(仮)攫われて異世界

エウラ

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57 辺境伯家への返答(sideエアリアル&セリウム)

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ユラにマーキングのなんたるかを教えてあげたらそういう意味だと知らなかったようで、あまり動かない顔が真っ赤に染まってナハトと少しの間、修羅場になった。

いや修羅場というほどではないか。
ユラが一方的にナハトに文句を言ってバシバシ叩いてる。
だがその様子が、子猫が一生懸命粋がって大人に噛み付いているようにしか見えなくて、ダオラと二人で微笑ましく眺めていた。

やがて気が済んだのか、ナハトに促されて執務室をあとにしたので私達もそれぞれ動き出す。

「さて、それじゃあレギオン殿に返信するか」

私は溜め息を吐いて執務机で便箋と向き合う。さて、どう書いたものやら。

「あー、アレね。・・・・・・たぶんだけどあの人達、ユラ君とセットでナハトさんがくっ付いていくこと忘れてるよねぇ」
「おそらくは。一応話は通しておいたが、色々と衝撃的過ぎて頭から抜けていると思うよ。でもまぁ、事実をストレートに書くか」

もう考えるのも面倒だ。ユラが来てから連日騒動が起きない日はなくて、いい加減疲れた。
そう思っていたらダオラが察して苦笑した。

「面倒になったね?」
「・・・・・・面倒に決まってるだろう? 仲介役なんて誰がやりたいモノか。だが辺境伯家の方からこちらに来て貰うわけにもいくまい」
「そうだよねぇ。でもまぁ、ユラ君に興味津々らしいし? 呼びつけても来るんじゃないかなぁ?」
「・・・・・・」

うん、セリウム殿なら仕事を投げ出して喜んで来そうだ。あの人、身体を動かす方が好きだからな。

「来たらそれはそれで面倒臭いから却下だな」
「だねぇ」

ダオラと二人でそう言って便箋にペンを走らせた。

   ◇◇◇

ユラ達が冒険者ギルドを出た少しあとの辺境伯家。
アムリタの領主で辺境伯当主のセリウムは側近のコリウスが持ってきた手紙を見つめていた。

昨日エアリアルに出した手紙の返事が早速届いたのだ。

「ずいぶん早かったな」

開封した手紙に目を通してすぐに机の上に置いて目を瞑る。
ユラが来ると決まって嬉しいはずなのに、渋い表情になる。

「どうやら午前中に冒険者ギルドを訪れたようで、その場ですぐに返事が貰えたようです」
「それはラッキーだったが・・・・・・ユラ君が来るともれなく吸血鬼の真祖であるオスクリタ殿が付いて来ることを忘れていたな・・・・・・」
「・・・・・・私も迂闊でした。お二方は番い同士でしたね」

お互い、はぁーと深い溜め息を吐く。

いや別にオスクリタ殿は悪くないよ?
ただちょっと怖いというか、畏れ多いというか、とにかくとんでもなく強くてこう、近寄りがたいオーラがあって苦手なのだ。

「ですが常識などを教えると申し出たのはこちらです。それに喜んで乗ってくれたユラ君のためにも日時の調整をいたしましょう」
「そうだな。付いてくるといっても同じ室内で過ごすだけだろうし? 暴れたりするわけじゃないからな!」
「そうですよ。心配ないです」

無理やり納得して早速予定を確認し始めたコリウスと俺は、執事長のミカエルにユラ君のおやつを用意するように伝える。

「ミカエル、ユラ君は今まであまりいい食事事情ではなかったようだから、ウチに来ている間はいろんな料理や菓子を少量ずつ種類を多くして提供してやりたい」

俺がそう言うとちょっと渋い表情になった。やはり食事事情で引っかかったのだろう。
ウチにいる間だけでも美味しいものを用意してやりたい。

「なるほど。そこから好みを把握するのですな」
「量もどのくらい食べるか分からないし、オスクリタ殿は食事はほぼ摂らないと聞くから、こちらで好みや量を把握しておこう」
「餌付けですね」

和やかにサラッと凄い単語を言ったな、ミカエルよ。
まぁ間違ってはいないので俺も微笑むだけに留める。

「料理長も腕がなりましょう。日程が整いましたら連絡をお願いいたします。ああ、今から食材やら料理やら菓子やら、わくわくいたしますね」

そう言って張り切って厨房へと向かっていくミカエルに苦笑する。

「なんにしても楽しみだな!」

辺境伯家全体が浮かれた空気になり、いつもより華やぐような邸に使用人達も気分があがるのだった。



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