(仮)攫われて異世界

エウラ

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56 一般常識のアテと初めての依頼 1

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家を出る前に身支度の確認で洗面所で鏡を見たら、左の首筋にほくろのように縦に二つ傷痕があるのに気付いた。

───これがあのとき咬んだ痕かな?

そして鏡越しにジッと傷痕を見つめていると、握りこぶし大の紋章みたいなのが浮かび上がって見えた。

「───っナハト、コレ何!?」

ちょっと不安になってナハトに確認すると、やはりナハトの紋章らしい。

「長く生きてると世間の柵とか色々あって、俺専用の紋章を作って魔力登録してあるんだ。俺の場合はこの紋章があるモノには手を出すなって意味で使ってるんだが」

もちろんユラを扱いするわけじゃないぞ! って慌てて否定してきたけど、別にそんなこと思ってないから大丈夫だって。

「ようは貴族の家紋のようなモノだ」
「ああ、僕のタグコレの紋章みたいな役割なんだね」

所有印みたいなモノか。
まぁ僕達の場合は番いの意味なんだろうな。

「───でもソレってもしかして、いつもキスマーク付けて歩いてるようなもんじゃないか?」

あっちの世界での指環みたいなのなら気にならないけど、この状況ってめちゃくちゃ恥ずかしくないか?

「見せつけて牽制の意味もあるな」

にっこり笑ってそう言うナハトは確信犯間違いなしだろ。

そう思って睨んだが更に笑って流された。

「さて、冒険者ギルドに行って何か依頼でも受けてみるか?」
「! 受ける。やってみたい!」

ナハトに上手く誤魔化された気がしないでもないが、冒険者らしいことをしたかった僕は一も二もなく頷くのだった。

そうして朝のごった返す時間を避けてゆっくり向かった冒険者ギルド。
足を踏み入れて早々にダオラにギルマスの執務室に連れ込まれてしまった。

「───依頼書、見たかったのに。依頼受けたかったのに・・・・・・」

ムスッとした僕を宥めるつもりなのか、ナハトが僕の頬を両手で挟んでむにむに動かしていた。

「にゃにするにょ、にゃめれ、にゃはほ」
「何言ってるか分からないな」

そう言いつつも口端が笑っているナハトに更にムッと頬を膨らますと、掌でぎゅうっと押されてぷうっと間抜けな音が口から漏れた。

「・・・・・・っぷ」
「ブフッ」
「───っく・・・・・・可愛いな!」

執務室にいたエアリアルとダオラも吹き出して、僕は気分がめちゃくちゃ下降した。
それが分かったんだろう。エアリアル達はコホンと咳払いをして謝ってきた。

「すまない。つい」
「笑って悪かった」
「・・・・・・ユラが可愛くて、スマン」
「・・・・・・むぅ。もういいよ。で? ココに連れ込んでなんの用事?」

まだちょっとムッとしていたが、話の内容によっては気分が上がるかもしれない。

「ああ、はい。実は昨日、ここの領主であるレギオン辺境伯にユラのことを報告したんです。さすがに知らせないわけにはいかなくてですね・・・・・・」
「ああ、それは仕方ない。というか後ろ盾になって貰えれば御の字だろう」

エアリアルの言葉にナハトがそう言った。ということは、まぁ信用できる相手だということだね。

「それならいいけど。その辺境伯様から何か言われた?」

面倒臭いことじゃなければいいんだけど。そう思ったことが顔に出てたのか、エアリアルが苦笑した。

「今のユラ君にはありがたいことだと思いますよ。辺境伯家直々にユラ君にを教えてくれるそうです」
「よかったねぇ、ユラ君。この世界の一般常識が分かるよぉ」

・・・・・・図らずも昨日ラヴァと話してたことが現実となった。
やっぱりフラグだったか。
ナハトも思い出したようで苦笑していた。

「・・・・・・何かあった?」

ダオラが怪訝そうな顔で聞いてきたので僕達は苦笑しながら教えてあげた。

「昨日の昼にラヴァにも言われたんだよ。一般常識を教えてくれる人探せって」
「最初、エアリアルを薦められたんだけど忙しいだろうから無理だなって言ってたの。そうしたら今の話だったから」

フラグだったなって思って。

「じゃあちょうどいいから、了承の返事を出しておきましょうか。そうすると辺境伯家に出向くことになりますが・・・・・・」

エアリアルがにこっと笑ってそう言うと、ナハトは当然のように言った。

「あ、もちろん俺も付いていくからな」
「だよねー」
「だねぇ」

僕もダオラも分かりきったようにそう言って頷いた。過保護なナハトが僕を一人にするわけないもんね。

「・・・・・・そこもきちんと付け加えて返事を書きましょう。日時の調整がついたらまた連絡しますね」
「任せた」

何やら想像したらしいエアリアルは疲れたようにそう言って溜め息を吐く。ナハトはソレを無視してエアリアルに面倒事を投げた。

僕も見ないふり。ダオラは笑っていた。

「ねえ、じゃあもう、これから何か依頼受けて冒険者稼業してもいい?」

わくわくしながらそう言うとエアリアル達も気分を変えて頷いた。

「ええ、構いませんよ。ランクに見合った依頼で好きなのを選んで怪我のないように」
「くれぐれもアチコチ破壊しないようにねぇ」

ダオラがツッコむ。───うん、ソレは約束できないかな?

「善処する」
「いやいや、そこはキッパリ気を付けるって言ってよぉ」

僕の返事に笑いながら再びダオラがツッコんで、僕達も笑って執務室を出ようとしたんだけど・・・・・・。

「ああ、ユラ君。首の所有印もそうですが、ナハトの執着が凄いですね」
「え?」
「マーキング。相当ナカに注がれたでしょう? ソレだけ匂ってたら獣人じゃなくても気付きますよ」
「・・・・・・は?」

? ? 

「・・・・・・ナハト?」

どういうことかな?
僕はブリキのようにギギギッと顔を向けてナハトを見た。
当のナハトはケロッとして言った。

「だから種付けマーキングだって言ったろう?」
「───っ聞いてないよ! 単なる匂い付けだと思ってた!」
「だから匂い付け───」
「精液の匂いだなんて言われなきゃ分かるか───っ!!」

このアホバカ無神経ー!

僕は思い付く限りの罵詈雑言を言い放って、ナハトをど突いたのだった。

















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