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35 地下鍛錬場での確認作業 2
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鍛錬場の一画に集まる異様なメンバーのグループを、訓練などで利用していた冒険者達がその手を止めて見つめている。
昨日の決闘騒ぎを知っているのだろう。
だがそんな空気をモノともしないのがその異様なグループである僕達四人だ。
僕はとりあえずローブを脱いで腰のポーチにしまうと、ナハトに尋ねた。
「ねえ、ナハト。この三人で体術が得意な人って誰?」
「そりゃあダオラだろうな」
「私は見ての通り、肉弾戦は苦手ですね」
「そうだねぇ。私が一番でしょうね」
うん、思った通りダオラだった。ガッチリ体型で格闘家っぽいもんね。
「じゃあ、ウォーミングアップに組み手の相手をして貰っても? 加減はいいようにしてくれて構わないから」
「え、いいの? 結構強いと自負してるけど。もちろん様子を見て加減はするけどね」
「うん。最初は軽く始めて、徐々にギアを上げていく感じかな」
気負いもなくそう言う僕に、昨日の決闘での動きを思い出したのか三人とも納得したようだ。
「まあ、アレだけ動けてるのに全然余裕っぽかったからね」
「ドコまで動けるのかわくわくするねぇ」
「・・・・・・一応、怪我には注意してくれ」
ダオラはウキウキしていて、ナハトは渋い顔でダオラに注意していた。
ナハトがそう言うってことは、やっぱり相当強いんだろうな。サブギルマスやるくらいだもんな。
これはもしかしてダオラの戦闘力を基準にしちゃいけないレベルかも?
でも全く初対面の冒険者には頼めないし仕方ない。
「とりあえず限界値に達するまで組み手やろうと思うんだけど、ナハト達から見てヤバいと思ったら止めてくれる?」
マジで止め時が分からなくなるかもしれない。
「分かりました」
「ああ、そのときはダオラを気絶させて止める」
「おおい、ちょっとナハトさぁん!?」
酷いよねぇ、とぼやくダオラにクスッと笑って、ナハト達から離れた場所に移動する。
「じゃあよろしくお願いします」
「ええ、いつでもいいですよ」
二人の距離はおよそ五メートル。向かい合ってそう言うと、僕は先手必勝とばかりに足を踏み込んだ。
昨日よりも力を入れたからか、ソレとも今日は身体が軽いせいか、踏み込んだ足元の地面がボコッと沈んだ。
その勢いのまま加速してダオラに肉薄すると、ちょっと驚いたように目を瞠ったダオラが僕の右拳を左手で受け止めてニヤリと笑った。
「───へえ。面白い」
「───っ」
いつものへらっとした気配が瞬時に消えて、瞳が好奇心に満ち、獰猛な牙を剥きだしてきた。
───何か、スイッチ入った!
咄嗟に距離を取るとあとを追うように踏み込んでくる。
ソレをステップで横に躱すと同じように跳んできて、今度はダオラが攻撃を繰り出してきた。僕はソレを受けずにぎりぎりで躱す。
───いちいち受け止めてたら腕がヤバいって。
元々のパワータイプに加えてあの体格だ。まともにやり合ったら速攻でスタミナ切れだ。
出来るだけ避けないと。
そうしてウォーミングアップのはずが最初からトップスピードでの組み手が始まった。
僕はなるべく避ける。ダオラはお構いなしに拳を繰り出す。
僕達の周囲は、ものの十数分で地形が変わるほどボコボコになった。
お互い、ダメージは受けないものの足場が悪くなったせいで僕は窪みに足を取られて体勢を崩した。
「───っしまっ・・・・・・!」
その隙を見逃すはずもなく、眼前には瞳を爛々とさせたダオラの拳が迫ってきて───。
───あ、コレは食らうな。
死にはしないと思うがかなりの衝撃が来るな、骨折れるかもと思いながら衝撃を減らすために腕を交差して身構えていたが、拳を食らう寸前、ダオラは横に吹っ飛び僕は何かに包まれていた。
・・・・・・あ、コレ、ナハトのローブだ。彼の匂いがする。
ダオラが吹っ飛んだと思われる壁がドコンッと凄い音を立てて崩れたのが目の端に見えた。
・・・・・・大丈夫だろうか?
「───っオイコラ、ダオラ! 怪我さすなって言っただろうが!」
間髪入れずにナハトが怒声を浴びせる。
「・・・・・・ごめぇん・・・・・・楽しくって、つい忘れちゃってぇ・・・・・・」
ダオラは無事なようだ。いつもの口調に戻って、がれきの中からムクッと起き上がると埃を払っている。
どうやらナハトが約束通りにダオラを殴って止めてくれたらしい。
そういえば僕も夢中になっててナハト達のことをすっかり忘れてた。
「ユラ君の確認作業でやってたのに、この戦闘狂が!」
エアリアルにもべしっと頭を叩かれていて罰が悪そうなダオラ。
アレかな、武器を持つと人が変わるタイプ。穏やかそうな人ほど怒ると怖いみたいな?
「ごめんなさいねぇ、ユラ君。強いからこう、血が騒いじゃってぇ」
「いや、僕もここまでやることになるとは思ってなかったんで大丈夫。まあ、身体の動きは確認できたし? でもダオラさん、強いねー」
「私も久々にちょっと本気出しちゃったよぉ」
そうお互い言い合いながら戦闘後の地面を見ると、クレーターと言っていいくらいの穴がアチコチ開いていた。
何ならダオラがツッコんだ壁だった場所も大きく穴が開いてる。
「・・・・・・えーと、コレ、大丈夫?」
まだコレから銃とかナイフとか魔法もやりたいんだけど・・・・・・。修復とか、お金と時間が必要ですか? 僕、無一文ですけど。
「・・・・・・うん」
「・・・・・・まあ」
「・・・・・・たぶん?」
「一応、魔法で強度上げてあるんだけどね。普通ならここまで破壊されないんだけどね」
「・・・・・・へぇ」
エアリアルの言葉に僕は遠い目をした。要するにやり過ぎってことだよね?
四人ともソレからしばらく無言だった。
いや、正確には鍛錬場にいた全員が無言で固まっていた───。
昨日の決闘騒ぎを知っているのだろう。
だがそんな空気をモノともしないのがその異様なグループである僕達四人だ。
僕はとりあえずローブを脱いで腰のポーチにしまうと、ナハトに尋ねた。
「ねえ、ナハト。この三人で体術が得意な人って誰?」
「そりゃあダオラだろうな」
「私は見ての通り、肉弾戦は苦手ですね」
「そうだねぇ。私が一番でしょうね」
うん、思った通りダオラだった。ガッチリ体型で格闘家っぽいもんね。
「じゃあ、ウォーミングアップに組み手の相手をして貰っても? 加減はいいようにしてくれて構わないから」
「え、いいの? 結構強いと自負してるけど。もちろん様子を見て加減はするけどね」
「うん。最初は軽く始めて、徐々にギアを上げていく感じかな」
気負いもなくそう言う僕に、昨日の決闘での動きを思い出したのか三人とも納得したようだ。
「まあ、アレだけ動けてるのに全然余裕っぽかったからね」
「ドコまで動けるのかわくわくするねぇ」
「・・・・・・一応、怪我には注意してくれ」
ダオラはウキウキしていて、ナハトは渋い顔でダオラに注意していた。
ナハトがそう言うってことは、やっぱり相当強いんだろうな。サブギルマスやるくらいだもんな。
これはもしかしてダオラの戦闘力を基準にしちゃいけないレベルかも?
でも全く初対面の冒険者には頼めないし仕方ない。
「とりあえず限界値に達するまで組み手やろうと思うんだけど、ナハト達から見てヤバいと思ったら止めてくれる?」
マジで止め時が分からなくなるかもしれない。
「分かりました」
「ああ、そのときはダオラを気絶させて止める」
「おおい、ちょっとナハトさぁん!?」
酷いよねぇ、とぼやくダオラにクスッと笑って、ナハト達から離れた場所に移動する。
「じゃあよろしくお願いします」
「ええ、いつでもいいですよ」
二人の距離はおよそ五メートル。向かい合ってそう言うと、僕は先手必勝とばかりに足を踏み込んだ。
昨日よりも力を入れたからか、ソレとも今日は身体が軽いせいか、踏み込んだ足元の地面がボコッと沈んだ。
その勢いのまま加速してダオラに肉薄すると、ちょっと驚いたように目を瞠ったダオラが僕の右拳を左手で受け止めてニヤリと笑った。
「───へえ。面白い」
「───っ」
いつものへらっとした気配が瞬時に消えて、瞳が好奇心に満ち、獰猛な牙を剥きだしてきた。
───何か、スイッチ入った!
咄嗟に距離を取るとあとを追うように踏み込んでくる。
ソレをステップで横に躱すと同じように跳んできて、今度はダオラが攻撃を繰り出してきた。僕はソレを受けずにぎりぎりで躱す。
───いちいち受け止めてたら腕がヤバいって。
元々のパワータイプに加えてあの体格だ。まともにやり合ったら速攻でスタミナ切れだ。
出来るだけ避けないと。
そうしてウォーミングアップのはずが最初からトップスピードでの組み手が始まった。
僕はなるべく避ける。ダオラはお構いなしに拳を繰り出す。
僕達の周囲は、ものの十数分で地形が変わるほどボコボコになった。
お互い、ダメージは受けないものの足場が悪くなったせいで僕は窪みに足を取られて体勢を崩した。
「───っしまっ・・・・・・!」
その隙を見逃すはずもなく、眼前には瞳を爛々とさせたダオラの拳が迫ってきて───。
───あ、コレは食らうな。
死にはしないと思うがかなりの衝撃が来るな、骨折れるかもと思いながら衝撃を減らすために腕を交差して身構えていたが、拳を食らう寸前、ダオラは横に吹っ飛び僕は何かに包まれていた。
・・・・・・あ、コレ、ナハトのローブだ。彼の匂いがする。
ダオラが吹っ飛んだと思われる壁がドコンッと凄い音を立てて崩れたのが目の端に見えた。
・・・・・・大丈夫だろうか?
「───っオイコラ、ダオラ! 怪我さすなって言っただろうが!」
間髪入れずにナハトが怒声を浴びせる。
「・・・・・・ごめぇん・・・・・・楽しくって、つい忘れちゃってぇ・・・・・・」
ダオラは無事なようだ。いつもの口調に戻って、がれきの中からムクッと起き上がると埃を払っている。
どうやらナハトが約束通りにダオラを殴って止めてくれたらしい。
そういえば僕も夢中になっててナハト達のことをすっかり忘れてた。
「ユラ君の確認作業でやってたのに、この戦闘狂が!」
エアリアルにもべしっと頭を叩かれていて罰が悪そうなダオラ。
アレかな、武器を持つと人が変わるタイプ。穏やかそうな人ほど怒ると怖いみたいな?
「ごめんなさいねぇ、ユラ君。強いからこう、血が騒いじゃってぇ」
「いや、僕もここまでやることになるとは思ってなかったんで大丈夫。まあ、身体の動きは確認できたし? でもダオラさん、強いねー」
「私も久々にちょっと本気出しちゃったよぉ」
そうお互い言い合いながら戦闘後の地面を見ると、クレーターと言っていいくらいの穴がアチコチ開いていた。
何ならダオラがツッコんだ壁だった場所も大きく穴が開いてる。
「・・・・・・えーと、コレ、大丈夫?」
まだコレから銃とかナイフとか魔法もやりたいんだけど・・・・・・。修復とか、お金と時間が必要ですか? 僕、無一文ですけど。
「・・・・・・うん」
「・・・・・・まあ」
「・・・・・・たぶん?」
「一応、魔法で強度上げてあるんだけどね。普通ならここまで破壊されないんだけどね」
「・・・・・・へぇ」
エアリアルの言葉に僕は遠い目をした。要するにやり過ぎってことだよね?
四人ともソレからしばらく無言だった。
いや、正確には鍛錬場にいた全員が無言で固まっていた───。
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