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12 就職先は食堂(ただし夜勤) 2
しおりを挟む「じゃあ料理長達に顔見せも兼ねて、あちらの列に並ぼう。メニューは日替わりで肉か魚かってくらいかな。量は頼めば減らしてくれる」
「あとは種族によって苦手なモノや食べられないモノがあれば事前に申告すれば避けておいてくれるんだ」
ベオウルフとトーイが分かりやすく説明してくれる。
なるほど、確かに種族的に無理のモノもあるよね・・・・・・俺みたいに。
さすがに血の提供は行っていないだろう。
───してたら逆に怖いが。
ヘンな想像をしてぶるっとしてしまった。
ベオウルフ達の番になって、ベオウルフが肉料理を頼むとカウンターにいたお兄さんが大盛りによそって出してきた。
トーイは魚料理で普通。
取り分けように小皿も貰う。
「料理長、コイツが吸血鬼の桜雅だ。これから話をするけど、よろしく頼むな」
「ああ、さっきの声が聞こえてたぜ。よろしくな。俺は料理長のリカルドだ」
「桜雅です。よろしくお願いします」
元気な声でニカッと笑うリカルドに桜雅もにこっと笑った。
途端に厨房がざわっとしたがベオウルフ達に促されて席に向かってしまったので、桜雅が現状を確認することは出来なかった。
厨房では桜雅の笑顔にやられた料理人達が何人も前屈みになっていて、リカルドに怒鳴られていた。
どうやら桜雅が無意識に魅了をしていたらしい。
軽ーく、本当にちょびっと出ただけだが、免疫のない若い野郎には刺激が強かったようだ。
ベオウルフ達は、これは制御出来るまで魔導具が必要だなと心にメモった。
席に戻ったベオウルフ達は、それぞれのトレイから桜雅が食べられそうな料理・・・というか食材を桜雅に取り分けて貰う。
「・・・ええと、一通り、一口づつ貰っても良いですか?」
「構わない。好きに取って食べてみてくれ。何、口をつけたものでも俺が残さず食べるから心配要らないぞ」
「・・・ありがとうございます」
そう言われたらじゃあ遠慮なく。
美味しそうな匂いがするけど、味は分かるのか?
そもそも口に入れられるのか・・・?
かなり緊張しながら、まず、コップの水を恐る恐る一口ペロリと舐める。
うん、普通に水の味がした。
水の味って言うのもヘンだけど。
野菜をフォークに刺して口に運ぶ。
躊躇無く口に入れてることに自分で驚く。
・・・俺、やっぱり普通に食事していたんじゃないかな?
野菜の味がする。
肉も、魚も、ちゃんと味がした。
「・・・・・・どうだ?」
「・・・噛んで味わって呑み込んで・・・幸せそうな顔をしてるんですけど」
「───美味しいです。普通に食べられますよ。ビックリです!」
桜雅は紅潮しながら話す。
どことなくテンションが高い。
桜雅の言葉にベオウルフ達も驚いた。
その裏で、一つの可能性を見いだす。
『後天性の吸血鬼』
普通の人族だった者が吸血鬼になる現象。
それこそ滅多にないが、純血の吸血鬼によって血を分け与えられ、人族が吸血鬼に変容する事があるのだ。
その場合、今までの生活習慣で食べたり飲んだりしていたモノは嗜好品扱いになり食事を摂る事が出来るらしい。
当然、何の栄養補給にもなりはしないのだが。
二人は顔を見合わせて頷いた。
・・・恐らく、死にかけたときに何処ぞの吸血鬼の気紛れで血を分け与えられたのだろう。
それが偶然にも適合して吸血鬼となって甦った。
記憶が無いのもその弊害かもしれない。
吸血鬼になってでも助かって良かったのかどうかは桜雅以外には分からないが・・・。
「・・・なぁ、桜雅。料理の味が分かるなら尚更、この食堂で働かないか?」
「・・・・・・え? ココで?」
でも、昼間は無理だよね?
そう思っていたらトーイが補足してくれた。
「ええ、夜勤の騎士達にも食事の提供があるんだけど、夜は人手が足りないんだ。そこで夜こそ元気な吸血鬼の桜雅に手伝って貰いたいと、さっきの料理長から言われててね」
「夕方から朝日が昇る前までで良い。どうだ?」
そういうことなら・・・。
「───俺、やりたいです。このままどうしようって思ってて・・・お役に立てるなら、こんなに嬉しいことはないです!」
「ヨシ、決まりだな」
「詳しい事はこの後決めて、今は食事を楽しもうか」
「はい!」
そういって、三人は和やかに食事を摂った。
ちなみに桜雅の分は追加で貰ってきた。
普通の人と変わらない食事風景にほっとしながら夕御飯を食べたのだった。
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