13 / 76
12 ギルドマスターとご対面
しおりを挟む
※◆◆◆は本文の途中でユラ以外の視点になるときに使います。ご了承下さい。丸々別視点のときはいつもみたいにサブタイに記載します。
二階の奥の一室、周りよりはちょっと立派な扉にノックをしたらしい案内人に促されて僕を抱えたままのナハトが開いた扉を潜った。
後ろ向きで抱えられていた僕の視線の先で、案内人の女の人が扉を閉めようとしていてふと目が合った。
女の人は驚いて目を瞠ったあとすぐにニコッと笑って礼をして扉を閉めた。
・・・・・・何故、驚いたんだろうか。
理由はいくつか思い浮かぶが、あの眼差しは何となく、幼い子供を見るものだと思う。
───まあ、こんな体勢じゃ仕方ないか。
一人悶々としていたら、扉が閉まったとたん部屋の空気が変わり、ナハト以外の声が聞こえた。
思わず反射的にポーチのナイフに手が伸びる───が、その手がナイフを握ることはなかった。
「ユラ、大丈夫だから」
「───っ」
ナハトの強い腕の力で動きを封じられ、ビクッとして藻掻いたらナハトが僕に視線を合わた。
昨夜も見たルビーレッドの輝きが僕の思考を溶かしていく。
「・・・・・・ぅ?」
「すまない。少しの間、微睡んでいて」
「・・・・・・な・・・・・・と・・・・・・?」
「───おいおい、『魅了』とはちょっと穏やかじゃないな?」
第三者の───おそらくギルドマスターの険のある声が幾重にもベールを張った空間のようにぼんやりと耳から耳に抜けていく。
ゆらゆら、波に攫われたときのように心地いい。
僕は無意識にナハトの胸に擦り寄った。
◆◆◆
「・・・・・・オイ、どういうことだ、説明しろ」
いつもの穏やかな口調と雰囲気を消して剣呑になって俺を追及するエアリアルに溜め息を吐く。
「何から説明すれば?」
「まずはこの状況、チャームを使った理由から」
とりあえず座れ、と促されて、ぼうっとするユラを膝の上に横抱きにして自分の胸に寄りかからせる。
それを信じられないような目でガン見するエアリアルを無表情で見つめ返す。
「・・・・・・君がそんなことをするのは初めてじゃないか? その子を抱きかかえて来たときからおかしいと思ったが」
「まあな。俺だってこんな風になるとは思ってもいなかった」
「だからってチャームはよくないだろう。その子、どうみても未成年の子供だろう?」
エアリアルが眉をひそめてそう言うが、仕方ないだろう。
「だがこうでもしないとエアリアル、アンタ、この子にナイフで刺されてたぞ」
「───は?」
俺はポカンとするエアリアルに溜め息を吐いて言った。
「この子──ユラは俺をも傷付けられるだろう腕前だ。アンタの魔法でも発動前に殺られるんじゃないか?」
俺が抱きしめて制止していなければ、確実にナイフを握っていた。そのくらいユラは反射的に動いていた。
───殺られる前に殺れ、そう叩き込まれているように、ごく自然と、無意識下で行う仕草だった。
「・・・・・・何故、そんな・・・・・・私は彼に危害を加える気なんて全く・・・・・・」
「さっきまで俺が魔法で周りの音を遮断していた。其れを執務室の扉が閉まったとたん解除したからアンタの声に驚いたんだろう」
事前に断ってから解除すればよかった。これは俺のミスだ。
しかしそれを聞いたエアリアルが怪訝そうな顔で聞いてきた。
「・・・・・・未成年の子、なんだよな?」
「おそらく」
「なのに、そんな凄腕の暗殺者みたいな技術を? ・・・・・・聖域の湖にいたんだよな?」
それは当然の疑問だ。聖域に悪しきモノは何であろうと近づけない、ましてや湖になど行けないことを十分理解しているからだ。
しかし、ユラは当たり前のように受け入れられていた。なんなら誰かに聖域に連れて来られたように。
「いたな。だから俺が連れて来て、さっきまで俺の家にいたんだ」
そう言って俺はユラのフードを下ろしてから抱きかかえていない方の手でユラの柔らかい髪を掻きあげた。
露わになる長い耳。
エアリアルが息を呑んだ。エアリアルは精霊族だから、精霊族特有の魔力探知を使ってユラの凄まじい魔力量が分かったのだろう。
その桁違いの魔力量と長い耳で瞬時に察したエアリアルが、更に鑑定魔法を使ったのだろう。驚きの声をあげた。
「───まさか、最近はほとんど見ない稀少なハイエルフの子・・・・・・!」
「ああそうだ。俺の鑑定でも名前と種族くらいしか分からなかったが、エアリアルもか?」
「ああ、この私でも名前と種族だけだ。強力な隠蔽魔法がかけられているのか、見えないな」
渋い顔のエアリアルに苦笑する。彼の魔法は最高峰のレベルだからな。有り得ないと呟いている。
「これを見てくれ」
そんなエアリアルに、俺はユラの胸元からタグの付いたチェーンを引っ張り出して見せた。
