(仮)攫われて異世界

エウラ

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17 本領発揮(出来てないかも)

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今、僕の目の前にはエリシャというダークエルフとその取り巻きの冒険者の男が四人。

すでに勝ち誇ったような顔で笑っている。

僕はさっきから無表情だ。
空色のフードは執務室から出るときに下ろされてそのまま顔を晒しているから、遠目には女顔の小柄な子供が呆然と立っているように見えるかもしれない。

実際、突っ立ってるだけだけど。

さっき鍛錬場に移動するときに、僕のみたいな銃やライフル銃みたいなのを持ってる冒険者がいたのを確認したから、今は手に持ってないけど遠慮なく使うつもり。

とりあえず左手に艶消しのナイフを持つ。

「やあねえ! そんな小さなナイフでアタシ達を殺れるのぉ?」
「エリシャは俺達が守るから心配すんな!」
「大船に乗った気でいろよ!」

などなど、好き放題に囀る雑魚ども。
煩い。

「・・・・・・」

黙ったままの僕を怖がっていると思っているらしい。
なおも挑発するエリシャ達に乗るように観客席からもヤジが飛ぶ。

「ビビって動けないのか、お嬢ちゃんー?」
「いやボクちゃんだろ? へへっ」
「お前みたいなガキはお呼びじゃねえんだよ!」

中には冒険者じゃない小さい子になんてことを、と言うような同情の声もあったけど。別に気にならない。
罵詈雑言なんて物心ついたときから言われていて慣れてる。
心を殺して、ただの暗殺の道具になった僕には響かない。

ただ、ナハトとエアリアル、審判を務めるダオラだけがこの悪口雑言に眉をひそめていた。

「───始めっ!」

ダオラの合図で男達が動き出した。

遅い。

僕は一人の男の首にすでにナイフをあてていた。このまま頸動脈を掻き切れば一瞬で終わる。
───そう思った一瞬、ナハトの視線を感じて掻き切るのを止め、ナイフの柄で後頭部を強打し意識を刈り取る。

『殺すな』

そう言われたような気がした。

「───なっ!? このっ!」

僕に気付いた一人が長剣を振りかざすが、やはり遅い。
剣筋を読んで躱すと懐に入って鳩尾に素手の右手でグーパン一発。

「グヘッ!?」

あれ、思った以上にキマったみたいで奥の壁に吹っ飛んでぶち当たった。利き手じゃない方なんだけどな。まあ実質両利きではあるんだが。

どうやら異世界に来て身体能力が上がってるみたい。これはラッキーと言えばいいのかな?
でもこの世界でのまともな戦闘が今この決闘だから、慣れなくてちょっと力加減が難しい。
だがそれよりも慣れる前に結着が着きそうだ。

「っのクソガキがあっ!」
「ざけんなーっ!!」

残り二人の男達が一斉に飛びかかってきた。その隙にエリシャが魔法を詠唱するらしい。
やっぱり詠唱必須なのか。
僕は恥ずかしいからやらないよ。

まあ魔法も使ってみたいけど───。

僕は男達を躱しながら右手をポーチに入れて相棒の銃ハンドガンを手にするとエリシャ目がけて引き金トリガーを引いた。

「パシュッ」

普段よりも小さく軽い音を立てて飛んでいくそれは、エリシャの左頬を掠めて後方へと向かって壁に当たった。
エリシャの左頬から一筋、赤い血が流れる。へえ、異世界でも血は赤いんだ。

「・・・・・・ひ」

一瞬で硬直して詠唱を中断したエリシャがガタガタと震えながら僕を凝視して小さい声を漏らした。

「次は眉間をブチ抜く」

僕は表情の抜け落ちた冷たい眼差しと銃口を向けてそう言った。
エリシャは腰を抜かしたようでその場に崩れ落ちた。

「お、お前ー!」
「エリシャに何しやがる!」

躱されてたたらを踏んでいた男達が逆上してツッコんでくるのを冷めた目で一瞥し、太腿に弾を撃ち込んで動けなくする。

「ぐわああっ!」
「ひ、ひいいっ!?」

崩れ落ち痛みで藻掻き苦しむ男達を感情の篭もらない目で見ていると、エリシャが僕を指差して狂ったように叫んだ。

「こ、このバケモノッ! こんなガキが、こんな・・・・・・末恐ろしいわっ! この悪魔! 消えろっ!」
「・・・・・・そうだね。そんなことも言われたね。でも今更、傷付かないよ、そんな言葉に」

