、カウンセラーのエリザベートですわ。


 ええ、そうです、わたくしも悪役令嬢ですわ。ほほほ、前世? ええ、日本人でしたわ。割と大きな会社でマーケティングをしておりましたの。


 バリバリ働いて、夜は接待、週末は散らかった部屋で泥のように眠るという生活をしておりましたわ。


 頭を空っぽにして読める悪役令嬢ものが大好きでしたわ。どのお嬢さまも愛おしくて、皆さまの幸せを拳を握って応援しておりました。


 わたくし自身が悪役令嬢に転生したときは、武者震いでオタケビをあげてしまって、侍女を卒倒させてしまいましたわ。ほほほ、お恥ずかしいですわ。


 ええ、ありとあらゆる手段を使って、てっぺん取ってやりましたわ。もうフラグもございませんし、これからは趣味と実益を兼ねて人助け、いえ、悪役令嬢のために生きていこうと心に決めましたの。


 あら、わたくしったら、ひとりでベラベラとみっともないことを。
さあ、お茶とクッキーを召し上がれ。我が家の料理人に日本のレシピで作らせましたのよ、お口にあうといいのですが。

 
 それで、ナターリエ様は何にお困りになっていらっしゃるの?


 ああ、なるほどなるほどですねー。本来ならヒロインと結ばれるはずの第一王子が、ナターリエ様との婚約を破棄しないと。ベタ惚れになられちゃったのねー。はいはいはい、よく分かりました。


 んんっ、失礼いたしました。ナターリエ様は、悪役令嬢の三種の神器『クール系の美貌』『ボンキュボンの肉体』『高貴な家柄』を全て兼ね揃えていらっしゃるのですね。そして、フラグを回避するために周囲に優しくし、努力を怠らなかったと。


 そりゃみんなあーたのこと好きになるよね、うん。


 ええ、それで、どうしましょう。そのまま婚約してればええやん、って天の声が言っておりますけれども。そこんところはどうなんです?

 そうですか、ヒロインと第一王子の運命を邪魔してしまったようで、罪悪感があると。


 ナターリエ様、他に好きな人がいらっしゃるの? ああ、いらっしゃらないのですね。フラグ回避に集中しすぎて恋どころではなかった、と。おいたわしい、美貌の持ち腐れですわ。


 ところで、フラグはどういった塩梅ですの? フラグイベントは全て回避なされてて?それは素晴らしいですわ。もう後顧の憂いなく自由に生きられるのですね。


 え、世界の強制力が怖いですって? ああー確かに確かに、あれは厄介ですよねー。物語を転がしていくには便利なシロモノだけど、中の人にはたまったもんじゃないですよねー。
しばしお待ちくださいませ。


 カタカタカタカタピー


 はい、出ました。おめでとうございます。わたくしのデータベースからの分析によると、ナターリエ様の世界線には、強制力というシステムはないようです。今のところは、ですが。


 そうですね、ナターリエ様にはいくつか選択肢がございますが、三つに絞ってお伝えしますね。


 まず一つ目ですが、このまま第一王子と婚約し続け、王子を好きになれるか試してみる。嫌いではないなら、王子と結婚されるのが最も波風が立たず簡単ですわね。なんといっても、王子はいずれ国内最高権力者になるわけですから。


 二つ目ですが、王子と婚約を続けつつも、他の男性にも目をむけてみる。他に好きな人ができれば、その人と結ばれるために、あれやこれやの対策を取らなければなりませんわ。王子とも円満に別れなければいけませんし、いざとなったら王子に儚くなってもらう必要も出てくるやもしれません。


 三つ目ですが、今の身分を捨てて他国に行くことですわ。それなりの資金力とガッツが必要ですけれど、真新しい人生というのは魅力的ではないかしら。


 そうですか、二つ目を選ばれるのですね。よろしゅうございました。ナターリエ様のご健闘をお祈りいたします。儚くするためのお手伝いがご入用の際は改めてご連絡くださいな。


 それでは、ごきげんよう。




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