(仮)攫われて異世界

エウラ

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55 何も変わらない

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カーテンの隙間から仄かに差し込む柔らかい陽射しとチチチ、チュンチュンと囀る小鳥の声に意識が浮上する。

───ああ、これが朝チュンかぁ・・・・・・うん? このくだり、前にもやったような───。

まだ寝ていたいと訴える重い目蓋を何とか持ち上げると、爽やかなナハトの顔面が目の前にあって固まった。

「おはよう、ユラ」
「・・・・・・・・・・・・おはよう・・・・・・」

昨日よりもマシマシな蕩ける眼差しで耳元で囁くように挨拶をされて、顔がかぁっと熱くなった僕は挙動不審になってしまった。

いやだって、甘い、甘過ぎる!
こんな状態に今までなったことがないから、経験値がなくてどう反応していいのか全然分からない!

元々コミュ障な僕は、つい無表情で素っ気なく返してしまう。
でもナハトはそんなこと全く気にしないで、朝からずっとにこにこにこにこ。
僕はさすがに居心地悪くなって枕に顔を埋めてブスッと呟いた。

「・・・・・・お腹、空いたんだけど・・・・・・」

実際、目が覚めてから腹の虫がくうくうと鳴いているんだ。魔力不足とかではなく、単なる生理現象だと思うけど。
だって昨夜、アレだけ・・・・・・注がれたら魔力は満タンだと思うんだよね!?

「そうだな。アレだけ無茶をさせたからな。身体は大丈夫か? 起き上がれるか?」
「あー、うん。───まぁ、お尻やら下腹部に若干違和感があるくらいで、痛いとかは、ない・・・・・・し・・・・・・」

ナハトの心配げな声に普通に応えていたけど、不意に思い出した。
よく考えたら下腹部の違和感って、アレだよね!? 抜けちゃイケないとこガッツリ犯されたからだよね!?

ナハトのいう『正式な番い』のためには仕方ないことだけど、あんな・・・・・・あんな強烈にイキ地獄になるなんて思わなかった!

・・・・・・まさか、これから毎回ヤるたびにアレしてああなるのか?

「ん? どうした。・・・・・・まさか、やっぱり体調が───?」
「いや違うから。毎回奥でイかされるのかと思っただけ───」
「ああ、それなら、うん。せっかく挿入出来るようになったのだから当然いつも───」
「わーっ!! ストップ!! 止めて、それ以上言わなくていい! 分かったから!」

うっかり心の内を吐露してしまい、それに当然のように応えられて恥ずかしいやら青くなるやら。
あの濃密な夜明けの甘い空気があっという間に吹き飛んだ朝だった。

それからお互い裸だったのでサッサと着替えてリビングで昨日購入しまくった屋台飯を適当に出して、ミーノ乳を飲みながらナハトに昨夜のことや『正式な番い』のことを聞いてみた。

それによると、奥で放った精と僕の首を咬んだときに注いだナハトの吸血鬼の真祖の力で、僕の身体は今、変容中なんだとか。

全然実感ないけど。

「その変容が終われば、ナハトと同じ不老不死になっているはずなんだね?」
「そうだな。ただどれくらいで変容が終わるのかはなにぶん初めてで分からない。そもそも番いであるユラにしか使ったことがないからな」

申し訳なさそうに言うナハトに俺は苦笑する。別に細かいコトなんて気にしないのに。

「その変容は見た目とかじゃないんだね? 変容し終えたかどうやって判断するんだろう?」
「それは、たぶんだな。俺と同じかそれに近しい匂いになるらしい。まぁ本能的にそうと思うだけで根拠はないんだが」

そう言ってまた申し訳なさそうにするから、僕は素知らぬふりでサッサと次の質問にいく。
もう、そんなに気にしなくていいのに。

「あのさ、僕も食事は血になったり、とか、陽光に弱いとか。聖魔法とかで攻撃されるとヤバいとかはないの?」
「ソレはない。ユラはハイエルフのままで不老不死になるから、俺の弱点が付加されることはない。───まぁ、弱点と言えるようなモノは基本的に俺にはないが」

そりゃあね、まず日光が平気で血は飲まなくてもなんともないし、そもそも死なないんだから。
でもそういうことじゃなくて───。

「いやほら僕、普通にご飯食べるでしょ。それが食べられなくて血だけとか言われたらちょっと辛いなーって思って。アレ? そういえばナハトは食べたり飲んだりしてるね」
「栄養としてはさほど意味はないが、食べられるぞ。ただ俺はまぁ、番い以外の血は飲む気が起きないし、酒好きだから普通の食事はあまり摂らないだけだ」

だから酒以外の食品が家の保存庫や冷蔵庫に全くなかったんだよねぇ。人としてはダメだけど吸血鬼なら仕方ない・・・・・・のか?

「そういえばラヴァは呑み友なんだっけ?」
「ん? まぁ・・・・・・酒繋がりではあるな」

自分でお酒のお店開くぐらいだもんね。
それなのに僕の昼ご飯作ってくれたり心配して様子を見に来てくれたり、ナハトにお小言を言ったり───。

「ラヴァはいい人だよね」
「・・・・・・っそれは───」
「まるでお母さんみたいだね」
「・・・・・・ん?」
「え?」

思わずそう言ったら、ナハトがきょとんとしたので僕もきょとんとする。

「・・・・・・いや、何でもない。(───お母さん枠か)」

どこかほっとしたような声に首を傾げるも、ナハトはそれ以上言うことはなさそうなのでこの話は掘り下げなかった。

「ともかく。ナハトと正式に番ったとはいえ、これまでと変わらないってコトだよね?」
「おおむね、そうとらえてくれていい。あとはアレだ。ユラは全身に俺のマーキングが付いてる」
「・・・・・・はい?」

マーキングって犬や猫が自分の匂いを付けて縄張りを主張したりっていうアレ?

「人族以外はソレに気付いて、ユラには不用意に近付かなくなる」
「そんなに? てか、って」
「人族は嗅覚やそういうのを察知する感覚が弱いから分からない者がほとんどなんだ」
「・・・・・・なるほど?」

まぁ、僕としてもこの間みたいにまた絡まれて決闘とか言われても面倒だし、いっか。

───あとでエアリアルとダオラに、一般的には『マーキング』=『性交』という認識で、ヤったことがバレバレだと苦笑いで言われてナハトをシバキ倒すことになる。

一般常識、大事!













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