(仮)攫われて異世界

エウラ

文字の大きさ
上 下
48 / 81

45 そして思い知るチート 1

しおりを挟む
というわけで、早速ハンドガンを一丁ポーチから取り出す。

とりあえず試し撃ちなので、今はダブルショルダーホルスターは身に着けない。
このあとに今までのようにポーチから出さないスタイルで確認するつもり。

「それが昨日使ってたガンか」

僕がくるくる回して不備がないかとか持ち手の感触とか確認していると、興味津々のナハトに声をかけられた。

「うん。これと同じのがもう一丁あるんだけど、僕専用にカスタマイズしてあるから他の人は使えないよ。もちろんナハトもだけど」

そう言うとナハトは頷いて言った。

「当然だな。自分の命を預ける武器を他人に使わせるなんてそもそもしない。それに俺の武器は銃じゃないから使うことはないし」
「あー、そういえばナハトはどんな武器なのか聞いても大丈夫? 普通は手の内を明かさないと思うけど・・・・・・」

僕は昨日大っぴらに使ったからナイフと銃はすでに隠す気ないけどね。

「構わない。隠すほどじゃないし知られても俺に勝てるヤツなんて早々いないし」
「確かに! Sランク冒険者だもんね」

ナハトがドヤ顔で言ったので、また笑ってしまった。
この人、俺に褒めて欲しすぎ。可愛いかよ。

「俺は腰に佩いた長剣ロングソードと魔法、あとはあまりやらんが、自分の血を使った攻撃が出来る」
「・・・・・・血?」

何かヤバそうな技? っぽいのが聞こえたんだけど?

「ああ、自分の血をこう、血管を傷付けて流れ出た血を自在に操る能力だ。鞭にしたりナイフにも出来るぞ」
「・・・・・・うわあ・・・・・・でも使うときに血が流れてる状態になるってことでしょ? 想像しただけでも痛そう・・・・・・」

攻撃を食らっても自分で切っても結局痛いんじゃん。
それに───。

「そのとき使った血はどうなるの? 消えちゃうの? それとも身体の中に戻せるの?」

僕が眉をひそめて聞くと、ナハトはなんでもない様に言った。

「一度出た血はさすがに戻らないな。大量に出血すれば貧血で倒れることもある」

実際、過去に一度倒れたとか言ってるけど、それってナハトじゃなかったら死んでる案件じゃないの!?

「貧血で瀕死の吸血鬼・・・・・・そんなナハトは見たくない・・・・・・」

思わず想像してヘンな顔になった僕を見て苦笑するナハト。

「あのときは確かベヒーモス討伐依頼で他のSランク冒険者達と共闘して、さすがに手強かったんだよな。デカかったし」
「・・・・・・ベヒーモス・・・・・・」

───って、小説なんかの知識で名前くらいしか知らないけど、強そうな魔獣だって何となく分かる。でもSランク冒険者達と一緒に戦って死にかけてるって、その魔獣、相当ヤバかったんだな・・・・・・。

「生きててよかったね、ナハト」

思わずそう言えば、ナハトにぎゅっと抱きしめられた。

「───俺にそんなことを言うヤツなんかほとんどいないよ。・・・・・・ありがとう」
「どういたしまして?」

・・・・・・まあ、ナハトの知り合いはたぶんナハトが不死身だって知ってるだろうし、知らなくてもSランクなんてめっちゃ強くて不死身くらいの認識がされてるかもしれないし。
だから心配されないのが当たり前になってるんだろうな。

僕はナハトと根本的なところが違うけど、生きててよかったとか心配なんてされたことないから、気持ちは何となく分かるよ。

───だから。

「僕でよければいつでも何度でも言ってあげるよ。生きて、僕と出逢ってくれてありがとう」
「───っユラも・・・・・・ユラも生きていてくれてよかった。ありがとう、俺の元に来てくれて」

そう言ったナハトは少し声が震えていて、僕もナハトのその言葉に不覚にも泣きそうになってぎゅっと抱きしめ返した。

───生きてる。

ナハトと分け合える熱が嬉しくて、僕達はしばらく抱き合っていたのだった───。

「・・・・・・どうする?」
「・・・・・・もの凄く近付きにくいよねぇ」
「何をどうしたのか分からないが完全に二人の世界だな」
「面白そうだからこのまま傍観してようか?」

遠くで呟くエアリアルとダオラの声が耳に入るまで、たぶん数分くらいだったと思うけど。

───うーわー! そうだった! ここ、鍛錬場だったよ! 他にも冒険者達もいたじゃんか!

僕は我に返って恥ずかしくなり、ナハトの胸に顔を埋めてぐりぐり。ナハトは僕のつむじ辺りをちゅっちゅと口付けている。

「───あーあ、ナハトさん、デレッとした顔をしちゃって・・・・・・」
「ユラ君は真っ赤な顔で死にそうですね。いい加減助けましょうか」
「お前ら、寄るな見るな近付くな!」

そう言いながら近付いてきたエアリアル達をそう言って威嚇するナハトが警戒心丸出しの猫っぽくて、僕は思わず吹き出した。

「───っふ、ははっ、ナハト可愛いな」
「───は?」
「へ?」
「・・・・・・この人のドコに可愛げが?」

僕の言葉にナハトが固まり、ダオラはキョトンとし、エアリアルは眉をひそめてそう言った。

「ナハトの可愛さは僕だけが知っていればいいよ。ね?」
「・・・・・・まあ、そうだな?」

思いっきり疑問形のナハトに更に笑う僕を見て、皆はまあいいかとなったらしい。

「ところで試し撃ち? 確認はこれからです?」
「うん。ちょうど始めるところ」

僕がそう言ったら二人ともぱあっと瞳を煌めかせた。

「間に合った! じゃあまた私達も見学していい?」
「もちろん」
「まあ、その方がいいな」
「・・・・・・何やら含みのある言い方だね?」
「アレを見れば分かる」

ナハトの言い様にエアリアルがそう返せば、ナハトが顎で向こうを指した。

その先はさっき僕が直した地面と壁。
すでにドコが凹んでたのかも分からないほど綺麗に直ったところだ。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・なるほど。言いたいことは分かった」

ダオラは無言で笑顔のまま固まり、エアリアルは渋い表情で絞り出すように呟いた。
ああ、うん。
やっぱりちょっとおかしいんだね?

「・・・・・・試し撃ちやってもいい?」

ちょっと気まずくなった僕は、空気を変えようとそう言って笑った。












しおりを挟む
感想 108

あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

箱庭

エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。 受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。 攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。 一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。 ↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。 R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...