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11.100日目   <完>

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 ついに来たぜ! 待ちに待ってない処刑の日ー。百日目だっ!

 いやー長かったね。主にカミカミの愚痴が。もう五千年分聞かされたよ。疲れたよ。


 さあさあ、見たまえ。人がゴミのようだ。ふはははは。


「みんなーイグワーナだよー」

「おおおおおおーーーー」

「今から処刑だよーーーー」

「ええええええーーーーー」

「ガッシャンされてみるぜーーーーー」

「ぎゃーーーーーーー」


 処刑台を囲む民衆は大フィーバーだ。娯楽の少ない世界だからね。ライブ感があって、ハラハラ感満載な処刑は最高のイベントだよね。首切り生チョンパを見たい気持ちは、平和な世界で育った私には分からないけども。


 処刑台には、陛下とコケイーノ王子とマリワーナが立っている。やるって言った人に責任取ってもらわないとねぇ。


「さ、コケイーノ王子。心を落ち着けてね。あなたがやるんですよ。そう、このヒモをしっかり持って。はい、まだよ、まだまだ。私が頭を通してからね」

「いや。それは処刑人が……」

「おいおい、何舐めたこと言ってんの。あんたが処刑って言ったんですよねー。そうですよねー。無実の婚約者をねー。自分が婚約者の妹と浮気して、婚約者が邪魔になったってだけでねー。みんなーそう思うよねー?」

「おおおおおおおーーーーー」

「ほら、民衆がのりにのってるよ。しっかりヒモ握ってるな。よし。みんなー見てるー。そろそろだよー」

「キャーーーやめてーーーイグワーナさまーーー」



「いくよー、さん、に、いち、いまだーコケー」



 コケイーノ王子は膝をガクガクさせながら、処刑台のヒモを離した。

 マリワーナは気絶し、民は絶叫したーーーー。

 処刑台の刃が、イグワーナの首を、落と……さなーい。

 ホワーン 空中に浮かんだ女神が処刑台の刃を止めた。



 「うおぉぉぉぉぉぉぉーーー」


 盛り上がる民衆のオタケビを聞きながら、私は処刑台から頭を抜いた。

 ハラハラしたわー。カミカミが間に合わないかと思ったよ。ちょっとチビったよ。


 大盛り上がりの民衆に手を振って、カミカミに言う。

「さ、カミカミ様、ここは女神らしく派手にバーンとお願いします。前世で培ったプレゼン力を見せつけちゃってください」

「ちょっとープレッシャーかけないでよねー」

 カミカミがコソコソ小声で言い返す。



「人の子よ。わらわは五千年以上この地を見守ってきた。この王国の歴史は千年ほどであるが、初代の王とわらわは誓約を交わしたのじゃ。女性に優しく、民に重税を課さない国づくりをせよと。その代わり、わらわは王の願いを叶えてやった」

 カミカミは陛下にチラリと目をやった。

「王はの、女性に優しくするなら男にもなんかご褒美くれと言いおった。もっともじゃとわらわは思った。王はの、男が恐れるものは、不毛と不能じゃと言った。要するに毛がなくなることと、勃たなくなることが怖いと。なるほどなとわらわは思った」

 え、なんかそれ言っちゃって大丈夫なのって、民衆がざわざわし始めたぞ。

「わらわは確約した。女性と民に優しい為政者には髪と何の力を。民も同じじゃ。この国は女性に優しく、子供もたくさん産まれて繁栄した。女性に優しくというのが、女性は上に立てるなと歪んで伝わっていったのは、少々誤算ではあったが。女性たちよ、上に行きたいなら、好きに行けばよいのじゃぞ。上に立つのも楽しいぞ」

 お、なんかいい話かもって民が安心した空気を出してるぞ。


「ところがじゃ、歴代の王はわらわの愚痴話を聞くのがだんだんイヤになってきての。あるときわらわを祠に閉じ込めたのじゃ」


 ドンガラピカピカドーン

 おっと、王宮に雷が落ちたみたいですね。神の力ぱね~。


 民はビビりつつも、いや、でもあなたの愚痴長すぎるしねー、そんなことをささやいているぞ。この前の王都飲み会がひどかったもんネ。


「次代の王はきちんとわらわの話を聞くように」

 ええーそれってどんな罰ゲームよー、って民が思っているぞ。


「さて、こたびのイグワーナの件であるが。イグワーナはわらわの使いじゃ。それを処刑しようとするなど言語道断。さあ、この三人にどんな刑を科そうかのう?」

 陛下とコケとマリが青ざめた。

「生臭いのはわらわは好かぬ。肉が食べられなくなるからの。決めたのじゃ。この三人はわらわとイグワーナが元いた世界に転生させようと。そうじゃの、彼の地での女性の扱いのひどさを、身をもって知ることが罰となろう」


 ちょっとみんながポカーンとしてるぞ。


「彼の地の就職氷河期時代に成人を迎えるよう、女の赤子に転生させる。何、彼の国はごはんが最高においしいし、平和じゃ。うまくすれば楽しい人生を送れるぞ」

 それじゃあ罰にならないよねーって誰かが言ってるぞ。

「彼の国の女性はの、三十歳過ぎるとゴブリンのような扱いを受けるの。おばさんと呼ばれる」

 五千年たっても根に持ってるゾ。

「周囲の顔色を伺って、同調しないとヒソヒソされるの。恋愛は自由じゃが、既婚者が不倫すると人殺しより責められるぞ」

 よく分かんなーい、って誰かが言ったぞ。そろそろ巻け、民が飽きてきたぞ。

「為政者は能無しで、何十年も物価と税金は上がり続けるのに、賃金は据え置きじゃぞ。あやつらにも、女性と民に優しくしないと不毛と不能になる呪いをかけたいものじゃ」

 巻け、イグワーナはささやいた。

「はい、というわけで、行ってらっしゃーい」


 シュワンっと三人は消えた。

 民はポカーンである。え、これで終わり? である。

 呆気ない幕切れであった。


「ええー、それでは次の議題に移りまして、新しい王は、イグ……」

「カミカミだーーーーー」

「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーー」

「えっ?」

「五千年もの間、国を見ていたカミカミこそ王にふさわしい、そうだなみんなー」

「おおおおおおおーーーーーー」

「えっ?」

「さー、それではカミカミに王冠の授与をしたいと思います。おめでとうございます。今後の抱負を手短に、端的にお願いします」


「が、がんばりますっ!」


 こうして、五千年間がんばり続けたカミカミは、女性としてトップの地位にのぼりつめたのだった。

「やったねってなるかーーー。イグワーナーーー」



 期待されると限界までがんばってしまうカミカミは、王国に永遠の繁栄をもたらした。

 イグワーナはガンディーヤと諸国漫遊してグルメ紀行文を出している。カミカミが文句を言い出すと、イグワーナは王都に戻って長ーい愚痴を聞いてあげている。

 イグワーナは秘技、聞き流しを会得しているのである。民から尊敬の眼差しで見られている。


「カミカミ、あんまりグチグチ言ってると、また封印されるぞ。気をつけろ」

「てへっ」



<完>


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