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48 そして思い知るチート 3
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力を抜いて自然体の状態で待つ。
辺りのざわめきは消え、感じるのは己の心臓の鼓動。
今までずっと感じてきたいつもの鼓動だ。世界が変わろうと何も変わらない。
僕は僕が出来ることを淡々と熟すだけ。
不意に現れた魔力で作られた的。
最初は初心者レベルだと言っていたから、固定されていて動かない。
そのど真ん中を撃ち抜く。するとすぐに新たな的が現れる。
それをまんじりともせずに撃ち抜いていくと、不意に動きが加わりだした。
上下左右に動きが加わり、それが一定時間過ぎると次は数が増える。
───これくらいの数なら一丁でも十分だな。
何より充填の時間がいらないし。コレは思った以上に助かるな。弾切れの心配もない。
僕は無意識に口元をニッと上げていた。
楽しくて仕方ない。
今までは淡々とルーティンで行っていた訓練だったけど、ココでは誰かを殺るために腕を磨かなくていい。
冒険者は魔獣を討伐したりするのが主な仕事だ。護衛任務もあるみたいだけど、善悪関係なく消せと命じられることもない。
純粋に戦える。
「ふふっ、もっと、もっと撃ち合いたいな」
気付けばいつの間にか上級者レベルになっていて、数も動きも半端ない事になっていた。
「そろそろ二丁必要だね」
僕はペロリと舌舐めずりをしてもう一丁をポーチから取り出すと左手でグリップを握った。
久しぶりの二丁の重みにニヤリと笑う。
「さあいこう。相棒達」
上級者レベルは僕の立っている場所を中心にぐるっと囲うように的が現れる。
顔を向けて視認していたら間に合わない速さで来るから、気配や勘を頼りに死角となる背後の的を後ろに向けた銃で撃ち抜く。
最初の立ち位置から一歩も動かず四方八方に銃を向けて撃っていると、ふと、的が出なくなった。
「───アレ? 故障?」
不思議に思ってエアリアル達を見れば、引き攣った顔のエアリアルとダオラ、それと真顔のナハトが無言で立っていた。
三人以外の視線を感じて振り向けば、離れたところにいる新人や指導役の冒険者達の唖然とした顔があった。
他にもいつの間にか増えていた冒険者が驚愕の顔で立ち尽くしていた。いけない。集中しすぎて周りを気にしてなかった。
「・・・・・・ナハト?」
「───いや、ああ、故障じゃないし不具合でもない。・・・・・・最高レベルまで全弾ミスなし、パーフェクトだったから終わっただけだ」
「・・・・・・おお、フルコンボ! やった!」
ゲームじゃないけど、つい張り切っちゃった。
「───いやいやおかしいでしょ? 中級者辺りは余裕だとしても、上級者レベルでミスなし、しかもユラ君、立ち位置から動いてないよね!?」
「うん? うん。だってあの的って出て来るだけで攻撃とか反撃しないもん。動く必要ないよね?」
ダオラがハッと我に返ってそう言うから僕は動かない理由を応えたんだけど。
「・・・・・・いや、普通は後ろから現れたら後ろ向こうとするよね? 全く視認しないで的撃ち抜いてたよね? 何なら予測してたよね!?」
「・・・・・・勘? 経験値の差?」
それ以外に何をどう言えば?
そう思って首を傾げるとダオラが片手で顔を覆って上を向いた。
「───ダメだこりゃ。手に負えないわ。ナハトさん、アンタ番いで保護者なんだからしっかり手綱握ってて下さいよ?」
そんでナハトになんか言ってる。
失礼な。僕は暴れ馬じゃないぞ。
「・・・・・・善処する」
ナハトものるんじゃない!
「ねーねー、これで終わり? ちっとも動けてないんだけど! ナハト! 僕と死合いしようよー!」
「なんか物騒な言葉が聞こえた! 死合いって何!? 殺り合うの!?」
「だってナハトくらいじゃないと怪我させちゃうかもだし?」
ダオラは接近戦はめちゃくちゃ強いけど、銃とかで殺り合うタイプじゃないと思うんだよね。それにさっき組み手したから今度は違う人に頼みたい。
エアリアルは魔法重視らしいから、それでいくと次はナハトだよね?
ナハトは不死だから本気でやっても安心出来るし。
もっとも傷付けるようなヘマはしないつもりだけどね。
「・・・・・・分かった。じゃあ今度は俺と模擬戦な。・・・・・・くれぐれも死合いじゃないぞ」
「えー・・・・・・残念」
「そこ! 残念がるんじゃない!」
エアリアルのツッコみが入ったので我慢します。
ちぇ。
辺りのざわめきは消え、感じるのは己の心臓の鼓動。
今までずっと感じてきたいつもの鼓動だ。世界が変わろうと何も変わらない。
僕は僕が出来ることを淡々と熟すだけ。
不意に現れた魔力で作られた的。
最初は初心者レベルだと言っていたから、固定されていて動かない。
そのど真ん中を撃ち抜く。するとすぐに新たな的が現れる。
それをまんじりともせずに撃ち抜いていくと、不意に動きが加わりだした。
上下左右に動きが加わり、それが一定時間過ぎると次は数が増える。
───これくらいの数なら一丁でも十分だな。
何より充填の時間がいらないし。コレは思った以上に助かるな。弾切れの心配もない。
僕は無意識に口元をニッと上げていた。
楽しくて仕方ない。
今までは淡々とルーティンで行っていた訓練だったけど、ココでは誰かを殺るために腕を磨かなくていい。
冒険者は魔獣を討伐したりするのが主な仕事だ。護衛任務もあるみたいだけど、善悪関係なく消せと命じられることもない。
純粋に戦える。
「ふふっ、もっと、もっと撃ち合いたいな」
気付けばいつの間にか上級者レベルになっていて、数も動きも半端ない事になっていた。
「そろそろ二丁必要だね」
僕はペロリと舌舐めずりをしてもう一丁をポーチから取り出すと左手でグリップを握った。
久しぶりの二丁の重みにニヤリと笑う。
「さあいこう。相棒達」
上級者レベルは僕の立っている場所を中心にぐるっと囲うように的が現れる。
顔を向けて視認していたら間に合わない速さで来るから、気配や勘を頼りに死角となる背後の的を後ろに向けた銃で撃ち抜く。
最初の立ち位置から一歩も動かず四方八方に銃を向けて撃っていると、ふと、的が出なくなった。
「───アレ? 故障?」
不思議に思ってエアリアル達を見れば、引き攣った顔のエアリアルとダオラ、それと真顔のナハトが無言で立っていた。
三人以外の視線を感じて振り向けば、離れたところにいる新人や指導役の冒険者達の唖然とした顔があった。
他にもいつの間にか増えていた冒険者が驚愕の顔で立ち尽くしていた。いけない。集中しすぎて周りを気にしてなかった。
「・・・・・・ナハト?」
「───いや、ああ、故障じゃないし不具合でもない。・・・・・・最高レベルまで全弾ミスなし、パーフェクトだったから終わっただけだ」
「・・・・・・おお、フルコンボ! やった!」
ゲームじゃないけど、つい張り切っちゃった。
「───いやいやおかしいでしょ? 中級者辺りは余裕だとしても、上級者レベルでミスなし、しかもユラ君、立ち位置から動いてないよね!?」
「うん? うん。だってあの的って出て来るだけで攻撃とか反撃しないもん。動く必要ないよね?」
ダオラがハッと我に返ってそう言うから僕は動かない理由を応えたんだけど。
「・・・・・・いや、普通は後ろから現れたら後ろ向こうとするよね? 全く視認しないで的撃ち抜いてたよね? 何なら予測してたよね!?」
「・・・・・・勘? 経験値の差?」
それ以外に何をどう言えば?
そう思って首を傾げるとダオラが片手で顔を覆って上を向いた。
「───ダメだこりゃ。手に負えないわ。ナハトさん、アンタ番いで保護者なんだからしっかり手綱握ってて下さいよ?」
そんでナハトになんか言ってる。
失礼な。僕は暴れ馬じゃないぞ。
「・・・・・・善処する」
ナハトものるんじゃない!
「ねーねー、これで終わり? ちっとも動けてないんだけど! ナハト! 僕と死合いしようよー!」
「なんか物騒な言葉が聞こえた! 死合いって何!? 殺り合うの!?」
「だってナハトくらいじゃないと怪我させちゃうかもだし?」
ダオラは接近戦はめちゃくちゃ強いけど、銃とかで殺り合うタイプじゃないと思うんだよね。それにさっき組み手したから今度は違う人に頼みたい。
エアリアルは魔法重視らしいから、それでいくと次はナハトだよね?
ナハトは不死だから本気でやっても安心出来るし。
もっとも傷付けるようなヘマはしないつもりだけどね。
「・・・・・・分かった。じゃあ今度は俺と模擬戦な。・・・・・・くれぐれも死合いじゃないぞ」
「えー・・・・・・残念」
「そこ! 残念がるんじゃない!」
エアリアルのツッコみが入ったので我慢します。
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