59 / 68
56 一般常識のアテと初めての依頼 1
しおりを挟む
家を出る前に身支度の確認で洗面所で鏡を見たら、左の首筋にほくろのように縦に二つ傷痕があるのに気付いた。
───これがあのとき咬んだ痕かな?
そして鏡越しにジッと傷痕を見つめていると、握りこぶし大の紋章みたいなのが浮かび上がって見えた。
「───っナハト、コレ何!?」
ちょっと不安になってナハトに確認すると、やはりナハトの紋章らしい。
「長く生きてると世間の柵とか色々あって、俺専用の紋章を作って魔力登録してあるんだ。俺の場合はこの紋章があるモノには手を出すなって意味で使ってるんだが」
もちろんユラをモノ扱いするわけじゃないぞ! って慌てて否定してきたけど、別にそんなこと思ってないから大丈夫だって。
「ようは貴族の家紋のようなモノだ」
「ああ、僕のタグの紋章みたいな役割なんだね」
所有印みたいなモノか。
まぁ僕達の場合は番いの意味なんだろうな。
「───でもソレってもしかして、いつもキスマーク付けて歩いてるようなもんじゃないか?」
あっちの世界での指環みたいなのなら気にならないけど、この状況ってめちゃくちゃ恥ずかしくないか?
「見せつけて牽制の意味もあるな」
にっこり笑ってそう言うナハトは確信犯間違いなしだろ。
そう思って睨んだが更に笑って流された。
「さて、冒険者ギルドに行って何か依頼でも受けてみるか?」
「! 受ける。やってみたい!」
ナハトに上手く誤魔化された気がしないでもないが、冒険者らしいことをしたかった僕は一も二もなく頷くのだった。
そうして朝のごった返す時間を避けてゆっくり向かった冒険者ギルド。
足を踏み入れて早々にダオラにギルマスの執務室に連れ込まれてしまった。
「───依頼書、見たかったのに。依頼受けたかったのに・・・・・・」
ムスッとした僕を宥めるつもりなのか、ナハトが僕の頬を両手で挟んでむにむに動かしていた。
「にゃにするにょ、にゃめれ、にゃはほ」
「何言ってるか分からないな」
そう言いつつも口端が笑っているナハトに更にムッと頬を膨らますと、掌でぎゅうっと押されてぷうっと間抜けな音が口から漏れた。
「・・・・・・っぷ」
「ブフッ」
「───っく・・・・・・可愛いな!」
執務室にいたエアリアルとダオラも吹き出して、僕は気分がめちゃくちゃ下降した。
それが分かったんだろう。エアリアル達はコホンと咳払いをして謝ってきた。
「すまない。つい」
「笑って悪かった」
「・・・・・・ユラが可愛くて、スマン」
「・・・・・・むぅ。もういいよ。で? ココに連れ込んでなんの用事?」
まだちょっとムッとしていたが、話の内容によっては気分が上がるかもしれない。
「ああ、はい。実は昨日、ここの領主であるレギオン辺境伯にユラのことを報告したんです。さすがに知らせないわけにはいかなくてですね・・・・・・」
「ああ、それは仕方ない。というか後ろ盾になって貰えれば御の字だろう」
エアリアルの言葉にナハトがそう言った。ということは、まぁ信用できる相手だということだね。
「それならいいけど。その辺境伯様から何か言われた?」
面倒臭いことじゃなければいいんだけど。そう思ったことが顔に出てたのか、エアリアルが苦笑した。
「今のユラ君にはありがたいことだと思いますよ。辺境伯家直々にユラ君に常識を教えてくれるそうです」
「よかったねぇ、ユラ君。この世界の一般常識が分かるよぉ」
・・・・・・図らずも昨日ラヴァと話してたことが現実となった。
やっぱりフラグだったか。
ナハトも思い出したようで苦笑していた。
「・・・・・・何かあった?」
ダオラが怪訝そうな顔で聞いてきたので僕達は苦笑しながら教えてあげた。
「昨日の昼にラヴァにも言われたんだよ。一般常識を教えてくれる人探せって」
「最初、エアリアルを薦められたんだけど忙しいだろうから無理だなって言ってたの。そうしたら今の話だったから」
フラグだったなって思って。
「じゃあちょうどいいから、了承の返事を出しておきましょうか。そうすると辺境伯家に出向くことになりますが・・・・・・」
エアリアルがにこっと笑ってそう言うと、ナハトは当然のように言った。
「あ、もちろん俺も付いていくからな」
「だよねー」
「だねぇ」
僕もダオラも分かりきったようにそう言って頷いた。過保護なナハトが僕を一人にするわけないもんね。
「・・・・・・そこもきちんと付け加えて返事を書きましょう。日時の調整がついたらまた連絡しますね」
「任せた」
何やら想像したらしいエアリアルは疲れたようにそう言って溜め息を吐く。ナハトはソレを無視してエアリアルに面倒事を投げた。
僕も見ないふり。ダオラは笑っていた。
「ねえ、じゃあもう、これから何か依頼受けて冒険者稼業してもいい?」
わくわくしながらそう言うとエアリアル達も気分を変えて頷いた。
「ええ、構いませんよ。ランクに見合った依頼で好きなのを選んで怪我のないように」
「くれぐれもアチコチ破壊しないようにねぇ」
ダオラがツッコむ。───うん、ソレは約束できないかな?
