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34 羊、ヤギ、牛さん
しおりを挟む泣いて寝落ちしたブランシュが目を覚ました。
一瞬、どこにいるか分からなくなってわたわたとしたが、カンアが言った一言で目が覚めたようだ。
「ブランシュちゃん、羊、見に行く?」
『---!! 羊!!』
そうだ、後で連れてってくれるって言ってた。
『イクイクイク---ッ!!』
諸手を挙げて飛び跳ねるブランシュを見ながらレイヴンが渋い顔で額を押さえている。
「---っく、ブランシュ、あまり大声で叫ぶな。・・・・・・言葉のニュアンスが・・・・・・っ」
エロい方に聞こえるのはレイヴンだけじゃ無いはず・・・・・・たぶん。
「・・・・・・お前も苦労するなあ。クロウだけに。ププッ!」
「・・・・・・殺ス」
「いやいや、冗談だってば! ごめんて!」
カンアに同情、もとい揶揄われたレイヴンが速攻で殺気を放つと慌てて謝るカンア。
両親達は笑って見ている。
「ほらほら、遅くならないウチに行っておいで。こちらは色々と準備しておくから」
「はいはい。じゃあ行こうか、ブランシュ」
『はーい! 兄様!』
「・・・・・・行ってきます」
カンアが先頭を歩き、ブランシュを抱っこしたレイヴンがあとに続いて出て行った後。
残ったコルニクス達はブランシュの前世に思うところがあるものの、今更掘り返すことでもないかと思考を切り替えた。
「さあさあ、ブランシュちゃんの為に美味しい料理をたくさん作りましょうか」
「そうね。どうやら我が里の食べ物は口に合ったようだし」
「そういえば普通に食べてたけど、精霊なのよね? 大丈夫だったのかしら?」
「レイヴンが止めずに、逆に勧めてたから大丈夫だろう」
そう言いながら台所に行ったり部屋を調えたりと、使用人達も忙しなく動き出すのだった。
一方その頃、カンアの案内で放牧地に移動したブランシュは感動していた。
レイヴンの抱っこから下ろして貰ったブランシュの目の前にはたくさんの羊の群れ、別の場所にはヤギ、また違う場所には牛がたくさんうろうろしていた。
『ほああああ・・・・・・カワイイ、すごいいっぱい』
感動しすぎて語彙力が死んだ。
いや元々あまり語彙力無かったが、更に阿呆っぽくなった。
そんなブランシュを見てほんわかする住人達。
「あんなキラキラした目で見られることないもんなあ」
「生まれたときから見てると感動する要素なんて欠片も無い」
「言えてる」
カンアにもレイヴンにも何時もの当たり前な日常風景だが、ブランシュにとっては前世はおろか今世でも無縁な生活だったのだろう。
それを思うと何とも言えない気持ちになる二人。
「・・・・・・なあ」
「・・・・・・何だ」
「ブランシュちゃんにさあ、俺達が当たり前だと思うこと全部さ、見せて経験させてやろうな」
「ああ」
「それで『幸せー!』って笑って貰おうな」
「おう」
そう言ってブランシュを見つめる二人(とその他大勢の住人)の目は柔らかかった。
『ねえねえ、さ、触らせて貰えるかな? 近くに行っても良い?』
そう言いながらすでに柵の向こうに飛んで行きそうになっているブランシュをレイヴンが掴まえて、カンアは慌てて近くの作業員に声をかける。
そうして念願叶って思う存分触りまくったブランシュは、我慢の限界だったレイヴンに抱き上げられてお触りタイム終了となった。
この後、ヤギと牛の乳搾りも体験させて貰ってほくほく大満足のブランシュ。
「自分で搾った乳は持って帰って飲むと良いよ。美味いから」
作業員はそう言って、搾りたてを持たせてくれた。
それをブランシュが両腕に抱えると代わりにレイヴンがヒョイと持ってくれた
『ありがとうございます! レイヴン、兄様、早く帰って飲みたい! ああ、おっぱい柔らかくて気持ち良かったなあ』
「---っぶ!」
「・・・・・・ブランシュ」
『? なあに? あっ、僕はつるぺたでおっぱい出ないね。ン? そもそも精霊だから出ないのかな?』
そう呟いて自分の胸を揉むブランシュにレイヴンは渋い顔で、カンアは堪えきれずに大笑い。
「・・・・・・おっぱいから離れろ」
「ぶっははは---っ!」
カンアはその後も家に着くまで大笑いしていたのだった。
※大変御無沙汰で遅くなりました。
ほのぼのして頂けたら幸いです。
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