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14 ノスフェラトゥの王 2
しおりを挟むアルス副団長の部屋だという場所でベオウルフ達が見たのは、アルス副団長を軽々と片手で持ち上げる、桜雅に瓜二つの吸血鬼。
急に桜雅がアルスの部屋の方に向かっていくので慌てて追ってみれば、なんだこれな状態で。
桜雅と桜雅に似た吸血鬼は、お互いポカンと見つめ合って数秒。
「───桜雅ぁ───!! 会いたかったよ、無事で良かったよぉ!! 痛かったよね、大丈夫だった?! この愚図のせいで酷い目にあったねぇ?!」
「えっ? あっ、イヤえっ・・・と・・・ぅぐっ」
ファティマと呼ばれた吸血鬼は持ち上げていたアルスをぱっと離すと桜雅に駆け寄って来て叫びながら抱き付いてきた。
思わず桜雅が呻く。
「何なの、せっかく桜雅を助けてくれると思って騎士団に保護して貰ったのに、コイツのせいでコイツのせいで───!! 巫山戯んなよ、お前!!」
ぎゅっと桜雅を抱き締めながらアルスに向かって文句を言いまくるファティマ。
苦しくなった桜雅がファティマの腕をタップすると、気付いて緩めてくれた。
アルスは床に蹲って咽せている。
トーイが駆け寄って様子を見るが、ちょっと首を締められた痕が赤く残っていただけで特に怪我はないようだ。
「・・・ファティマ、あの」
「っなあに、桜雅?」
「俺は大丈夫だから、許してあげて?」
「っ桜雅は優しいな。分かったよ。おいお前、仕方ないから殺すのは止めておく」
「・・・・・・あ、りがとうございます・・・けほっ」
桜雅に請われてケロッと手のひらを返す桜雅そっくりな吸血鬼に呆れながら、ベオウルフが聞いた。
「・・・で、そろそろ自己紹介よろしいですか?」
「・・・・・・ええ、面倒くさ、イヤうん、桜雅の為だもんね。僕はファティマ。吸血鬼の始祖だよ。で、桜雅は僕の半身。僕の血を分け与えた唯一の存在」
心底面倒臭そうにしながら、サラッとそう言った吸血鬼は、自身を『始祖』だと言った。
「───吸血鬼の始祖って、この世界誕生の時代から存在する、伝説になっている創造主の始まりの子では・・・?」
トーイが唖然として呟いて、アルスも顔を強張らせていた。
ベオウルフはポカンとしてから、二人を見つめた。
そう言われれば、瓜二つなのも異常な回復力も納得できる。
始祖は不老不死だという話だ。
「そうだね。面倒だから普段は表には出て来ないけど、桜雅が辛い目にあってたからさ。桜雅は吸血鬼になりたてだから、コッチの常識とか分からないんだよ。だけど僕もそういうの疎くてね。ベオウルフ、その辺しっかり教えて面倒見てね」
「えっ、そうなのか? じゃあ桜雅はやっぱり元は人族だったのか」
ファティマの説明にベオウルフが確認をする。
それに頷くファティマ。
「そう。でも祖先に吸血鬼の血が入っていたおかげで僕の血に適応出来て良かったよ。死ぬところだったから。・・・だからベオウルフに幸せにしてもらいな、桜雅」
「・・・・・・何となく助けて貰った記憶があったけど、ファティマだったんだね。ありがとう」
誰かに何か言われた気がしてたのはこれだったんだな。
「うんうん。桜雅は僕ほどじゃないけど不老で死ににくいから、元気になれば陽光にも耐性がつくよ。でもそこそこ痛みはあるからあんまり昼間は出歩かない方が良いよ」
「分かった。もう痛いのはちょっとイヤだな」
ファティマの言葉に苦笑する桜雅。
アルスは苦い顔だ。
「じゃあ僕は消えるけど、たまに様子を見に行くかもね。行かなくても見てるからね。桜雅は吸血鬼だけど、ベースは人族だから、血を飲む以外は生活習慣はベオウルフ達と同じだから御飯も食べれたでしょ? 栄養にはならないけどね。ただ吸血鬼になったから昼夜逆転は仕方ないかな。慣れるまでは気を付けて」
そう言ってファティマは桜雅の額に口付けを贈ると笑って消えた。
辺りはシンとして、さっきまでの騒ぎが嘘みたいに静まり返った。
「・・・アルス」
「・・・・・・はい。すみませんでした。不意に現れて、あのような状態で・・・」
「・・・自業自得だが、まあ桜雅のおかげで助かって良かったな」
「・・・本当にすみませんでした、桜雅殿」
「殿、なんて良いから、怒ってないし。ファティマがごめんなさい」
「いやいや」
「はいそこまで。いい加減にしないと終わらなくなる」
トーイが止めて、皆はそうだなと笑った。
アルスは食堂に向かい、桜雅達はベオウルフの部屋に戻った。
桜雅の食堂の仕事とか詳しい話をしてトーイが自分の部屋に戻ると、暫く気まずい空気が流れた。
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