(仮)攫われて異世界

エウラ

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閑話 五十嵐アリスだった者 2(sideティアリスティア)

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※注意・途中で無理矢理行為に及ぶという表現が少し入ります。(本番の描写はありませんが、苦手な方は御自衛をお願いします)


それは不意にやって来た。

「失礼。こちらにアリスというお嬢さんがいると窺ったのだが」

そう言ってやって来た男は、部下や護衛をたくさん連れた日本の有名なIT企業の五十嵐グループの総帥で五十嵐我狼いがらしがろうと名乗った。
何でも商談のためにこの国に来ていて、どこからか私の噂を聞いたらしい。

今はテレンスもリサーナも不在で、仕方なく客間に通してもてなす。

「美しく可愛らしい妖精のような女性がいると。ならばぜひ一目会って、よければ私の伴侶となって貰いたいとね」
「・・・・・・慎んでお断りします。私にはすでに夫も子供もおります」
「おや? ですが未婚ということになっていますよね? まあ、子供は仕方ないですが」
「・・・・・・」

事前にしっかりと調べて来たのだろう。当然、夫は存在しない。だけど既婚者であり、運命の番いであるノスタルジア以外とどうこうなるつもりはなかった。

不意に扉の方からユーリディスの声が聞こえて、慌てる。

「───まぁ?」
「───っ!? ユラ!」

お昼寝から起きてしまったユーリディスが私を探してここまで来てしまったようだ。
慌てて席を立って抱えて隠そうとするも、この男はユーリディスを見てニヤリとイヤな笑みを浮かべた。

「可愛らしい御子息だ。君にそっくりで。何、心配いらない。その子も私の養子に迎え入れよう。何不自由なく過ごさせるよ」

この男はユーリディスが私の宝物だと一瞬で見抜いた。
だから手元に置いて私を脅す材料にしようと、まさにそう計算したのだろう。

事実、ユーリディスに何かされたら私は───。

「それにご厄介になっている老夫婦にもそれなりの支援を約束するよ」

・・・・・・テレンスとリサーナも脅しの材料にする気か。

「二日後にまた来るから。いい返事を期待しているよ」

一方的に告げて去って行った男の後ろ姿を睨みつける。
やがて帰宅したテレンス達にはすでにあの男の手が回っていて、帰って来るなり喜びの声でお祝いされた。

「アリス、おめでとう! 日本の大企業のトップの方だそうで」
「見初められたんだって? 男前のいい人じゃないか。ユーリディスも養子にしてくれるって?」
「さっき私達のところに来て、アリスが受け入れてくれたって言ってて。玉の輿だねぇ」

───すでに了承する前提で先に外堀を埋めてきた。何が二日後だ。断れないように仕向けておいて、白々しい。

いくつもの策を練るものの、結局今の私には逃げる道すら残されていないのだと思い知らされるだけだった。

こうして私は逃げることが出来ずに、ユーリディスと一緒に日本へ連れて行かれ、五十嵐アリスとしての生活が始まる───。

ユーリディスはユラとして一応、五十嵐の家名を名乗らせているが、実際は養子縁組をされていない。これは私がユラを遠目で見かけたときに鑑定魔法で気付いた。

あの男は日本へ来てすぐに『乳母にユラを世話させる』と言って私から引き離し、以来、何年もまともに顔を合わせることも出来なかった。

ユーリディスが連れて行かれたあと、あの男に無理矢理抱かれて吐き気がした。
心が、身体が拒絶しているのに、媚薬のようなものを飲まされ、身体がいうことをきかない中での夜伽は苦痛で、何度か行われるうちに心は疲弊し、現実逃避をしだした。

ここには今、最愛のノスタルジアがいて、私はノスタルジアに抱かれている───そう思わなければ死んでしまいそうだった。

でも死ねない。
───ノスタルジアと約束したから。
『何があっても生きていれば何とかなる』
そう言って笑ったノスタルジアの言葉を裏切れない。
何より、貴方との大切な子を残して逝けない。

やがて双子を産む頃には、ユーリディスはいつの間にか暗部の一員として戦闘訓練を受けていて、私を言葉で何となく母親と認識しているようだったが、その瞳には自分に似たタダの女性としか映っていないようだった。

辛くて、哀しくて、そして何より守ってあげられなかった罪悪感から、更に現実逃避をして。


───そして今、ユーリディスを失った私には何も怖いものはない。

ずっとこの二〇年間、魔力を蓄えていた。
地球という星にも魔力は大気中にわずかにあって、そのおかげでタグに篭められた魔法が発動できていた。
でもそれが精一杯で、五十嵐我狼を追いやるだけの魔力には全然足りない。

だから私はそちらに力を注ぐのを諦めて、万が一の時のために己に魔力を溜め続けた。

───死をきっかけに発動する特殊な魔法。

上手くいけばぎりぎり死なないかもしれない。

ユーリディスとは会える機会がなくて教えていないけど、ユーリディスの持つあのタグにもこの魔法を組み込んでおいた。
そしてそれが上手く発動したら、今は強制的に発動しているあのタグの隠蔽・解除が任意で出来るようにもしてある。
そのときにはハイエルフの姿に戻ってしまうけど、生きていれば、ユーリディスならきっと上手くやれるでしょう。

これは愛しい人の元へ転移する魔法。運命の番いに死に際に一目でもいいから逢いたいと願う、そのためだけに生み出された魔法。

ここは地球という異世界で、来たときは偶然だったかもしれない。帰ることは出来ないかもしれない。
・・・・・・魔力が保つか分からないから。

でもそれでもいい。

ユーリディスも、貴方もいないこの異世界で命を終わらせるくらいなら、万に一つの可能性にかけるわ。

・・・・・・心残りがあるとすれば、テレンス達とあの双子のこと。
命の恩人と、あの男との子だけれど間違いなく私の産んだ子供達。

子供達は可愛い。極力関わりを絶たれていて交流はほとんどなかったけど。

それでも心ではユーリディスと同じように愛してたわ。

「───さようなら。私は帰ります」

愛しいノスタルジアと、きっといるだろうユーリディスのが待つ、あの世界へ───。

そしてユーリディスの消えた海辺に身を投げて───。


───私は賭けに勝った。

ティアリスティアという自分の名前とノスタルジアという愛しい人の名前、そしてユーリディスという小さな赤ちゃんの記憶だけを残して───。

「───ア・・・ス───っ! ティアリスティアっ! よくぞ、無事で・・・・・・! この四〇〇年あまり、どれだけ探して心配したか───」

その愛しい人が今、目の前にいる。

それだけしか分からない。
ほとんどの記憶を失って、私は生きて帰ってきた───。






※ユラの母親の事情でした。
最低なのはあのクズです。

作者的にはこの人に関してはメリバかなと。ただ戻ってきたあとは地球での出来事を皆知らないので周りはハッピーエンドかも。

あと、前にユラの持つ王族の証のタグに出てた『任意での姿変えの幻惑魔法や隠蔽魔法の発動・解除の条件クリア』ですが、実はこういう条件でした。
ユラは海で波に攫われて死にかけたので条件クリアになったのです。そして運命の番いに出逢います。

あと、地球とは時間の流れが違います。まさに時空を超えたので。地球では20年ですが異世界(故郷)では400年経ってましたとさ。まさに浦島○郎。

こちらも補足多くてスミマセン。
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