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7 常識って何ですか?
しおりを挟むえーと、何がマズかったのか全然分からないんだけど?
「・・・・・・あの、何か・・・?」
「───はっ! いえあの、脱がなくても大丈夫ですよ! まあ、もしもの時は前釦くらい外して貰えれば・・・」
トーイが慌ててそう言った。
「・・・・・・そうか、記憶が無いから一般常識的なのも忘れてるんだな・・・」
ベオウルフもぽそぽそと何か言っているがよく聞こえなかった。
そんな中、トーイが桜雅の手首を軽く握って言った。
「これから軽く魔力を流します。気分が悪くなったり違和感があったら言って下さいね」
「・・・はい・・・・・・魔力?」
「───あー、後でまとめて疑問に応えるので、とりあえずそのままジッとしてて下さい」
「分かりました」
そう言うと、トーイが何か呟いた。
すると暖かな何かがじんわりと体を巡っていく感じがした。
でもちょっと左胸の辺りに違和感があるような?
「───うん、大丈夫そうですね。魔力もスムーズに回ってます。ただやはり、栄養失調のようですね。おそらく今までほとんど吸血していなかったんでしょう。何とか血を飲まないとまた倒れますよ」
「───血を、飲む・・・・・・」
思わずベオウルフを見上げると、ベオウルフはちょっと顔を赤らめながら言った。
「俺の血を飲めたから、欲しいときに飲めば良い。量も大して飲んでなかったし。・・・あんなに少なくて保つのか?」
「・・・そんなに少ないのですか? 個体差ですかね? 普通は一度にこのコップ一杯は飲むらしいですが。それで数日は平気らしいですよ」
そういって見せてくれたのは150mlくらい入るコップだ。
え、そんなに血を飲むの?
そもそも血って飲むモノじゃ無いよね、鉄臭いし。
・・・アレ?
でもベオウルフの血はほどよい甘さでとっても美味しかった・・・?
吸血鬼だから美味しく感じるのかな?
「・・・桜雅はこれくらいしか飲まなかったぞ」
そういってベオウルフが指で示したのはおちょこくらい。
え、もの凄く燃費良い体だ。
「そうなんですね。やはり桜雅はちょっと変わってますね」
「そうなんです? 自分じゃ全く分からないんですけど。・・・そういえばさっきの魔力?ぐるぐるで何か胸に違和感が・・・・・・」
「え?! それは大変です、どの辺りです?」
「えっと、左胸辺りに・・・」
そういって釦を外すと前を開いた。
トーイとベオウルフがギョッとしたので、もしかして肌を見せるのが良くないのかなと思ったが、とりあえず放置した。
見て貰わないと仕方が無い。
───後で疑問は聞いてくれるって言ってたし。
で、ペラッと捲ると心臓の辺りを見た。
二人もつられて見てハッとした。
・・・そこには蒼い薔薇の刺青のような痣が浮き出ていた。
桜雅がギョッとしていると、トーイはベオウルフに目線を送った。
え? 何?
ベオウルフがおもむろにシャツをはだけると、同じ場所に同じ痣があった。
「───え? どういう事?」
お揃いのように全く同じ痣。
トーイが少し考えてから苦笑して言った。
「・・・・・・言い方はアレですが、おそらく桜雅の食糧になったんですよ、オルヴァ団長が」
「・・・・・・食糧・・・」
・・・・・・マジですか。
「ええ、貴方は吸血鬼の中でもごく稀な偏食家で特定の血しか受け付けない体質なんでしょう。だがオルヴァ団長の血は飲んでいた。だから確保するために無意識に契約を結んでしまったんでしょうね」
「・・確保・・・・・・契約って、それ大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと思いますよ。ようは桜雅のモノだから他の吸血鬼は手が出せないって事です。弊害としては桜雅の寿命が尽きるまでオルヴァ団長も長生きするって事でしょうか。時が止まって歳をとらなくなるようですね」
「え?! それって、俺が死んだらベオウルフも・・・?!」
「いえ、その時は契約が切れて解放されるだけで、オルヴァ団長は再び時間が動き出すって事ですね。まあ、私も知識でしか知らないので何とも言えないのですけど」
「・・・・・・そっか。良かった。良くないけどひとまず良かった・・・」
契約破棄とか知らないもの。
「───でも、ごめんなさい。勝手に・・・知らなかったとはいえ・・・。契約破棄もやり方分からないんですけど、どうしよう」
桜雅が眉を下げて申し訳なさそうに言ったが、ベオウルフは気にしてないようだった。
「俺は構わないぜ。元々人狼も長生きする種族だし。まあ吸血鬼ほどじゃ無いけどな」
「そうなんです?」
「そういうのも含めて、無くした常識も勉強しましょうか。ひとまず、服の釦留めて。ここでは同性愛も同性婚も普通にありますので、むやみやたらと肌を見せては駄目です。さっきみたいに言うと誘われていると勘違いされて襲われますよ?」
「・・・・・・襲われる?」
───前みたいに。
・・・前?
前って何だ、何時のこと?
「っ前、みたい・・・に、襲われ・・・て」
「・・・桜雅?」
「・・・・・・俺、刺された?」
思い出そうとすると頭が痛くなって・・・。
思い出すなって、忘れてって・・・誰?
「桜雅?!」
───ゴメンね、変容がまだ不完全だったみたいだ。
魂が馴染めば落ち着くから。
もう少し眠っていて。
その間に向こうでの辛い記憶は消えるから。
おやすみ、桜雅。
「・・・・・・おやすみ・・・?」
頭の中に聞こえた声に律儀に挨拶をして、桜雅は再び意識を失った。
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