23 / 81
22 ユラの本当の出自とか年齢とか(sideナハト)
しおりを挟む
『僕を捨てた人達の象徴であり、僕を縛り付ける呪紋だと思ってる』
そう言ったユラの瞳は、表情は、虚無感で溢れていた。
俺達は息を呑むしか出来なかった。
己を肯定するはずの身分証のタグが『呪い』だなんて・・・・・・。
俺達はユラをこんな風にしたヤツらを八つ裂きにしてやりたいと心底思った。だからユラには酷だと分かっているが、聞き出せるだけ情報を得ようとした。
まず最初に俺から聞いてみた。
「ユラ、君はココに来る前はどんな場所に住んでいたんだ?」
「国の中でも一二を争うような大富豪の家だよ。そこの別邸に他の暗部の仲間と暮らしてた」
ヤツらはここではない国の公爵家か侯爵家辺りか? そして別邸に仲間と暮らしてたと。
それならば衣食住はちゃんとしていたのだろうか。
しかし疑問が一つ。
隠蔽されていたとはいえユラはウィステリアの王族だったはずだ。一体どのようにしてその邸に奴隷として住むことになったのか。
捨てられたと言っていたが、アレはどういう意味での言葉だったのか。
「そこに家族はいたんですか?」
エアリアルが思い切って聞いてみた。するとユラは一瞬、寂しげな表情を浮かべた。
「───今となっては家族と言えたのか疑問だけど、母親は僕にそっくりな顔だったから、実の親、なんだと思う。けど父親は───」
「もしかして、本当の親ではなかった?」
エアリアルが眉を下げて聞いている。
「たぶん。どこも似てなかったし、とても実子に接する態度じゃなかった。ちなみにその人、暗部での僕の直属の上司で大富豪の当主ね」
淡々とそう話すユラに俺達は驚いた。
「・・・・・・え?」
「六歳頃にね、暗部の教官とその父親と思われた人の会話を偶然聞いたんだ。僕は母親に似てるだけの邪魔な悪魔だって言ってた」
「は?」
「大人になったらハニトラさせるんだって。まあ、やったことないけど」
そう言ってユラは最後に自嘲した。
イヤ待て。その話からいくと、例え父親と血の繋がりはなくとも、その大富豪の夫妻の子供だということだよな?
───その家族に、物心つく前から奴隷として暗殺の技術を叩き込まれていたと?
「・・・・・・母親はどうしてたの?」
今度はダオラが躊躇いながらそう聞いた。
父親がアレでも母親は守ったり庇ってくれたりしてくれなかったのか? だって母親は確実に実母なんだろう?
「母は夢見がちな、ぽやんとした感じで特になにも・・・・・・今思えば、アレは心が壊れてたのかも。僕とは一度も視線があったことはなかったなぁ」
そもそも接点がほとんどなかったから自分の息子だという認識もなかったんじゃない? とこれも笑って言った。無理矢理作った愛想笑い。
「表に出るのはどうしても出席しないといけない公式の場だけ。それも警護を兼ねて出るから、当主夫妻とは会話もないし?」
───当主夫妻。両親と呼ばない、全てを諦めたような声音でそう話すユラは、どこかへ消えてしまいそうなほど儚かった。
「あ、五歳年下の双子の弟妹がいてね。この前、彼らのちょうど一五歳の誕生日パーティーの席で弟を後継者にって公表してね。僕はやっぱり要らない子供だったなって───」
「───は?」
「え?」
「・・・・・・今なんて?」
オイコラ、今聞き捨てならない言葉が聞こえたが!?
「双子の弟妹のところ? それとも弟が後継者ってところ?」
そう言いキョトンとするユラに俺達は一斉に食いついた。
「違っ・・・・・・ユラお前、弟妹が五歳年下って───」
「ユラ君、今、弟妹の一五歳の誕生日って言った!?」
「えっ、ちょっと待って。それって、計算上ユラ君が二〇歳ってことであってる!?」
最後にダオラが確認のためにハッキリと聞いたからユラは勢いに押されながらも頷いた。
「う、うん・・・・・・? 僕は少し前に二〇歳になったばかり。だからさっき冒険者の本登録できるよねって言おうとしたんだよ」
タイミング逃がしちゃったけど、と困惑した顔でそうユラが言ったのを、俺達は唖然としたあと同時に叫んでいた。
「はああああぁ───っ!?」
「───っ煩ーい!」
思わずといった風に耳を押さえるユラ。長い耳に戸惑っていて可愛い、じゃなくて!
「ユユユユラ君は、とっくに成人済みってこと!?」
エアリアルの動揺っぷりが凄まじい。
対するユラは耳を押さえながらキョトンとしている。
「え、うん」
「じゃ、じゃあアレやコレもオッケーなわけ!?」
俺が思わずそう言うと、ユラはまたキョトンとした。
「アレやコレ? って、何?」
本当に分かっていないのか、首を傾げられた。
「え、まさか未経験? イヤ見た目未成年だから今までは疑ってなかったけど、ハニトラは知ってるのに?」
ダオラもついツッコんで聞いている。
それを聞いて合点がいったのか、ああ、という顔をしてからユラが目を泳がせて、意を決したように応えた。
「あー、その・・・・・・僕、女が相手だと、勃たないんだよね。だからそっち方面は役立たずで。だからって男とどうこうっていうのもないし───」
「じゃあ童貞処女!?」
「───っ大声で言うな! 悪いか童貞処女で!!」
俺が喜色満面で叫ぶと開き直って大声で叫ぶユラ。ブーメランだぞ。
でもそうか。
はからずもユラの年齢が知れて、成人済みって分かった。
「それなら遠慮はいらないな」
「───何の!? 何を遠慮してたの!?」
「さっきの告白を忘れたのか? 俺の伴侶になってくれと言ったこと」
俺がそう言ったらユラは忘れていたのか、また目を泳がせた。そのあとすぐに俺の言いたいことに気付いて、珍しくオロオロして言葉に詰まっていた。
「・・・・・・えーと、要するに? ・・・・・・え、つまり? そういうこと??」
「そういうことだ! 今すぐ婚姻して思う存分愛させてくれ!」
「え、無理」
そうハッキリと欲望のままに言ったら、ユラからすかさず待ったが入った。
「何故!?」
「・・・・・・僕は愛されたことがない人間、イヤ今はハイエルフみたいだけど。だから、愛とか恋とかよく分からなくて」
「・・・・・・ああ」
「急すぎるから。生活基盤も何も出来てないのに、お付き合いとかもなくいきなり婚姻とかちょっと無理だから!」
せめてもう少し猶予が欲しい、と言われて、本気で拒否られてはいないことにホッとするのだった。
そんな中、エアリアルとダオラはいまだに色々と困惑中だったらしい。
そう言ったユラの瞳は、表情は、虚無感で溢れていた。
俺達は息を呑むしか出来なかった。
己を肯定するはずの身分証のタグが『呪い』だなんて・・・・・・。
俺達はユラをこんな風にしたヤツらを八つ裂きにしてやりたいと心底思った。だからユラには酷だと分かっているが、聞き出せるだけ情報を得ようとした。
まず最初に俺から聞いてみた。
「ユラ、君はココに来る前はどんな場所に住んでいたんだ?」
「国の中でも一二を争うような大富豪の家だよ。そこの別邸に他の暗部の仲間と暮らしてた」
ヤツらはここではない国の公爵家か侯爵家辺りか? そして別邸に仲間と暮らしてたと。
それならば衣食住はちゃんとしていたのだろうか。
しかし疑問が一つ。
隠蔽されていたとはいえユラはウィステリアの王族だったはずだ。一体どのようにしてその邸に奴隷として住むことになったのか。
捨てられたと言っていたが、アレはどういう意味での言葉だったのか。
「そこに家族はいたんですか?」
エアリアルが思い切って聞いてみた。するとユラは一瞬、寂しげな表情を浮かべた。
「───今となっては家族と言えたのか疑問だけど、母親は僕にそっくりな顔だったから、実の親、なんだと思う。けど父親は───」
「もしかして、本当の親ではなかった?」
エアリアルが眉を下げて聞いている。
「たぶん。どこも似てなかったし、とても実子に接する態度じゃなかった。ちなみにその人、暗部での僕の直属の上司で大富豪の当主ね」
淡々とそう話すユラに俺達は驚いた。
「・・・・・・え?」
「六歳頃にね、暗部の教官とその父親と思われた人の会話を偶然聞いたんだ。僕は母親に似てるだけの邪魔な悪魔だって言ってた」
「は?」
「大人になったらハニトラさせるんだって。まあ、やったことないけど」
そう言ってユラは最後に自嘲した。
イヤ待て。その話からいくと、例え父親と血の繋がりはなくとも、その大富豪の夫妻の子供だということだよな?
───その家族に、物心つく前から奴隷として暗殺の技術を叩き込まれていたと?
「・・・・・・母親はどうしてたの?」
今度はダオラが躊躇いながらそう聞いた。
父親がアレでも母親は守ったり庇ってくれたりしてくれなかったのか? だって母親は確実に実母なんだろう?
