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6 聖域の異変と拾ったもの 1(sideナハト)
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※本日二回目の投稿なので、今日ここから目を通した方は一つ前に戻って下さい。一つ前はユラ視点です。こちらからナハト視点。
ここはこの世界にいくつかある大陸の一つで一番大きいロウエル大陸にあるカーネリア帝国、その北に位置する辺境の街アムリタ。
その日の昼過ぎ、今日は休養日と決めてのんびり過ごす俺の元にアムリタの冒険者ギルドからの緊急の呼び出しがあった。
その呼び出しに応じて、俺はシャツの上にアダマンタイトの胸当てを付け、腰には愛用のバスタードソードを佩いた。
その上に対魔法・対物理攻撃と防御力向上の魔法が付与された漆黒のローブとグローブというフル装備でギルドマスターの元へ向かった。
緊急の呼び出しのときはギルドタグが赤く点滅するようになっている。ただの呼び出しなら緑の点滅だ。
フル装備は滅多にない緊急の呼び出しに対応した形だ。いつもは胸当てもなしで本当に軽装だからな。
「失礼する。ギルドマスターはいるか?」
冒険者ギルドに入るなり受付の職員に声をかける。緊急なのだ、今は一秒でも時間が惜しい。
「オスクリタ様、ギルドマスターから承っております。こちらへ」
そう言ってすぐに案内されたギルマスの執務室にノックをして入ると、ここのギルドマスターであるエアリアルが執務机でいくつかの書類を見ていた。
エアリアルは純血の精霊族だ。
精霊族とは数多に存在する大小の精霊や高位森人の上位互換のような存在で、精霊を使った精霊魔法を得意とする種族だ。
これは精霊族や森人族系の特殊スキルで他の種族は使えない。
そして魔力が桁外れで不老長寿。聖域との親和性も高い存在。
眩しいほどの金髪に翠の瞳、肌は透けるように白く華奢で中性的な美人が多い。
精霊族は長命なうえに不老である程度の若い見た目で成長を止めるため、見た目で年齢は分からない。
たぶん彼も実年齢は───。いや止めておこう。彼はそういう気配も察するからな。藪蛇だ。
まあ、この世界には多種多様の種族がそれぞれのテリトリーを持ち、共存したり敵対したりしながら暮らしているわけだ。
かく言う俺も普通の種族ではないが。
「やあ、急にすまないねナハト。ひとまずそこに腰掛けてくれ。ちょっと急ぎの書類を片付けるから」
忙しなく書類に目を通しながらこちらも見ずにそういうエアリアルに、緊急といいながらもそこまで切羽詰まった案件ではないのかとホッと息を吐く。
お茶を出してくれたギルド職員に礼を言って口を付ける。俺は紅茶派でよく飲むから、ギルド職員も心得たように用意してくれてありがたい。
お茶を飲みながら少し待つと、目を通していたらしい書類を机に置いて俺の対面に移動して来て座った。
「今日は休養日だったろう? 悪かったな。ちょっと気になることがあって」
「それは構わないが・・・・・・滅多にない緊急の呼び出しに少々驚いただけだ。どうしたんだ?」
俺がそう言うと、エアリアルは早速とばかりに切り出した。
「実は昼前から『聖域』がちょっとザワついている」
「・・・・・・『聖域』が? エクシズの森だよな。どの辺りだ。湖付近か? どんな風にザワついてるんだ?」
心配になって若干前のめりに聞くと、エアリアルが苦笑した。
「ああ、悪い方じゃないんだ。何故かあの湖の付近の精霊達が歓迎ムードなんだよ。そもそも『聖域』に悪しき存在は入れないから心配はないと思うのだがね」
「───つまり『聖域』に精霊が好むような何かが紛れ込んだということか」
「そうなんだ。だが善きモノだとしてもさすがに『はいそうですか』と放置は出来ないだろう?」
精霊族であるエアリアルがそう言うのなら大丈夫なのだろう。場所が場所だし。
しかし『聖域』にねえ・・・・・・。一体どうやって紛れ込んだのか。
「害がないとはいえ何が紛れ込んだのかまでは分からないから、ナハトには状況確認と出来ればその存在の回収を頼みたい」
「・・・・・・そういうことならば、承った」
俺がそう言うと、エアリアルはホッとしたように微笑んだ。じゃあ、と腰を上げようとしたらエアリアルはハッとして言った。
「あの、本当におかしな気配じゃないから慌てなくて大丈夫だからな。『聖域』まではかなり距離もあるし、今から行ったら君でも走って半日はかかるぞ」
夜になるだろう、と心配げに言われたが。
「まあそうだが、それこそ俺は夜の方が動きやすいから別に構わないんだが」
今更? と言うように首を傾げればエアリアルに苦笑された。
「───あー、うん。そうだね。君は吸血鬼だったもんね。・・・・・・時々忘れそうになるよ」
───なんせ吸血鬼族の真祖で君自身は不老不死のデイウォーカーだ。陽の下で平然と活動できる数少ない吸血鬼だもんね。
それに『聖域』に足を踏み入れられる吸血鬼は稀少だよ。
そう言って今度は笑って俺を送り出すエアリアル。
俺は溜め息交じりの苦笑で手をひらりと振ると執務室をあとにした。
その足で街の北門に向かう。
目指すはアムリタから更に北にある、人族の足では徒歩で一日はかかるだろうエクシズの森の奥深くにある湖。
───別に吸血鬼だから『聖域』に入れないというわけじゃない。俺は吸血こそ滅多にしないが、純粋に生きるための糧として必要量飲む分には問題ない。
そもそも俺自身は不死だから血を飲まなくても飢餓感があるだけで死なないし。
ただ、吸血鬼は快楽のために弱者を嬲って殺傷したり、相手を死なせるほど吸血をするヤツらも一定数いるため、世間一般の認識として吸血鬼は悪しきものと言われているだけだ。
当然、そんな吸血鬼は『聖域』に近づけもしないが。
そんな吸血鬼の俺が普通に陽光の下で生活し、『聖域』に出入りしているもんだから、エアリアルも忘れるのは仕方ない。
さて、そんな『聖域の湖』を中心に広範囲で聖域が広がっているその森に入り込んだ何か。
興味深いな。
───まさかそこで運命の出逢いが待っていようとは、この時の俺は微塵も思わなかったのだった。
※数話、ナハト視点で話が続く予定です。ユラと被るところがありますがご容赦下さい。
ナハトの種族などをタグに追加予定です。
ここはこの世界にいくつかある大陸の一つで一番大きいロウエル大陸にあるカーネリア帝国、その北に位置する辺境の街アムリタ。
その日の昼過ぎ、今日は休養日と決めてのんびり過ごす俺の元にアムリタの冒険者ギルドからの緊急の呼び出しがあった。
その呼び出しに応じて、俺はシャツの上にアダマンタイトの胸当てを付け、腰には愛用のバスタードソードを佩いた。
その上に対魔法・対物理攻撃と防御力向上の魔法が付与された漆黒のローブとグローブというフル装備でギルドマスターの元へ向かった。
緊急の呼び出しのときはギルドタグが赤く点滅するようになっている。ただの呼び出しなら緑の点滅だ。
フル装備は滅多にない緊急の呼び出しに対応した形だ。いつもは胸当てもなしで本当に軽装だからな。
「失礼する。ギルドマスターはいるか?」
冒険者ギルドに入るなり受付の職員に声をかける。緊急なのだ、今は一秒でも時間が惜しい。
「オスクリタ様、ギルドマスターから承っております。こちらへ」
そう言ってすぐに案内されたギルマスの執務室にノックをして入ると、ここのギルドマスターであるエアリアルが執務机でいくつかの書類を見ていた。
エアリアルは純血の精霊族だ。
精霊族とは数多に存在する大小の精霊や高位森人の上位互換のような存在で、精霊を使った精霊魔法を得意とする種族だ。
これは精霊族や森人族系の特殊スキルで他の種族は使えない。
そして魔力が桁外れで不老長寿。聖域との親和性も高い存在。
眩しいほどの金髪に翠の瞳、肌は透けるように白く華奢で中性的な美人が多い。
精霊族は長命なうえに不老である程度の若い見た目で成長を止めるため、見た目で年齢は分からない。
たぶん彼も実年齢は───。いや止めておこう。彼はそういう気配も察するからな。藪蛇だ。
まあ、この世界には多種多様の種族がそれぞれのテリトリーを持ち、共存したり敵対したりしながら暮らしているわけだ。