僕は昏い瞳で遠い過去の記憶を思い出した。

『───本当・・・・・・、アリスにそっくりの・・・・・・なのに。アレは──だからちょうど・・・・・・』
『まだ六歳・・・・・・に、的確に急所・・・・・・です』
『アレには将来・・・・・・でハニートラ・・・・・・』
『双子・・・・・・から、・・・・・・安泰・・・・・・』

───偶然盗み聞きした会話。このときにはすでに気配を完璧に消せて、訓練と称してこっそり彷徨いていた。
そこで聞こえた声。
直接声をかけられた記憶はなかったが、アレは父親と呼ぶ存在の人の・・・・・・。
もう一人は僕の訓練をつける教官。

『アレは悪魔だからちょうど捨て駒になっていい』
『将来、あの顔でハニートラップをして貰おう』
『双子がいるから、五十嵐家は安泰だ』

そのときの僕には難しかった言葉も、このあとの教育でしっかり理解できた。

───ああ、僕は生まれたときから捨てられていた。五十嵐家には要らない悪魔そんざいだったんだ。

そんな思考の底に落ちそうになったとき、ダオラの声が響いて、ハッと意識が浮上した。
鍛錬場はいつの間にか静まり返っていた。

「エリシャ側の戦闘不能及び戦意喪失により決闘の続行は不可能! よって勝者、ユラ!」

───ああ、呆気なかった。もっと暴れたかったな。
ナイフと銃をポーチに仕舞いながら思う。
この言いようのないモヤモヤを吹き飛ばしたい。誰かに八つ当たりしたい。

ダオラの声で静まり返っていた鍛錬場が割れんばかりの声に包まれた。
驚きや称賛、畏れなど色々と混じった歓声だ。

思わずビクッとなった僕をいつの間にか来ていたナハトが抱き上げてぎゅうっとしてくれた。

「お疲れさん」

大きな手で背中をポンポンされて、モヤモヤ八つ当たりしたい気持ちがスウッと霧散していく。・・・・・・何でかな、不思議。

「・・・・・・うん。精神的に疲れた」

僕はフードを深く被るとナハトの胸元に耳を寄せて、ナハトの心臓の鼓動を静かに聞いていた。

「・・・・・・生きてる」

簡単に奪える命だったけど、殺す必要はない。価値もない。

・・・・・・でもこの世界に生きてる。
僕も、ナハトも、もちろんエアリアルやダオラも、他の人達も・・・・・・。

決闘開始直後にナハトから感じた視線はたぶん、それが言いたかったんじゃないかと思う。

───そっか。別に何でもかんでも消さなくていいんだ。
自分が生きるため以外に、無理に殺らなくていいんだ。そう思うなんてこと、今まではなかった。痕跡を消すため、目撃者は絶対に抹殺が当たり前だったから。

「・・・・・・ありがとう、ナハト」
「どういたしまして?」
「お? 何だ何だ?」
「何でもない」
「内緒」

後始末の指示をしているダオラが僕らの会話を聞きかじって聞いてきたけど、僕はそう言って笑った。

ナハト達がこの決闘を受けたときは心底『ふざけんな!』って思ったけど、終わってみればそれでよかったと思えた。

だからもう一度心の中で、ありがとうと言っておいた。




※次話はナハト視点の予定です。決闘のあとのエアリアル達とのやり取り。

主要人物四人のイラスト、人物設定に揃いました。ダオラが一番上手く描けたのでよかったら見て下さい。個人的に一番好きです。






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