「母は夢見がちな、ぽやんとした感じで特になにも・・・・・・今思えば、アレは心が壊れてたのかも。僕とは一度も視線があったことはなかったなぁ」
そもそも接点がほとんどなかったから自分の息子だという認識もなかったんじゃない? とこれも笑って言った。無理矢理作った愛想笑い。
「表に出るのはどうしても出席しないといけない公式の場だけ。それも警護を兼ねて出るから、当主夫妻とは会話もないし?」
───当主夫妻。両親と呼ばない、全てを諦めたような声音でそう話すユラは、どこかへ消えてしまいそうなほど儚かった。
「あ、五歳年下の双子の弟妹がいてね。この前、彼らのちょうど一五歳の誕生日パーティーの席で弟を後継者にって公表してね。僕はやっぱり要らない子供だったなって───」
「───は?」
「え?」
「・・・・・・今なんて?」
オイコラ、今聞き捨てならない言葉が聞こえたが!?
「双子の弟妹のところ? それとも弟が後継者ってところ?」
そう言いキョトンとするユラに俺達は一斉に食いついた。
「違っ・・・・・・ユラお前、弟妹が五歳年下って───」
「ユラ君、今、弟妹の一五歳の誕生日って言った!?」
「えっ、ちょっと待って。それって、計算上ユラ君が二〇歳ってことであってる!?」
最後にダオラが確認のためにハッキリと聞いたからユラは勢いに押されながらも頷いた。
「う、うん・・・・・・? 僕は少し前に二〇歳になったばかり。だからさっき冒険者の本登録できるよねって言おうとしたんだよ」
タイミング逃がしちゃったけど、と困惑した顔でそうユラが言ったのを、俺達は唖然としたあと同時に叫んでいた。
「はああああぁ───っ!?」
「───っ煩ーい!」
思わずといった風に耳を押さえるユラ。長い耳に戸惑っていて可愛い、じゃなくて!
「ユユユユラ君は、とっくに成人済みってこと!?」
エアリアルの動揺っぷりが凄まじい。
対するユラは耳を押さえながらキョトンとしている。
「え、うん」
「じゃ、じゃあアレやコレもオッケーなわけ!?」
俺が思わずそう言うと、ユラはまたキョトンとした。
「アレやコレ? って、何?」
本当に分かっていないのか、首を傾げられた。
「え、まさか未経験? イヤ見た目未成年だから今までは疑ってなかったけど、ハニトラは知ってるのに?」
ダオラもついツッコんで聞いている。
それを聞いて合点がいったのか、ああ、という顔をしてからユラが目を泳がせて、意を決したように応えた。
「あー、その・・・・・・僕、女が相手だと、勃たないんだよね。だからそっち方面は役立たずで。だからって男とどうこうっていうのもないし───」
「じゃあ童貞処女!?」
「───っ大声で言うな! 悪いか童貞処女で!!」
俺が喜色満面で叫ぶと開き直って大声で叫ぶユラ。ブーメランだぞ。
でもそうか。
はからずもユラの年齢が知れて、成人済みって分かった。
「それなら遠慮はいらないな」
「───何の!? 何を遠慮してたの!?」
「さっきの告白を忘れたのか? 俺の伴侶になってくれと言ったこと」
俺がそう言ったらユラは忘れていたのか、また目を泳がせた。そのあとすぐに俺の言いたいことに気付いて、珍しくオロオロして言葉に詰まっていた。
「・・・・・・えーと、要するに? ・・・・・・え、つまり? そういうこと??」
「そういうことだ! 今すぐ婚姻して思う存分愛させてくれ!」
「え、無理」
そうハッキリと欲望のままに言ったら、ユラからすかさず待ったが入った。
「何故!?」
「・・・・・・僕は愛されたことがない人間、イヤ今はハイエルフみたいだけど。だから、愛とか恋とかよく分からなくて」
「・・・・・・ああ」
「急すぎるから。生活基盤も何も出来てないのに、お付き合いとかもなくいきなり婚姻とかちょっと無理だから!」
せめてもう少し猶予が欲しい、と言われて、本気で拒否られてはいないことにホッとするのだった。
そんな中、エアリアルとダオラはいまだに色々と困惑中だったらしい。
800
お気に入りに追加
1,133
あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

〈完結〉髪を切りたいと言ったらキレられた〜裏切りの婚約破棄は滅亡の合図です〜
詩海猫
ファンタジー
タイトル通り、思いつき短編。
*最近プロットを立てて書き始めても続かないことが多くテンションが保てないためリハビリ作品、設定も思いつきのままです*
他者視点や国のその後等需要があるようだったら書きます。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる