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20 こちらは騎士団総長様
しおりを挟む食堂の空気が一触即発な状態に陥ってしまって、その場の誰もが動けずにいた。
そんな中、のほほんと話し出したのはユールングと呼ばれた角の人だった。
「おや、誰かと思えばファティマ殿ではありませんか」
「何だ、誰かと思ったら貴様か」
ユールングの声に憮然として返すファティマ。
ファティマの剣呑とした空気はやや和らいだが、しかしそれでもファティマは桜雅を離さない。
「桜雅は僕の唯一の半身だぞ。泣かすな」
「おやおや、それは存じ上げませんで、申し訳ありませんでした」
「───相変わらずだな。まあ良い。・・・で? 何しにきた。まさか桜雅を王都に連れて行く気じゃあるまいな?」
桜雅をぎゅっとしたまま睨みつけるファティマに、今度はベオウルフ達がオロオロしだした。
「ユールング総長、ファティマ殿とお知り合いなので?」
「うん。知り合いだね」
「かれこれウン百年の腐れ縁だな」
そう言うユールングに、眉間に皺を寄せてブスッと言うファティマ。
「・・・・・・水を差すようでスミマセンが、あの・・・自己紹介などして頂けると助かるのですが・・・」
おずおずと桜雅が手を上げてそう言って、初めてまともな挨拶をしていないことに気付いたユールングが、苦笑した。
「ごめんごめん。俺はユールング・ユリアンと言う。ベオウルフ達騎士団や他の幾つもある王都騎士団を取り纏めるトップの役職名が総長。ちなみに公爵位を持つので閣下とも呼ばれる、ただいま絶賛お嫁さん募集中の竜人だよ。よろしくね」
そう言って軽くウインクをした。
───チャラい上司。
そんな第一印象を持ってしまった桜雅だった。
「見た目からしてチャラいだろう? アイツは無視して良いからな、桜雅。無意識に相手を落としてるように見せかけてその実、確信犯なんだぞ! ヤツの毒牙にかかって涙を溢したヤツは星の数ほどいるのだ!」
「酷い言い草だなあ・・・・・・否定はしないけど」
ファティマの言い様に苦笑を漏らしながらも本当の事らしいユールング。
「そんなヤツが何の用事もなしに桜雅に接触するはずが無い!」
「はいはい、そうですね。仰るとおり、国王陛下からの招喚ですよ。『この度オルヴァ団長が保護した吸血鬼との対談を望む』とのことです。桜雅君、貴方の都合で構わないので近いうちに王都にきて欲しいんだ。どう?」
「・・・どう? と言われても・・・。ベオウルフは? 一緒じゃダメですか?」
桜雅は迷ってそう言った。
「別に一人で来いって言われてないし、大丈夫だと思うよ。そもそも食料が無いと桜雅君が困るよね?」
「・・・餌・・・」
「まあ、合ってるね」
間違いじゃないが、言い方・・・と桜雅が微妙な顔をすると、トーイが言い得て妙だと頷いた。
「おい」
思わずベオウルフがトーイにツッコミを入れていると、ファティマも何やら頷いて言った。
「じゃあ、僕も保護者として同席しようっと」
「「えっ?!」」
「マジ?」
「───へえ?」
桜雅とトーイが驚きの声を上げ、ベオウルフは思わず目上の人に相応しくないツッコミを入れ、ユールングは感嘆の声を上げた。
「俗世に無関心で不干渉なファティマ殿がねえ。・・・そんなに大切な方なんですか?」
「言っただろう? 僕の唯一の半身だって。心も身体も傷付けることは許さない。可愛い可愛い僕の子なんだから。絶───対に手ェ出すなよ!!」
そう言ってファティマは牙を剥いてがるるるっと威嚇した。
「───それ、ベオウルフがやることですよね?」
貴方は吸血鬼なのでは?とほのほのと笑うユールングに、桜雅は今イチ読めない人だなと警戒心を持つのだった。
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