(仮)攫われて異世界

エウラ

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12 ギルドマスターとご対面

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※◆◆◆は本文の途中でユラ以外の視点になるときに使います。ご了承下さい。丸々別視点のときはいつもみたいにサブタイに記載します。



二階の奥の一室、周りよりはちょっと立派な扉にノックをしたらしい案内人に促されて僕を抱えたままのナハトが開いた扉を潜った。

後ろ向きで抱えられていた僕の視線の先で、案内人の女の人が扉を閉めようとしていてふと目が合った。

女の人は驚いて目を瞠ったあとすぐにニコッと笑って礼をして扉を閉めた。

・・・・・・何故、驚いたんだろうか。
理由はいくつか思い浮かぶが、あの眼差しは何となく、幼い子供を見るものだと思う。

───まあ、こんな体勢じゃ仕方ないか。

一人悶々としていたら、扉が閉まったとたん部屋の空気が変わり、ナハト以外の声が聞こえた。

思わず反射的にポーチのナイフに手が伸びる───が、その手がナイフを握ることはなかった。

「ユラ、大丈夫だから」
「───っ」

ナハトの強い腕の力で動きを封じられ、ビクッとして藻掻いたらナハトが僕に視線を合わた。
昨夜も見たルビーレッドの輝きが僕の思考を溶かしていく。

「・・・・・・ぅ?」
「すまない。少しの間、微睡んでいて」
「・・・・・・な・・・・・・と・・・・・・?」
「───おいおい、『魅了チャーム』とはちょっと穏やかじゃないな?」

第三者の───おそらくギルドマスターの険のある声が幾重にもベールを張った空間のようにぼんやりと耳から耳に抜けていく。

ゆらゆら、波に攫われたときのように心地いい。

僕は無意識にナハトの胸に擦り寄った。

   ◆◆◆

「・・・・・・オイ、どういうことだ、説明しろ」

いつもの穏やかな口調と雰囲気を消して剣呑になって俺を追及するエアリアルに溜め息を吐く。

「何から説明すれば?」
「まずはこの状況、チャームを使った理由から」

とりあえず座れ、と促されて、ぼうっとするユラを膝の上に横抱きにして自分の胸に寄りかからせる。
それを信じられないような目でガン見するエアリアルを無表情で見つめ返す。

「・・・・・・君がそんなことをするのは初めてじゃないか? その子を抱きかかえて来たときからおかしいと思ったが」
「まあな。俺だってこんな風になるとは思ってもいなかった」
「だからってチャームはよくないだろう。その子、どうみても未成年の子供だろう?」

エアリアルが眉をひそめてそう言うが、仕方ないだろう。

「だがこうでもしないとエアリアル、アンタ、この子にナイフで刺されてたぞ」
「───は?」

俺はポカンとするエアリアルに溜め息を吐いて言った。

「この子──ユラは俺をも傷付けられるだろう腕前だ。アンタの魔法でも発動前に殺られるんじゃないか?」

俺が抱きしめて制止していなければ、確実にナイフを握っていた。そのくらいユラは反射的に動いていた。
───殺られる前に殺れ、そう叩き込まれているように、ごく自然と、無意識下で行う仕草だった。

「・・・・・・何故、そんな・・・・・・私は彼に危害を加える気なんて全く・・・・・・」
「さっきまで俺が魔法で周りの音を遮断していた。其れを執務室の扉が閉まったとたん解除したからアンタの声に驚いたんだろう」

事前に断ってから解除すればよかった。これは俺のミスだ。
しかしそれを聞いたエアリアルが怪訝そうな顔で聞いてきた。

「・・・・・・未成年の子、なんだよな?」
「おそらく」
「なのに、そんな凄腕の暗殺者アサシンみたいな技術を? ・・・・・・聖域の湖にいたんだよな?」

それは当然の疑問だ。聖域に悪しきモノは何であろうと近づけない、ましてや湖になど行けないことを十分理解しているからだ。

しかし、ユラは当たり前のように受け入れられていた。なんなら誰かに聖域に連れて来られたように。

「いたな。だから俺が連れて来て、さっきまで俺の家にいたんだ」

そう言って俺はユラのフードを下ろしてから抱きかかえていない方の手でユラの柔らかい髪を掻きあげた。

露わになる長い耳。
エアリアルが息を呑んだ。エアリアルは精霊族だから、精霊族特有の魔力探知を使ってユラの凄まじい魔力量が分かったのだろう。

その桁違いの魔力量と長い耳で瞬時に察したエアリアルが、更に鑑定魔法を使ったのだろう。驚きの声をあげた。

「───まさか、最近はほとんど見ない稀少なハイエルフの子・・・・・・!」
「ああそうだ。俺の鑑定でも名前と種族くらいしか分からなかったが、エアリアルもか?」
「ああ、この私でも名前と種族だけだ。強力な隠蔽魔法がかけられているのか、見えないな」

渋い顔のエアリアルに苦笑する。彼の魔法は最高峰のレベルだからな。有り得ないと呟いている。

「これを見てくれ」

そんなエアリアルに、俺はユラの胸元からタグの付いたチェーンを引っ張り出して見せた。

それを手に取り見つめるエアリアルの顔が、驚愕なモノに変わっていった。

「───おい、これ・・・・・・亡国ウィステリアの紋章・・・・・・まさか、この子・・・・・・」

さすがは精霊族。自分達に近しい存在のエルフ族の国や里は把握しているようだ。もっともエルフ族は全般的に里も人数も少ないが。

「おそらく。ただ、本人はどうしてあの湖にいたのか分かっていないし、知識も偏りがあって常識の欠落が酷い」

違和感だらけのハイエルフの子供。異常な戦闘能力と大人びた言動、無理矢理大人にさせられたかのようなちぐはぐな様子。

「・・・・・・そこにきてアサシンのような身のこなし・・・・・・。東の大陸には依然として奴隷制度が残っていると聞く」
「ああ、きっと違法な奴隷も山ほどいるだろうな」

エアリアルの言葉に肯定する俺。もしやという考えにいたり、二人ともしばらく沈黙が続く。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

ふと、ユラが身じろいだ。どうやら緩くかけたチャームを自力で解いたようだ。
これにはオレもエアリアルも驚く。俺の力を持ってすれば、いくら緩くとも早々破ることは出来ないのに。
ユラの精神力が半端ないな。

「───・・・・・・れ? 気持ちい、の、終わっちゃった」
「───っぶほっ!?」
「・・・・・・・・・・・・」

まだぼんやりした瞳で上目遣いに俺を見たあと、そんなことを呟くユラに、思わず吹き出した。

片手で顔を覆って天を仰いだ俺はおそらく耳まで真っ赤だったろう。

思わず無言で俺を凝視するエアリアルには気付かないフリをした。





















※むっつり×天然・・・・・・。タグに入れるべきか?


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