(仮)攫われて異世界

エウラ

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10 異世界の街並み 1

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「準備出来たよ、ナハト」
「了解。じゃあ行くか」

ダボダボの服で格好が付かないが、緩くて落ちそうなウエストの部分をベルトでぎゅっと絞めて、そこにポーチを取り付けて自分の荷物を全部仕舞っておく。

最初に鑑定で出たように、盗まれたり失くしても僕の手元に必ず戻るし、僕以外が手をツッコもうとしても入らないらしい。

───うん、試しにナハトにポーチを持って離れて貰ったら一瞬で僕の元に瞬間移動してビックリした。
それで試しにと手を入れて貰おうとしたら、入れるどころかポーチの蓋も開けられなかった。もちろん実験に先だってポーチの中身をこっそりもう一つの小さいポーチに移しておいたんだけどね。万が一見られたらマズいモノばかりだし。

「凄いな。ここまで高性能なのは見たことないぞ」
「へえ・・・・・・僕も知らなかった」

ちなみに二階の寝室に置きっぱなしでも移動してこなかったのは、僕がそこに置いたとしっかり認識していたかららしい。

それでも誰かが移動させようとすれば即座に移動してくる仕様。
冒険者として旅をしていろんなところのいろんな魔導具を見ているというナハトでもこのレベルの魔導具は珍しいというくらいだから、色々バレたらヤバい。
だから異世界転移このことは墓場まで持っていこうと思う。

「あ、待ってユラ」
「え?」

玄関まで歩き出した僕を引き留めたナハトが、綺麗なスカイブルー色の膝丈の長さでフード付きのローブを僕にかけた。

「ユラのその姿を他のヤツらに見せたくないからな」
「・・・・・・? あー、サイズがぶかぶかで不格好だもんね。ありがとう」

確かに人目に晒すにはちょっとアレな姿だ。そう思って言ったんだけど。

「いや、うん、まあ・・・・・・そういうわけじゃないんだけど、可愛過ぎるから」
「?」

ちょっと顔を逸らしてボソボソ言うナハト。後半は小さすぎて聞こえなかったけど。

澄み渡るような空を彷彿とさせる色のフードをしっかりと被ると、視界はフードの空色とナハトの服の黒色だけになった。
・・・・・・ん? 迷子防止にと手を繋がれた。何故?
そりゃあナハトに比べたら小さくて子供みたいだろうし、初めての場所で確かに迷子になったら困るけど。

僕はこれでも二〇歳!

───まあ、冒険者ギルドの帰りに服を揃えて貰ったらゆっくり街並みを観察させて貰おう。

・・・・・・それが叶わぬ夢だともう少しあとで気付くのだが。

このあと冒険者ギルドから帰る道すがらナハトに声をかける大勢の人達に囲まれる羽目になるとはこのときは思いもしない。

支度を終えてナハトの家の玄関を一歩出ると、ヨーロッパのようなレンガ造りの街並みが広がっていた。

ナハトの家は少し小高い丘に建っていた。こじんまりとした、西洋の田舎のカントリーハウスみたいな一軒家。
ここはいわゆる郊外らしく、街の中心部や冒険者ギルドからは距離がある。
周りにはお隣さんと呼べるような家もなく、林が広がる長閑な田舎風な感じだったが、そこから見下ろすように見た街はかなり大きいように感じた。

「コッチだ」

手を引かれて僕はナハトを見上げた。

「・・・・・・何だ?」
「・・・・・・いや、何でもない」

・・・・・・本当に、異世界なのか?

海外の、それこそスイスとかに知らないうちに連れ去られたと言われた方がしっくりくるような街並みに、今更ながら自分が分からなくなる。

でも確かに昨日は魔法も使えたし、その魔法の鑑定で持ち物が色々と魔導具化してるのも確認した。
ナハトは昨夜よりは軽装だけど腰にはやはり剣を佩いている。夢ではないだろう。
さすがにそんな武器を堂々と持ち歩くのは海外でもそんなにないし。

何より昨日からの五感を刺激する音や匂い、それに感触はどうみても本物だ。空腹だって普通にあった。食べ物は美味しかった。

僕は湧き上がってくる言いようのない不安に、繋がれた手を無意識にぎゅっと握りしめていた。

「・・・・・・」

ナハトがそれをどう受け取っていたのか気付かないまま、視線を街並みに移すと言った。

「行こう。その冒険者ギルドとやらに」

それを聞いて静かに歩き出すナハトの横を、手を繋がれたまま僕も歩き出す。

今は、この手がとても温かくて頼もしかった。






















※ユラのポーチ、最初の方で一個のつもりで書いてましたが二個(大と小)にしたので加筆修正しました。ベルトの右脇に大、左脇に小のポーチ付きです。




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