それを手に取り見つめるエアリアルの顔が、驚愕なモノに変わっていった。
「───おい、これ・・・・・・亡国ウィステリアの紋章・・・・・・まさか、この子・・・・・・」
さすがは精霊族。自分達に近しい存在のエルフ族の国や里は把握しているようだ。もっともエルフ族は全般的に里も人数も少ないが。
「おそらく。ただ、本人はどうしてあの湖にいたのか分かっていないし、知識も偏りがあって常識の欠落が酷い」
違和感だらけのハイエルフの子供。異常な戦闘能力と大人びた言動、無理矢理大人にさせられたかのようなちぐはぐな様子。
「・・・・・・そこにきてアサシンのような身のこなし・・・・・・。東の大陸には依然として奴隷制度が残っていると聞く」
「ああ、きっと違法な奴隷も山ほどいるだろうな」
エアリアルの言葉に肯定する俺。もしやという考えにいたり、二人ともしばらく沈黙が続く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ふと、ユラが身じろいだ。どうやら緩くかけたチャームを自力で解いたようだ。
これにはオレもエアリアルも驚く。俺の力を持ってすれば、いくら緩くとも早々破ることは出来ないのに。
ユラの精神力が半端ないな。
「───・・・・・・れ? 気持ちい、の、終わっちゃった」
「───っぶほっ!?」
「・・・・・・・・・・・・」
まだぼんやりした瞳で上目遣いに俺を見たあと、そんなことを呟くユラに、思わず吹き出した。
片手で顔を覆って天を仰いだ俺はおそらく耳まで真っ赤だったろう。
思わず無言で俺を凝視するエアリアルには気付かないフリをした。
※むっつり×天然・・・・・・。タグに入れるべきか?
二階の奥の一室、周りよりはちょっと立派な扉にノックをしたらしい案内人に促されて僕を抱えたままのナハトが開いた扉を潜った。
後ろ向きで抱えられていた僕の視線の先で、案内人の女の人が扉を閉めようとしていてふと目が合った。
女の人は驚いて目を瞠ったあとすぐにニコッと笑って礼をして扉を閉めた。
・・・・・・何故、驚いたんだろうか。
理由はいくつか思い浮かぶが、あの眼差しは何となく、幼い子供を見るものだと思う。
───まあ、こんな体勢じゃ仕方ないか。
一人悶々としていたら、扉が閉まったとたん部屋の空気が変わり、ナハト以外の声が聞こえた。
思わず反射的にポーチのナイフに手が伸びる───が、その手がナイフを握ることはなかった。
「ユラ、大丈夫だから」
「───っ」
ナハトの強い腕の力で動きを封じられ、ビクッとして藻掻いたらナハトが僕に視線を合わた。
昨夜も見たルビーレッドの輝きが僕の思考を溶かしていく。
「・・・・・・ぅ?」
「すまない。少しの間、微睡んでいて」
「・・・・・・な・・・・・・と・・・・・・?」
「───おいおい、『魅了』とはちょっと穏やかじゃないな?」
第三者の───おそらくギルドマスターの険のある声が幾重にもベールを張った空間のようにぼんやりと耳から耳に抜けていく。
ゆらゆら、波に攫われたときのように心地いい。
僕は無意識にナハトの胸に擦り寄った。
◆◆◆
「・・・・・・オイ、どういうことだ、説明しろ」
いつもの穏やかな口調と雰囲気を消して剣呑になって俺を追及するエアリアルに溜め息を吐く。
「何から説明すれば?」
「まずはこの状況、チャームを使った理由から」
とりあえず座れ、と促されて、ぼうっとするユラを膝の上に横抱きにして自分の胸に寄りかからせる。
それを信じられないような目でガン見するエアリアルを無表情で見つめ返す。
「・・・・・・君がそんなことをするのは初めてじゃないか? その子を抱きかかえて来たときからおかしいと思ったが」
「まあな。俺だってこんな風になるとは思ってもいなかった」
「だからってチャームはよくないだろう。その子、どうみても未成年の子供だろう?」
エアリアルが眉をひそめてそう言うが、仕方ないだろう。
「だがこうでもしないとエアリアル、アンタ、この子にナイフで刺されてたぞ」
「───は?」
俺はポカンとするエアリアルに溜め息を吐いて言った。
「この子──ユラは俺をも傷付けられるだろう腕前だ。アンタの魔法でも発動前に殺られるんじゃないか?」
俺が抱きしめて制止していなければ、確実にナイフを握っていた。そのくらいユラは反射的に動いていた。
───殺られる前に殺れ、そう叩き込まれているように、ごく自然と、無意識下で行う仕草だった。
「・・・・・・何故、そんな・・・・・・私は彼に危害を加える気なんて全く・・・・・・」
「さっきまで俺が魔法で周りの音を遮断していた。其れを執務室の扉が閉まったとたん解除したからアンタの声に驚いたんだろう」
事前に断ってから解除すればよかった。これは俺のミスだ。
しかしそれを聞いたエアリアルが怪訝そうな顔で聞いてきた。
「・・・・・・未成年の子、なんだよな?」
「おそらく」
「なのに、そんな凄腕の暗殺者みたいな技術を? ・・・・・・聖域の湖にいたんだよな?」
それは当然の疑問だ。聖域に悪しきモノは何であろうと近づけない、ましてや湖になど行けないことを十分理解しているからだ。
しかし、ユラは当たり前のように受け入れられていた。なんなら誰かに聖域に連れて来られたように。
「いたな。だから俺が連れて来て、さっきまで俺の家にいたんだ」
そう言って俺はユラのフードを下ろしてから抱きかかえていない方の手でユラの柔らかい髪を掻きあげた。
露わになる長い耳。
エアリアルが息を呑んだ。エアリアルは精霊族だから、精霊族特有の魔力探知を使ってユラの凄まじい魔力量が分かったのだろう。
その桁違いの魔力量と長い耳で瞬時に察したエアリアルが、更に鑑定魔法を使ったのだろう。驚きの声をあげた。
「───まさか、最近はほとんど見ない稀少なハイエルフの子・・・・・・!」
「ああそうだ。俺の鑑定でも名前と種族くらいしか分からなかったが、エアリアルもか?」
「ああ、この私でも名前と種族だけだ。強力な隠蔽魔法がかけられているのか、見えないな」
渋い顔のエアリアルに苦笑する。彼の魔法は最高峰のレベルだからな。有り得ないと呟いている。
「これを見てくれ」
そんなエアリアルに、俺はユラの胸元からタグの付いたチェーンを引っ張り出して見せた。
それを手に取り見つめるエアリアルの顔が、驚愕なモノに変わっていった。
「───おい、これ・・・・・・亡国ウィステリアの紋章・・・・・・まさか、この子・・・・・・」
さすがは精霊族。自分達に近しい存在のエルフ族の国や里は把握しているようだ。もっともエルフ族は全般的に里も人数も少ないが。
「おそらく。ただ、本人はどうしてあの湖にいたのか分かっていないし、知識も偏りがあって常識の欠落が酷い」
違和感だらけのハイエルフの子供。異常な戦闘能力と大人びた言動、無理矢理大人にさせられたかのようなちぐはぐな様子。
「・・・・・・そこにきてアサシンのような身のこなし・・・・・・。東の大陸には依然として奴隷制度が残っていると聞く」
「ああ、きっと違法な奴隷も山ほどいるだろうな」
エアリアルの言葉に肯定する俺。もしやという考えにいたり、二人ともしばらく沈黙が続く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ふと、ユラが身じろいだ。どうやら緩くかけたチャームを自力で解いたようだ。
これにはオレもエアリアルも驚く。俺の力を持ってすれば、いくら緩くとも早々破ることは出来ないのに。
ユラの精神力が半端ないな。
「───・・・・・・れ? 気持ちい、の、終わっちゃった」
「───っぶほっ!?」
「・・・・・・・・・・・・」
まだぼんやりした瞳で上目遣いに俺を見たあと、そんなことを呟くユラに、思わず吹き出した。
片手で顔を覆って天を仰いだ俺はおそらく耳まで真っ赤だったろう。
思わず無言で俺を凝視するエアリアルには気付かないフリをした。
※むっつり×天然・・・・・・。タグに入れるべきか?
830
お気に入りに追加
1,119
あなたにおすすめの小説
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

【書籍化進行中】ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん
tamura-k
BL
気づいたら知らない森の中に居た緑川颯太(みどりかわそうた)は、通りかかった30代前半のイケオジ冒険者のダグラスに運よく拾ってもらった。
何もわからない颯太に、ダグラスは一緒に町に行くことを提案した。
小遣い稼ぎに薬草を摘みながら町を目指して歩いていたが、どうやら颯太にはとんでもないスキルがあるらしいと判明。
ええ?魅了??なにそれ、俺、どうしたらいいんだよ?
一回りも違う気の良いイケオジ・ダグラスと年下・ツンデレなりそこない系のソウタ。
それはヒヨコの刷り込みと同じってバカにすんな!
俺の幸せは俺が決めるもんだろう?
年の差がお好きな方へ。
※はRぽい描写あり
************
書籍化の声をかけていただきまして、現在進行中です。
決まりましたら改めてお知らせいたします。
また、発売予定の一カ月前にはアルファポリス様の規約により、こちらは全て削除いたします。
(ムーンノベルの方ではそのままです)

寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる