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4 満月の夜に拾ったモノ 1(sideベオウルフ)
しおりを挟むその晩は綺麗な満月で、夜番の俺は内心ドキドキしながら街中を巡回していた。
二人一組で見廻る決まりだ。
何かあれば一人は対処に、一人は連絡係になる。
俺は人狼なので、満月の夜はちょっとテンション上がっちゃうんだよな!
当番で組んでいる新人もそれが分かっているんだろう。
何となく浮かれた感じで巡回していたその時、街外れの林の方に、不意に強い気配を感じて、新人と走った。
林に辿り着く前に、広場の噴水脇のベンチに人影が見えた。
直感で分かった。
さっきの強い気配の主だと。
しかし最初のような気配はなりを潜め、今にも死にそうな様子に慌てて駆け寄ると抱き起こす。
しかし呼びかけに全く反応が無い。
ざっと見た感じ、外傷は無い。
質の良いシンプルなシャツにパンツ、ショートブーツと、他に所持品は無さそうだ。
新人に連絡を取って貰い、ひとまず騎士団の宿舎に連れ帰って医療部長に見て貰うと・・・。
「───彼、吸血鬼ですよ。おそらく空腹で倒れたんだと思いますが」
「え、吸血鬼・・・空腹で?」
「ええ。おそらくずっと血を飲んでいないのでは? 有り得ないことでは無いですが、ごく稀に、嗜好が偏っていて特定の血しか受け付けない個体もいるようなので、彼ももしかしたらそのごく稀に入るのかもしれませんね」
確かに、人狼族でも肉よりも野菜が好きなんてヤツがいたなあ。
俺達は大抵何でも食べるから好き嫌いなんて気にしたことは無いが、そうか、吸血鬼で偏食だと辛いモンがあるよな。
アレか、酒で例えると特定のワインだけしか飲めない的な?
嗜好品なら構わないが、生命維持の食事でそれは辛い。
腹減ってるのに食べられないって事だろう?
だからって好みの味を探して無作為に他人の血を味見しまくるわけにいかないだろうし。
まあそんなことをしていたら討伐リスト入りだけどな。
「まあ、もしかしたら空腹で襲われるかもしれませんが、オルヴァ団長なら少しくらい血を吸われても死にはしないですよ。寧ろたくさん吸われた方が良いんじゃ無いんですか? 血の気が多いんですし。ああ、あとカーテンはしっかり締めて陽光が入らないようにして下さい。弱った吸血鬼には少しの陽光でも命取りですからね」
「・・・うっせぇわ! 分かってるよ!」
ふふふと笑って部屋を出て行く医療部長を見送ってから、自分のベッドに横たわる青年を見る。
顔色は真っ青で、血の気が無い。
死人のようだ。
息をしているのが不思議なくらい。
唇を指でそっと開くと、犬歯がナルホド確かに普通より鋭く長めだ。
俺達人狼族も犬歯は鋭いが太い。
吸血鬼は細めなんだな。
耳も少し尖ってる。
森人ほどじゃないが。
・・・なんて考えていたら、ぐうっと音が聞こえた。
「・・・・・・ん?」
何だと思うでも無く、ああ、この青年の腹の虫かと思い至り、好奇心から己の右手親指をガリッと犬歯で咬み、血を流すと青年の口にツッコんだ。
数秒後、青年の舌がちろっと親指の傷を舐めた。
「───え」
小っさい口がもごもごと動き出して、無意識にちうちうと吸い出した。
「・・・・・・マジかぁ・・・」
どうやら俺の血が嗜好にドンピシャだったらしい。
その内に両手でベオウルフの右手を握って、離さないと言わんばかりに一生懸命吸い出した。
意識が無いのに。
ちうちう、ぺろぺろ。
赤子が親のお乳を精一杯吸っているようなその様子に、ベオウルフは何だかほんわかと母性本能・・・いやいや父性本能が湧き上がった。
どうにも護ってやりたい気持ちがムクムクと湧いてくる。
やがて満足したのか、へにゃりと笑って口を離すと、そのまま眠ってしまった。
血色は良くなり、呼吸もしっかりしている。
さほど吸ってはいないはずだ。
量的には小さいおちょこ一杯分くらい。
最後は俺の傷が塞がってしまって飲んでなかったし。
「───足りるのか? 他の吸血鬼はもっと飲んでたよな? 個体差か?」
色々疑問が湧き上がったが、目覚めたら聞けば良いかと、自分も隣に体を滑り込ませて目を瞑った。
冷たかった体温は今は少し上がったようだ。
すりっと寄ってきたので、抱き込んで温めるようにしてやると、ほっとしたのか、穏やかに眠りだした。
「───可愛いな」
クスリと笑って、ようやく自分も眠りに入った。
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