(仮)攫われて異世界

エウラ

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24 アムリタの街 1

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「じゃあまたあとで」
「何かあればいつでもどうぞ」
「ナハトさんが無理矢理迫ってきたら遠慮なく蹴り上げなさいねぇ。ドコとは言わないけど」
「オイコラ」
「はい、また」

ほのぼのとした会話をしながらエアリアル達と執務室で別れて、僕とナハトは冒険者ギルドを出た。
これから予定していた買い物に向かう。

一階ではもの凄い視線を感じたけど、僕はフードを深く被って無視していたから誰がどんな視線を送っていたのかは知らない。
ナハトはしっかりチェックしていたようだから別にいい。何かあればナハトが対処してくれるだろう。

「ねえナハト、どこに行くの?」
「最初に服屋だな。俺のを着ているユラも魅力的だが、そうなると誰にも見せたくないから家から出したくない。今日は仕方ないが、さすがに動きづらいだろう?」

・・・・・・サラッと今、変態チックなことを言ったな、ナハト。監禁はヤメロ。僕はスルーする。何も聞いてないよ。

「うん、やっぱり身体のサイズに合わせた服が欲しい。着替えも全然ないから」
「俺が選ぶよ。───その服を夜、俺が脱がして・・・・・・」

何やらブツブツと言っているナハトを怪訝に思いながら俺はお任せすることにした。
だってこっちの服のデザインとか品質とか全然分からないから。
まあナハトやエアリアル達を見ると、そこまで元の世界地球と乖離してはいないみたいだけどね。

ちなみに今もずっとナハトに抱き上げられて移動中だ。今日はもう諦めた。
でもさすがに筋力が落ちるから毎日は止めて貰おう。

大通りをナハトが通り過ぎるたびに歓声やざわめき、様々な視線が集まる。
・・・・・・そうか、最初に冒険者ギルドに向かったときは僕達にだけ防音魔法使ってたから静かだっただけで、いつもナハトはキャーキャー言われているんだな。

残念なイケメンでもイケメンはイケメンだもんな。・・・・・・羨ましくなんかないぞ。僕はこれでもカッコいい部類の男・・・・・・の、はず・・・・・・。

「アレ、ナハトさんじゃないか! 朝も見かけたけど、抱き上げてるその子、誰なんだい?」

不意に声がかかって、ナハトが足を止めた。
勇者だ、勇者がいる。こんな大注目の中を話しかけてくる勇者がいる!
ちなみに僕は今は周りを観察しながら全方位に神経を向けていたから、近付いてきた気配に驚きはしない。

「ああ、果物屋の店主か。・・・・・・彼は俺の番いだ」
「へえ、番い───番い!? アンタ、番いがいる種族だったのかい!? あたしゃ、てっきり人族かと・・・・・・」
「まあ・・・・・・。これからは食料を買いにちょくちょく来るだろうからよろしく頼む」

ナハトはついでとばかりに快活な果物屋のおばさんにそう言った。

・・・・・・そういえばナハトの種族って聞いていないな。何なんだろう。もっともどんな種族がいるのか全然分からないけど。
エアリアルは精霊族でダオラは龍人族って言ってたよね?
このおばさんは頭に犬みたいなケモ耳と後ろには尻尾らしきモノが見える。

・・・・・・犬の獣人? 獣人もいろんなタイプがあるのかな?

「あいよ、任しときな! 近所の店にも話しとくよ。えーと、番いの・・・・・・もしかしてまだ子供?」
「いえ、成人してます。あの、ユラと言います。よろしくお願いします」

そう言ってフードを少しずらして顔を見せた。じゃないと認識して貰えないだろうから。
するとポカンとしたおばさんがボソッと言った。

「・・・・・・エルフ?」
「え?」
「ナ、ナハトさん、アンタ・・・・・・番い・・・・・・エルフなのかい!?」
「・・・・・・まあそうだが」

厳密にはハイエルフだけど。

ナハトが執務室のときと違って無表情で応えていると、おばさんが慌てて叫んだ。

「いやアンタ、アンタがどんな種族か知らないが、早く番いになって魂を繋げないと大変だろう!?」

それを聞いた僕は意味が分からずに首を傾げた。

「番って、魂を繋ぐ? って何?」

ナハトに小声でそっと尋ねたら、ハッとして僕を見た。

「───ああ、家に帰ったら説明する。とりあえず必要なモノを買い揃えよう。すまない、店主。これで失礼する」
「あ、いぃえぇ! ごめんなさいね、邪魔しちゃって! またね」
「さようなら」

よく分からないままおばさん店主と別れて、当初の目的の場所である服屋に着いた。

・・・・・・僕にはよく分からないけど、たぶんこの店構えはけっこうな高級店ぽい。
ナハトは僕を抱き上げたまま大きな扉を開けて店内に入る。

すると出入り口付近に警備員ぽいガタイのいい男とビシッとスーツを来た店員らしい若い男、奥に店主だろうと思われる壮年の紳士がいるのが見えた。

やっぱり高級店じゃん。

ナハトにしがみ付いて後ろ向きになった僕は、いつもの癖で退路や警備員の配置をチェックしてしまい、そのせいで出入り口付近にいた厳つい警備の男の人と目が合った。

「いらっしゃいませ」
「う、あ・・・・・・はい」

一瞬驚き目を瞠ったその人は、すぐににっこり笑うとそう言った。
コミュ障の僕は無愛想に返事を返すしかなくて、ナハトの首に顔を埋めて額をぐりぐり押し付けた。

「ユラ?」
「んー、何でもない」

あんまりぐりぐりしてたからかフードが脱げてしまい、そのせいで警備の男の人も若い店員も店主らしい紳士もしばらくポカンとした、らしい。

僕はそのことに気付いてなかったけど、ナハトがわざとらしく咳払いをしたから、そうと気付いた。

「失礼致しました。ナハト様のご来店もお久しぶりですのにお連れ様とご一緒とは、初めてではございませんか? その、エルフの方は」

店主だと思われる紳士がハッとして謝罪して話を続けた。
ふーん、ナハトはここで服を買ってるのか。

ナハトの首元から顔をあげて一人店内を見回していると、ハタと気付く。
アレ、お連れ様のエルフ(正確にはハイエルフ)って僕のこと?

そういえば耳が長いくらいで自覚なしだった。
いやだって、二〇年人間として生きてきて急にハイエルフって言われても、どうしようもなくない?

僕が一人悶々としているとナハトが応えた。

「俺の番いだ。これからも顔を見ることもあるだろうからよろしく頼む。・・・・・・ユラ」

そっと床に下ろされて背中をポンポンされる。
あー、この流れはさっきのと同じだな。はいはい、自己紹介ね。

「ユラと申します。この街には来たばかりです。よろしくお願いします」

そう言ってお辞儀をする。
あ、お辞儀ってしない方がいいんだっけ?
慌てて頭をあげたら、紳士なおじさんがニコッとして自己紹介してくれた。

「丁寧なご挨拶ありがとうございます。ユラ様。この服飾店の店主でエドワード・スティンと申します」

そう言ってお辞儀をしたのでこちらでもお辞儀あるんだと分かってよかった。そんでもってやっぱり店主だった。

「店主、ユラの服を揃えたい。オーダーは時間がかかるから、ひとまず既製品でいくつか見繕って欲しい」
「畏まりました。ではまず、寸法を測らせて頂きますね」

どうぞこちらに、と言われてナハトについて歩いて行く。
向こうでもそうだったが、やっぱりオーダーメイドなんだな。でもっておそらくナハトはVIP扱いだよね?

Sランク冒険者ってだけじゃなくて、ナハト自身、何か身分のある人っぽいし。───ああいや、じゃないのかも分からない。

・・・・・・今更、僕はナハトがどんな人物なのか知らなすぎることを自覚した。
なのにこの無意識に慕ってしまう安心感。

ナハト達がよく言う『番い』も今イチ分からない。夫婦という意味合い以上の意味がありそう。
小説なんかだと『運命の相手』としてよく聞く言葉だけど───。

あとで帰ったら説明するって言ってたし。

ともかく服だな、と気持ちを切り替えるのだった。




※エルフやハイエルフはとっても数が少なく自分達のコミュニティから出ることはほとんどないので、ユラの耳でエルフと分かり、容姿も相まって、お店にいた人は思わずガン見しちゃったわけです。

あと、ヤキモキしている方に。まだまだエロに到達しないんですが、このあと四話後くらい(長いわ)でチョロッと、そのあとガッツリ・・・・・・の予定です。もう書いてあります。お待ち下さい。
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