13 / 25
13 ノスフェラトゥの王 1
しおりを挟む僕はこの世界に存在する様々な種族の中でもっとも永い時を生きている吸血鬼の始祖だ。
始祖である僕だけは不老不死の為、陽光も何も全く効かない。
この世界の創造主が生み出した最初の生命。
創造主がうっかり流した血から偶然生まれたのが僕。
見た目は20歳くらいの青年だ。
腰まである長い黒髪に蒼い瞳。
ちょっと童顔で、そう、ちょうど今しがたストーカーに刺された彼にそっくり。
───たまたま、そう、ほんの気まぐれで覗いた『地球』という異世界。
始祖である為、能力も桁違いで創造主に次ぐ力があって、たまに違う世界を覗いては界渡りをして刺激を受けていたんだけど。
どうやら彼はウチの世界から偶然界渡りをした誰か、吸血鬼の血を引く地球人らしかった。
その血はかなり昔のなのだろう、今はほとんど無いようにみえる。
吸血鬼の特性・・・陽光に弱いとか吸血衝動なども見られなかった。
興味を惹かれて暫く観察していれば、バイト帰りに襲われて、今まさに死にかけている。
自分にそっくりな容姿の青年が、自分の流した血の海に浸りながら『血がもったいない』なんて考えていることに気付き、思わず笑ってしまった。
ああ、こんな死に際でも本能が叫ぶのか。
食糧がもったいないなんて。
・・・・・・実際は桜雅が思っていたのは献血の方だったのだが、曲解した吸血鬼の始祖は今まさに死の淵にいる桜雅に告げた。
「僕の血をあげるから、吸血鬼になって僕と永遠を生きよう。君なら絶対、吸血鬼になれる。だって僕の血をあげるんだもの。ねぇ、僕に瓜二つの桜雅。僕の半身。これは運命だよ。必然だ」
だから、僕には出来ないことをたくさん経験して、僕を楽しませて?
体が変容するまで、暫くおやすみ。
大丈夫、僕がちゃんと元の世界に連れ還ってあげるから。
桜雅を刺したストーカーが何か叫んでいるが、構わず放置した。
どうせ僕の事なんて、この地球では絵空事だ。
誰も信じない。
・・・・・・ああ、そういえばUMAっていうのに当て嵌まるのかな?
クスッと笑って桜雅を抱えると、唖然としているその男を見返すこともなくそのまま界渡りをして戻った。
「・・・・・・さて、連れ還ったは良いが、どうしようか?」
そういえば桜雅も僕も血塗れだった。
洗浄魔法で綺麗にして・・・・・・ああ、生活魔法の一種の洗浄魔法は体や物を清潔に綺麗にするモノだから大丈夫だよ。
ヤバいのは聖魔法の浄化魔法だからね。
アレは僕や桜雅は死なないけど、そこそこ低位の魔族系は浄化されて消えるから。
地味に痛いし、陽光浴びるのと変わらないから気を付けてね。
・・・・・・え?
誰に話してるって?
独り言だけど、地球では寝ているうちに学習する睡眠学習ってのがあるんでしょ?
ソレだよ。
桜雅が変容中に刷り込んでおかないとね。
でも僕も世間一般の常識なんて知らないから、取りあえず記憶は真っ新にして、と。
ああでも、名前と今の歳くらいは憶えていても良いよね、ヘンな名前つけられたらイヤだし。
僕が桜雅の名前、気に入ってるから。
取りあえず、ココの騎士団は優秀だし色んな種族がいるから、きっと馴染んで大事にして貰えるはず。
ココで御世話になって常識を身につけてね。
「───って思って預けたのに、何で?」
たまたま?
いいや、必然的に桜雅の好きなタイプをあてがったのに。
「・・・・・・何で桜雅が傷付いてるのかな? ねぇ、何で?」
「───ぅ・・・、や・・・・・・その・・・ッ」
お前が傷付けた。
アッチの世界で傷付いたから、コッチでは幸せになって欲しくて吸血鬼にして連れ還って来たのに。
「ねぇ、何故、僕の半身を傷付けたの? 桜雅は吸血鬼になりたてで、弱っていたのに。護って欲しくてココに連れて来たのに、ねぇ何で? ・・・・・・応えろよ」
「ぅぐっ・・・っ」
感情ののらない顔で淡々と話す。
襟元をつかみ上げると苦しそうに呻いた。
僕より大きくてゴツいけど、片手で持ち上げられるよ。
「す、すみませ・・・っ俺が、早とちり・・・して」
「だからって許されると思ってんの?」
思わず眉を寄せて力を込めた瞬間───。
「・・・・・・ファティマ?」
食堂からの帰り道、微かな気配を感じてやって来た部屋で桜雅達が見たものは、片手で掴み上げられたアルス副団長と、アルスを掴み上げている桜雅に瓜二つの吸血鬼だった。
239
お気に入りに追加
551
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる