(仮)攫われて異世界

エウラ

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7 聖域の異変と拾ったもの 2(sideナハト)

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北門を出てからはひたすら走る。

移動に馬を使う冒険者もいるが、向かった先での馬の管理に困る。人がいればいいが、大抵は依頼中は馬を放置することになるからな。
馬に逃げられたり魔物に襲われたりしたら目も当てられない。

そもそも俺の場合は気配に怯えて動物は萎縮してしまう。
いや、普通の動物はおろか屈強な冒険者の男達でも震えて動けなくなるからいつも気配を消しているのだが、稀に気配に敏感なヤツがビクッとしてたりする。

そういうわけで移動はひたすら歩くか走るに限る。ちっとも苦ではないが時間制限とかあるとまどろっこしいと思う。

ちなみに吸血鬼なので蝙蝠にもなれるが、サイズも両の手の平を並べたくらいの大きさでさほど大きくもなく、飛行速度は走るより遅いので却下だ。

そうしてひたすら走ることおよそ半日。

エクシズの森の入り口に辿り着いた頃にはすでに日が沈んでいて、辺りはすっかり闇に包まれていた。

俺はここで蝙蝠に変化へんげした。

森の中は浅いところに魔物が出現するが、奥に行くにつれ聖域の浄化作用で魔物は立ち入れなくなる。
更に湖に近くなると魔物ではない普通の動物すら近寄らなくなるので、本当に何の気配もしない。ゆえに聖域に入れる資格を有していてもわざわざ来る者もいない。

どちらかというと力の弱い精霊達のための聖域なのだろう。

生物は皆、大なり小なり体内で魔力を生成して生きている。そしてその魔力を溜める器が身体にある。
しかし個人差があり、その器が小さかったり逆に大きいのに生成出来る量が少なかったり。

ただ大気中にも魔力はあって、器に空きがあればそれを身体に取り込むことも可能だ。
世間一般に知られてはいないが、実はこの大気中の魔力は精霊達の発する魔力なのだ。
魔力を体内の器ではなく魔石という魔力を溜められる石に取り込み魔法に変換するのが魔導具というものだ。

魔法があまり使えない者もそのおかげで日常生活が楽になったり、魔物達から身を護ったりしている。

───ようするに、そんな大気中の魔力の源になっている精霊達を保護する場所が『聖域』というわけだ。

その中心となる湖まで行くのに深い木々の隙間をぬって走るのは骨が折れるため、ここでは蝙蝠の小ささが役に立つわけだ。魔物も躱せるからな。

そうしてヒョイヒョイと進み、夜更けに湖に辿り着いた俺は、蝙蝠のまま湖の畔に近付いていった。

───人の気配がする。・・・・・・いや、人──じゃない? むしろこの気配はエアリアルに似ていて・・・・・・。

地面に見つけた焚き火のあとと、そばの大木の枝に見つけた小さな気配。

幹に背を預けて薄いシートのようなモノに包まって眠っている・・・・・・少年?
薄い金色の柔らかそうな髪に白い肌。伏せられた目蓋を彩る、長い金色の睫毛。その下の瞳は一体何色だろう。
そしてシートから出ている華奢な足。
息をしているのか心配になるほど呼吸は静かだ。

しかし俺みたいに気配を消すのが上手いな、なんて感心しながらそばまで翔んでいき、変化を解いた瞬間───。

・・・・・・驚いて息を呑んだ。

彼の左手に握られた漆黒のナイフが俺の喉元に迫っていた。
咄嗟に踏み留まったからよかったものの、あと少しで切れていた。まあ、俺は首を刎ねられても死なないけどな。

だが普通に痛覚はあるので痛いのは勘弁願いたい。俺はMマゾではない。

閉じられていた目蓋が上がり、翠や青の混じった澄んだ強い光を放つ瞳が俺を刺すように睨んだ。

瞬間、ゾクッとした何かが背筋を走った。

───これだ。俺が求めていたモノだ。

何故か直感で分かった。逃がしちゃいけない。囲い込め。手放すな。彼は俺の───。

そこまで一瞬で考えてハッと我に返った。

「・・・・・・何者だ」

俺の気配を感じ取り、なおかつ殺れるだけの技術を持つ少年・・・・・・。いくら聖域にいられる存在とはいえ、あまりにも物騒過ぎる。

「・・・・・・それはこっちのセリフ。アンタこそ誰?」

質問に質問で返されて若干イラッとするが、それもそうかと息を吐いて気持ちを切り替えると、両手を上げて敵意のないことをアピールする。

それから自身の名乗りとここに来た理由を話すと、彼はナイフを仕舞った。俺を信用したのだろうと思ったが、どうやらそうでもないようで・・・・・・。

魔物という言葉や聖域を知らない様子で、首を傾げた。
俺も思わず首を傾げて考えた。

───もしかして記憶喪失? もしくは知識の偏りが酷い?  
・・・・・・並外れた戦闘センスと関係があるのだろうか?

無表情の下でキョトンとした雰囲気が感じられて、ハッと意識を戻すと話の続きをする・・・・・・が、やはり常識とか欠落している感は否めない。

すると自ら聖域の異変はおそらく自分で、どうしてここにいたのか記憶が曖昧だと申告してきた。

おいおい、マジか。

これは天然なのか謀略なのか。・・・・・・うーむ、今までのやりとりだけでみると前者のような気がするが・・・・・・。

「ココにいたら、マズい?」

そう上目遣いで言われて、表面上は平静を装ったが内心ではチャンスだと思い、彼を保護の名目でアムリタの俺の家に連れ帰ることにした。

俺の言葉に顔を上げた少年の瞳がガッツリ合った。俺は吸血鬼特有のスキルで瞳を輝かせ、彼を眠らせると周囲に残されたモノがないかを確認し、シートで華奢な身体を包むと左肩に抱えて木々をぬうように走り出す。

蝙蝠では運べないからな。

回収するモノが人だとは思わなかったが、俺にとっては僥倖ともいえる出逢いだった。
それに深夜、吸血鬼の俺には格好の時間だ。
昼間よりも格段に全ての能力が底上げされるから、こんな軽い少年一人抱えてアムリタまで走って帰るのなんて朝飯前。・・・・・・朝飯前なんて吸血鬼が使うのは間違ってるか。夜飯前? まあどうでもいいか。

今の俺は気分がいいからな。


───このあと、彼が少年ではなくすでに成人済みの青年だと知るまで、色々と一人悶々としながら堪えることになるのだが───。



※もう少しナハト視点続きます。



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