(仮)攫われて異世界

エウラ

文字の大きさ
上 下
15 / 76

14 事情聴取 2

しおりを挟む
僕は頭をフル回転させて開示する情報を取捨選択する。

───いや、言えないことの方が多いな。
でもさっき、無理には聞かないって言質を取ったし。

「改めまして、僕の名前は唯颯ユラです。ナハトさんに最初に会ったときにもそう名乗りました」
「ああ」

エアリアルが確認するようにナハトを見ると、短く応えた。

家名はこのまま、言わないでおこう。この世界では一般人は家名がないかもしれないし、そもそも五十嵐の家名を名乗っても分からないだろう。

・・・・・・それにもう、あの家とは、いやあの世界とはとっくに縁が切れてるだろうし。
ココではただのユラで生きていく。

ただ、僕がここで生きていくためにはおそらく今までの暗部の力が必要になるはず。
だからこの力は下手に誤魔化さず、正直に打ち明けた方がいい。
例え異質であっても、今の僕にはこの身体一つしかないんだから。

「・・・・・・あの、僕は物心つく前から、色々と訓練を受けていて」
「───っうん」
「それは、いわゆる戦闘訓練というか、主に対人戦闘で、その・・・・・・」

息を呑んだエアリアルの反応がちょっと怖くて目を逸らす。
なんて言えばいいんだろう。こっちではどういう位置づけ? よく分からなくて言い淀んでしまう。

するとエアリアルの方から意を汲んで話してくれた。

「それはつまり、暗殺とかの類いの訓練ってことかな?」
「っそうです。それで小さな頃から、そういう作戦に加わったり、最近は・・・・・・自ら手を下していて・・・・・・」

これは家のため、仕事だと言い聞かせて任務を熟した。感情を消して、僕はただの道具だって思い込んだ。

だってそうじゃないと───。

「・・・・・・分かった。もういいから、泣くな」
「・・・・・・え?」

ナハトがぎゅっと抱きしめてそう言ったので、僕は不思議に思った。
泣いてる? 誰が? 僕が?

手を頬にあてると、濡れていた。

「・・・・・・何、で」

始めこそ辛くて泣いたけど、だからって訓練を止めてはくれない。それが分かって早々に諦めた。
それからそれ以降は泣くことなんてなかったのに。

「やりたくなかったんだろう? 無理矢理やらされて、それしか生きる道がなかった、そうだろう?」

何で、この人は僕自身気付かない、いや、封印した感情をくみ取ってくれるの?

「ここには君を害するモノはないと言ったろう。だからもう、苦しまなくていいんだ」

そう言ってくれて嬉しい反面、何もかも分かりきったような言葉が僕を苛立たせて───。

「───せに・・・・・・」
「ユラ?」
「───っ何も知らないくせに! 何でそう言いきれるんだ! 僕はっ・・・・・・僕が今までどんな気持ちでいたのか───」
「ッユラ!」
「誰にも愛されない、捨てられた僕に優しくしないでっ!!」

───じゃないと、僕は、独りに戻れなくなる───。

今まで押さえ込んでいた感情がついに耐えきれなくなって爆発した。

苦しい、辛い、独りでいい、独りはイヤだ。
優しくして、優しくしないで。愛さないで、愛して欲しい。
───愛せない。僕にそんな資格、ない。

無意識につむじ風のようなモノを身体から巻き起こし、火事場の馬鹿力でナハトの腕から抜け出すと出入り口の扉に走った。

とにかくここから、ナハトから今すぐ逃げ出したかった。
僕が僕じゃいられなくなる恐怖。
ココにいちゃダメだ。そう思って扉を開くと廊下に出た。

───アレ? でももういいんじゃないか?
だってここは僕のことを誰も知らない異世界なんだから。

出てすぐにそんなことを思った一瞬、ナハトに後ろから抱きしめられた。

「ユラ、逃げるな! 自分の気持ちから目を逸らすな! 俺ならユラを一生涯愛し続けられるから!」
「───っは、離・・・・・・!! ・・・・・・へ?」

暴れ藻掻いたそのとき、思いも寄らぬ言葉がナハトから飛び出し、ピタッと動きを止めた。ついでに涙も止まった。

一体何の騒ぎだと、下の階の冒険者達やギルト職員達が階下から覗き込んだり聞き耳を立てていた。

「───・・・・・・なんて?」

全注目を浴びる中、ナハトは僕を正面に向き直すと真剣な顔で告げた。

「ユラが好きだ。愛してる。俺と生涯を共にしてくれ」

───まさかの公開プロポーズ・・・・・・!?






※そろそろ作者のシリアス展開が限界なのでギャグ路線に入っていきます。悪しからず。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

箱庭

エウラ
BL
とある事故で異世界転生した主人公と、彼を番い認定した異世界人の話。 受けの主人公はポジティブでくよくよしないタイプです。呑気でマイペース。 攻めの異世界人はそこそこクールで強い人。受けを溺愛して囲っちゃうタイプです。 一応主人公視点と異世界人視点、最後に主人公視点で二人のその後の三話で終わる予定です。 ↑スミマセン。三話で終わらなかったです。もうしばらくお付き合い下さいませ。 R15は保険。特に戦闘シーンとかなく、ほのぼのです。

【書籍化進行中】ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん

tamura-k
BL
気づいたら知らない森の中に居た緑川颯太(みどりかわそうた)は、通りかかった30代前半のイケオジ冒険者のダグラスに運よく拾ってもらった。 何もわからない颯太に、ダグラスは一緒に町に行くことを提案した。 小遣い稼ぎに薬草を摘みながら町を目指して歩いていたが、どうやら颯太にはとんでもないスキルがあるらしいと判明。 ええ?魅了??なにそれ、俺、どうしたらいいんだよ? 一回りも違う気の良いイケオジ・ダグラスと年下・ツンデレなりそこない系のソウタ。 それはヒヨコの刷り込みと同じってバカにすんな! 俺の幸せは俺が決めるもんだろう? 年の差がお好きな方へ。 ※はRぽい描写あり ************ 書籍化の声をかけていただきまして、現在進行中です。 決まりましたら改めてお知らせいたします。 また、発売予定の一カ月前にはアルファポリス様の規約により、こちらは全て削除いたします。 (ムーンノベルの方ではそのままです)

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!

BL
 16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。    僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。    目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!  しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?  バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!  でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?  嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。 ◎体格差、年の差カップル ※てんぱる様の表紙をお借りしました。

処理中です...