(仮)攫われて異世界

エウラ

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16 決闘のルール

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僕達が中に入ったあと、続々と続く冒険者やギルド職員達。
彼らは脇の階段から観覧席に移動していく。

そんな中、初めて見る顔の人がエアリアルに近付いてきた。僕は無意識に距離を取る。
まあ、ナハトにしっかりと手を握られて離れられないんだけど。

「ギルマス! 困りますよ、勝手に決闘なんて受けて。段取りをするこちらの身にもなって下さい!」
「ごめんね。でも売り言葉に買い言葉じゃないから許して欲しいな」

やって来た人はちょっと尖った耳の上辺りから透明な角を斜め後ろに生やしていて、綺麗な銀髪をポニーテールにしている。
透き通るようなサファイアブルーの瞳は、よく見ると瞳孔が縦に爬虫類みたいになっていた。

キリッとした眉と目元のイケメンだった。そして身長は言わずもがな。ナハトよりも大きそうだ二〇〇センチは越えてるだろう。

不躾にマジマジと見ていたからか、僕に気付いたその男の人はくるっと僕に向き直り、ニカッと笑った。

「初めまして。自己紹介が遅れました。私、龍人族のダオラと申します。ここのサブギルドマスターをやっております。よろしく」
「あ、は、初めまして。ユラです、こちらこそよろしくお願いします。綺麗な角? 格好いいですね」
「ありがとうございます!」

手を差し出されたので握手かなと思って僕も手を伸ばすと、手が触れる前にナハトにぐいっと引き寄せられて、ダオラは伸ばしていた手を叩き落とされていた。

「格好よくない。よろしくするな。触るな」
「酷いなあ、ナハトさん。・・・・・・でもまあ、この決闘に納得です(よりも執着が凄そうだ)」

サブギルマスだけあって報連相はしっかりしているんだろう。でもうんうん頷いて納得する意味が分からない。

僕は首を傾げたが、誰も理由を教えてはくれない。別にいいけど。

「今回はギルマス公認なので私が審判をします。決闘にもルールはありますので説明しますね」

そう言うとダオラは、決闘を申し込んできたあの女を呼び寄せた。

「名乗りを」

ダオラに促されてフンッと高飛車な態度で名を名乗った。

「エリシャよ。見てのとおりダークエルフでBランク冒険者」
「ユラです」

僕は身分証もなく身寄りのない、ただのユラなので簡潔に名前だけ名乗る。
それにしてもダークエルフ、ねえ。
確かに褐色の肌で耳も尖ってるな。髪が豪奢な金髪だからか我が儘ボディで派手な印象だ。

闇の森人ダークエルフ。必ずしも悪い存在ではないが、ほっそりした体型でプライドの高いエルフ系に比べると肉感的・享楽的で攻撃的な性質の者が多いという小説情報なんだが、実際はどうなんだろう?

種族とかはあとでナハト達に聞くか本とかで調べるか。

「エリシャさんは決闘のルールはご存知でしょうが、ユラ君は冒険者ではないので一緒に説明しますね」

そう断ってダオラは説明を始めた。

───まず一つ、決闘を申し込んだ者も申し込まれた者も最初に条件を提示する。その条件がお互い決闘に見合ったモノかを確認すること。

「一方的に片方に有利な条件だったら割に合わないですので、こちらで窺って相応の条件かを見極めます」

僕は了承の意味で頷く。

「アタシの条件は、二度とナハト様に近付かないことよ。それと勝ったらナハト様の女になるの!」
「前者は可能ですが後者はナハトさんの意思表示が必要で───」
「断る」
「何ですって!?」

食い気味に拒否するナハトに内心で笑う。
エリシャは悔しげにしている。

「───だそうですのでそちらは却下します。ユラ君は?」
「僕も同じく、勝ったらナハトさんには二度と近付かないで下さい」
「分かりました。では双方その様に」

煩わしいのは勘弁願いたい。

続けて説明をするダオラ。もう一つは決闘方法だった。
武器や攻撃方法は基本的に何でもあり。魔法もオッケー。ただし明らかに戦力差があると判断した場合はハンデを設けられる。
しかしハンデを受け入れるかは本人の意思による。

「これは例えばSランクのナハトさんがCランク冒険者と決闘になったとき、明らかにCランク冒険者が不利です」

確かに無謀で勝ち目がないだろうな。そう思い頷く。

「はい」
「そこでナハトさんにはその場から一歩も動いてはいけないというハンデをこちらで付けます。この場合、Sランクのナハトさんはそれを受け入れざるを得ないのです」

強い方は絶対にハンデを受け入れないといけないのか。・・・・・・ナハトにはハンデを付けても勝てないと思うけどな。

「なるほど」
「ですが相手のCランク冒険者がこれを受け入れないと言えばこのハンデは帳消しになり、ナハトさんは自由に動けるのです」
「へえ。でもそんな人、いるんですか?」

一〇〇%勝てないのが九九%くらいには下がると思うけど。僕ならその一%でもあれば殺るけどな。

「今までそんな戦力差での決闘になったことはないですが、まあハンデを貰って断る方はいないですね」

まあそうだろうね、と納得して頷いていると・・・・・・。

「アタシはハンデを付けてあげてもいいわよ?」
「は?」
「え?」

エリシャの言葉に僕とダオラが間抜けな声を出し、ナハトとエアリアルは半目の呆れ顔でエリシャを見つめた。
たぶん僕を含めたここにいる四人は『何的外れなこと言ってんだ、この女』って思ってる。

「・・・・・・別にアンタにハンデなんか要らないけど」

僕がぽそっと呟いたのが耳に届いたのか、ムッとしたあと笑い出したエリシャ。

「そう? ならハンデなしでやろうじゃないの! いいのね? こっちはアタシのパーティー全員で殺るけど」
「は?」
「エリシャ一人じゃないんですか?」
「アタシは一言もそんなことは言ってないわよ? 『そのガキと決闘よ』って言っただけ」

だから一対一とは言っていないわ、と高らかに笑うエリシャを冷めた目で見つめる僕達四人。

「狡賢いクソ女め」
「まあ、確かに言っていないですね」
「でも意味ないでしょうに」
「何人いても変わらない雑魚」

ナハトにエアリアル、ダオラがぽそっと呟いたあとに僕が淡々とそう言うと、三人は顔を見合わせて、それから苦笑した。

「確かに、ユラ君には意味ないですね」
「アイツらアホだから」
「ふふっ、存分にやって下さい」

僕はこくっと頷いた。

「最後に、この決闘は本来は冒険者同士で行うモノなんですが、ギルマス公認と言うことで特例で行います」
「はい」
「特例ではありますが、基本的に相手を殺しても罪には問わないルールが適用されます。相手が降参するか戦闘不能になるか死ぬまで続きます。場合によっては止めに入りますが、お互い全力で殺りに行って構いません」
「了解です」

そう言って鍛錬場の中央に歩いて行こうとする俺の頭をポンポンと撫ぜたナハトが僕の唇にチュッとキスをしてきた。

「・・・・・・っ!?」
「思い切り暴れてこい」
「───なっ、ぼっ僕の、ファーストキスだったのにー!」
「! それは幸運だな」
「もう最悪!」

ふざけんな! 大事にとっておいたわけじゃないけど、見ず知らずの公衆の面前で、しかもあの女のこと思い切り煽ってるじゃん! こっちを射殺しそうに睨んでるじゃん!

何で皆、僕の意思をガン無視するわけ!? あとで覚えてろよ、ナハト!

僕は赤くなった顔が落ち着くまで、心の中でナハトを罵倒した。




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