かく言う俺も普通の種族ではないが。
「やあ、急にすまないねナハト。ひとまずそこに腰掛けてくれ。ちょっと急ぎの書類を片付けるから」
忙しなく書類に目を通しながらこちらも見ずにそういうエアリアルに、緊急といいながらもそこまで切羽詰まった案件ではないのかとホッと息を吐く。
お茶を出してくれたギルド職員に礼を言って口を付ける。俺は紅茶派でよく飲むから、ギルド職員も心得たように用意してくれてありがたい。
お茶を飲みながら少し待つと、目を通していたらしい書類を机に置いて俺の対面に移動して来て座った。
「今日は休養日だったろう? 悪かったな。ちょっと気になることがあって」
「それは構わないが・・・・・・滅多にない緊急の呼び出しに少々驚いただけだ。どうしたんだ?」
俺がそう言うと、エアリアルは早速とばかりに切り出した。
「実は昼前から『聖域』がちょっとザワついている」
「・・・・・・『聖域』が? エクシズの森だよな。どの辺りだ。湖付近か? どんな風にザワついてるんだ?」
心配になって若干前のめりに聞くと、エアリアルが苦笑した。
「ああ、悪い方じゃないんだ。何故かあの湖の付近の精霊達が歓迎ムードなんだよ。そもそも『聖域』に悪しき存在は入れないから心配はないと思うのだがね」
「───つまり『聖域』に精霊が好むような何かが紛れ込んだということか」
「そうなんだ。だが善きモノだとしてもさすがに『はいそうですか』と放置は出来ないだろう?」
精霊族であるエアリアルがそう言うのなら大丈夫なのだろう。場所が場所だし。
しかし『聖域』にねえ・・・・・・。一体どうやって紛れ込んだのか。
「害がないとはいえ何が紛れ込んだのかまでは分からないから、ナハトには状況確認と出来ればその存在の回収を頼みたい」
「・・・・・・そういうことならば、承った」
俺がそう言うと、エアリアルはホッとしたように微笑んだ。じゃあ、と腰を上げようとしたらエアリアルはハッとして言った。
「あの、本当におかしな気配じゃないから慌てなくて大丈夫だからな。『聖域』まではかなり距離もあるし、今から行ったら君でも走って半日はかかるぞ」
夜になるだろう、と心配げに言われたが。
「まあそうだが、それこそ俺は夜の方が動きやすいから別に構わないんだが」
今更? と言うように首を傾げればエアリアルに苦笑された。
「───あー、うん。そうだね。君は吸血鬼だったもんね。・・・・・・時々忘れそうになるよ」
───なんせ吸血鬼族の真祖で君自身は不老不死のデイウォーカーだ。陽の下で平然と活動できる数少ない吸血鬼だもんね。
それに『聖域』に足を踏み入れられる吸血鬼は稀少だよ。
そう言って今度は笑って俺を送り出すエアリアル。
俺は溜め息交じりの苦笑で手をひらりと振ると執務室をあとにした。
その足で街の北門に向かう。
目指すはアムリタから更に北にある、人族の足では徒歩で一日はかかるだろうエクシズの森の奥深くにある湖。
───別に吸血鬼だから『聖域』に入れないというわけじゃない。俺は吸血こそ滅多にしないが、純粋に生きるための糧として必要量飲む分には問題ない。
そもそも俺自身は不死だから血を飲まなくても飢餓感があるだけで死なないし。
ただ、吸血鬼は快楽のために弱者を嬲って殺傷したり、相手を死なせるほど吸血をするヤツらも一定数いるため、世間一般の認識として吸血鬼は悪しきものと言われているだけだ。
当然、そんな吸血鬼は『聖域』に近づけもしないが。
そんな吸血鬼の俺が普通に陽光の下で生活し、『聖域』に出入りしているもんだから、エアリアルも忘れるのは仕方ない。
さて、そんな『聖域の湖』を中心に広範囲で聖域が広がっているその森に入り込んだ何か。
興味深いな。
───まさかそこで運命の出逢いが待っていようとは、この時の俺は微塵も思わなかったのだった。
※数話、ナハト視点で話が続く予定です。ユラと被るところがありますがご容赦下さい。
ナハトの種族などをタグに追加予定です。
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