「善処する」
「いやいや、そこはキッパリ気を付けるって言ってよぉ」
僕の返事に笑いながら再びダオラがツッコんで、僕達も笑って執務室を出ようとしたんだけど・・・・・・。
「ああ、ユラ君。首の所有印もそうですが、ナハトの執着が凄いですね」
「え?」
「マーキング。相当ナカに注がれたでしょう? ソレだけ匂ってたら獣人じゃなくても気付きますよ」
「・・・・・・は?」
マーキング? 中出し? 匂い?
「・・・・・・ナハト?」
どういうことかな?
僕はブリキのようにギギギッと顔を向けてナハトを見た。
当のナハトはケロッとして言った。
「だから種付けだって言ったろう?」
「───っ聞いてないよ! 単なる匂い付けだと思ってた!」
「だから匂い付け───」
「精液の匂いだなんて言われなきゃ分かるか───っ!!」
このアホバカ無神経ー!
僕は思い付く限りの罵詈雑言を言い放って、ナハトをど突いたのだった。
───これがあのとき咬んだ痕かな?
そして鏡越しにジッと傷痕を見つめていると、握りこぶし大の紋章みたいなのが浮かび上がって見えた。
「───っナハト、コレ何!?」
ちょっと不安になってナハトに確認すると、やはりナハトの紋章らしい。
「長く生きてると世間の柵とか色々あって、俺専用の紋章を作って魔力登録してあるんだ。俺の場合はこの紋章があるモノには手を出すなって意味で使ってるんだが」
もちろんユラをモノ扱いするわけじゃないぞ! って慌てて否定してきたけど、別にそんなこと思ってないから大丈夫だって。
「ようは貴族の家紋のようなモノだ」
「ああ、僕のタグの紋章みたいな役割なんだね」
所有印みたいなモノか。
まぁ僕達の場合は番いの意味なんだろうな。
「───でもソレってもしかして、いつもキスマーク付けて歩いてるようなもんじゃないか?」
あっちの世界での指環みたいなのなら気にならないけど、この状況ってめちゃくちゃ恥ずかしくないか?
「見せつけて牽制の意味もあるな」
にっこり笑ってそう言うナハトは確信犯間違いなしだろ。
そう思って睨んだが更に笑って流された。
「さて、冒険者ギルドに行って何か依頼でも受けてみるか?」
「! 受ける。やってみたい!」
ナハトに上手く誤魔化された気がしないでもないが、冒険者らしいことをしたかった僕は一も二もなく頷くのだった。
そうして朝のごった返す時間を避けてゆっくり向かった冒険者ギルド。
足を踏み入れて早々にダオラにギルマスの執務室に連れ込まれてしまった。
「───依頼書、見たかったのに。依頼受けたかったのに・・・・・・」
ムスッとした僕を宥めるつもりなのか、ナハトが僕の頬を両手で挟んでむにむに動かしていた。
「にゃにするにょ、にゃめれ、にゃはほ」
「何言ってるか分からないな」
そう言いつつも口端が笑っているナハトに更にムッと頬を膨らますと、掌でぎゅうっと押されてぷうっと間抜けな音が口から漏れた。
「・・・・・・っぷ」
「ブフッ」
「───っく・・・・・・可愛いな!」
執務室にいたエアリアルとダオラも吹き出して、僕は気分がめちゃくちゃ下降した。
それが分かったんだろう。エアリアル達はコホンと咳払いをして謝ってきた。
「すまない。つい」
「笑って悪かった」
「・・・・・・ユラが可愛くて、スマン」
「・・・・・・むぅ。もういいよ。で? ココに連れ込んでなんの用事?」
まだちょっとムッとしていたが、話の内容によっては気分が上がるかもしれない。
「ああ、はい。実は昨日、ここの領主であるレギオン辺境伯にユラのことを報告したんです。さすがに知らせないわけにはいかなくてですね・・・・・・」
「ああ、それは仕方ない。というか後ろ盾になって貰えれば御の字だろう」
エアリアルの言葉にナハトがそう言った。ということは、まぁ信用できる相手だということだね。
「それならいいけど。その辺境伯様から何か言われた?」
面倒臭いことじゃなければいいんだけど。そう思ったことが顔に出てたのか、エアリアルが苦笑した。
「今のユラ君にはありがたいことだと思いますよ。辺境伯家直々にユラ君に常識を教えてくれるそうです」
「よかったねぇ、ユラ君。この世界の一般常識が分かるよぉ」
・・・・・・図らずも昨日ラヴァと話してたことが現実となった。
やっぱりフラグだったか。
ナハトも思い出したようで苦笑していた。
「・・・・・・何かあった?」
ダオラが怪訝そうな顔で聞いてきたので僕達は苦笑しながら教えてあげた。
「昨日の昼にラヴァにも言われたんだよ。一般常識を教えてくれる人探せって」
「最初、エアリアルを薦められたんだけど忙しいだろうから無理だなって言ってたの。そうしたら今の話だったから」
フラグだったなって思って。
「じゃあちょうどいいから、了承の返事を出しておきましょうか。そうすると辺境伯家に出向くことになりますが・・・・・・」
エアリアルがにこっと笑ってそう言うと、ナハトは当然のように言った。
「あ、もちろん俺も付いていくからな」
「だよねー」
「だねぇ」
僕もダオラも分かりきったようにそう言って頷いた。過保護なナハトが僕を一人にするわけないもんね。
「・・・・・・そこもきちんと付け加えて返事を書きましょう。日時の調整がついたらまた連絡しますね」
「任せた」
何やら想像したらしいエアリアルは疲れたようにそう言って溜め息を吐く。ナハトはソレを無視してエアリアルに面倒事を投げた。
僕も見ないふり。ダオラは笑っていた。
「ねえ、じゃあもう、これから何か依頼受けて冒険者稼業してもいい?」
わくわくしながらそう言うとエアリアル達も気分を変えて頷いた。
「ええ、構いませんよ。ランクに見合った依頼で好きなのを選んで怪我のないように」
「くれぐれもアチコチ破壊しないようにねぇ」
ダオラがツッコむ。───うん、ソレは約束できないかな?
「善処する」
「いやいや、そこはキッパリ気を付けるって言ってよぉ」
僕の返事に笑いながら再びダオラがツッコんで、僕達も笑って執務室を出ようとしたんだけど・・・・・・。
「ああ、ユラ君。首の所有印もそうですが、ナハトの執着が凄いですね」
「え?」
「マーキング。相当ナカに注がれたでしょう? ソレだけ匂ってたら獣人じゃなくても気付きますよ」
「・・・・・・は?」
マーキング? 中出し? 匂い?
「・・・・・・ナハト?」
どういうことかな?
僕はブリキのようにギギギッと顔を向けてナハトを見た。
当のナハトはケロッとして言った。
「だから種付けだって言ったろう?」
「───っ聞いてないよ! 単なる匂い付けだと思ってた!」
「だから匂い付け───」
「精液の匂いだなんて言われなきゃ分かるか───っ!!」
このアホバカ無神経ー!
僕は思い付く限りの罵詈雑言を言い放って、ナハトをど突いたのだった。
522
お気に入りに追加
1,103
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
異世界転生して病んじゃったコの話
るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。
これからどうしよう…
あれ、僕嫌われてる…?
あ、れ…?
もう、わかんないや。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
異世界転生して、病んじゃったコの話
嫌われ→総愛され
性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる