（仮）攫われて異世界

34 地下鍛錬場での確認作業 １

冒険者ギルドに来た僕とナハトは、ひとまず受付に声をかけてからエアリアルの執務室に向かった。

「やあ、おはよう。ついさっきラヴァから聞いたよ。元気そうでよかった」
「おはようございます。まあ、ソレなりに？」
「おはよう、エアリアル。さすがに大切なユラを壊さないぞ」

ナハトの言葉に、よく言うよと内心思ったが顔には出さずにエアリアルに地下鍛錬場の使用を尋ねる。

「ああ、どれくらい動けるのかの確認は必須だよね。私達も気になるから覗いてもいいかな？」

エアリアルが和やかに笑ってうんうんと頷いてそう言った。

「僕は別に構わないけど、ナハトは？」

ナハトが嫌がるなら断るけど、エアリアル達との関係を思うとソレはないかな？
案の定───。

「俺も構わない。むしろ何かあったときのためにエアリアルがいると助かる」
「そうだね。あー、ダオラも呼んだ方がいいかな？」
「───呼んだぁ？」
「早っ！」

エアリアルは魔法が凄いらしいし、ダオラは格闘が得意っぽい見た目だもんな。何かあれば対処してくれそう。ギルドのお偉いさん達だし。

そう思っていたら前触れもなくパッと執務室に現れたダオラに驚いた。あの大きな身体で気配なく素早く動けるって凄いよね。

「さっきナハトさん達が来たって職員が教えてくれてさぁ」

そう言いながらさり気なく僕の頭をポンと撫ぜてナハトに手を叩かれていた。相変わらずだな。

「じゃあ早速行きますか」
「え、もう？　僕はいいけど･･････」

そう言って席を立つエアリアルに仕事はいいのかと聞くと───。

「ココの部下達は優秀だからね」

そう言った笑顔がちょっと黒く見えたので、僕は黙ってスルーした。

───部下の人達ごめんなさい。そしてご愁傷様です。余計な仕事を増やしちゃったかも。

僕は心の中で手を合わせた。

そして移動した鍛錬場では、朝早いのにも関わらず、結構な人数の冒険者達が特訓したり確認作業をしていた。

「模擬剣とかの武器も無料で貸し出してるから、いろんな武器で適性を見られたりするし、熟練度を上げたりね」
「武器を変えたいけど手持ちがないとか、持ってても適性がなかったらもったいないでしょ？」
「確かに、ソレは助かるな」

ふと隅の方を見ると、鍛錬中のグループに新人らしい冒険者達数人がベテラン冒険者の指導を受けているのが見えた。

「アレは？」
「ああ、新人教育のカリキュラムがあって、新人は受講を義務づけているんだ」
「中には生活のため仕方なく冒険者になる者もいるし、初めて武器を持つ者もいるからな。死なないようにある程度の指導をするんだよ」

僕の疑問にエアリアルとダオラがそう教えてくれた。
確かに僕みたいに物心つく前から訓練するようなことは普通はないよな。

「いい制度だね」

チュートリアル大事。

「冒険者になるということはいつ死ぬか分からないリスクを負うということだ。自己責任だが出来ればすぐに命を散らして欲しくはないからね」

ちょっと寂しそうに笑うエアリアル達は、コレまで数え切れないほどの死を見てきたんだろう。長寿だって話だし。

だから見た目子供な僕を過保護なまでに心配するのかもしれない。

───じゃあ、安心させるためにも僕は全力で力を示さないとな！

そう意気込んだ俺の心情など知りもしないナハト達を、このあとの僕は放心させて別の意味で更に心配させることになる。