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雨を待つ隠れ家 前(sideリッカ)
しおりを挟む・・・雨の音がする。
何も聞こえない。
何も見えない。
あの日、全てを喪った。
なのに、雨音だけは聞こえる。
それは、あの日まで、確かに僕の心の最後の砦を護ってくれていた彼が生きていた証だから。
『雨の日は外の仕事が殆どないんだ』
そう言って、降っている間中、僕の側で他愛ない話を、日本語で話してくれた。
300年の絶望の中で初めての光だった。
FFOにログイン中に、急に光る魔方陣のようなものが現れ、ぼっちな僕は誰にも気付かれずに、地球上から消えた。
途中、異世界の神様が気付いて、不完全な禁忌魔法のせいで魂だけとなった僕をすくい上げ、アバターを肉体に構築し直し、その器に容れると、謝罪と共に、加護をくれた・・・んだったけど。
魂が器に馴染む前に召喚陣に現れた僕は、身体が幼稚園児くらいで意識は全くない状態。
次に気が付いた時には、首にゴツい輪が嵌まっていて、自分では外せないし、外そうという行為すら出来なかった。
ピンときた!
コレってよくあるラノベの転移モノで、クズな王様とかに支配される、俗にいう隷属の首輪だ。
でもアバターのステータスをそのまま構築したって、神様言ってたのに。
それなら多分、状態異常無効化できてるはず。カンストしていたし。
でも無理っぽい。
・・・体が小さいから、本来の力が出てないってこと?
最悪だ。
思った通り、僕は魔物狩りや戦争に駆り出された。
子供の体?ナニソレ美味しいの?って感じで、僕が飲まず食わずでも、死ぬような怪我を負っても直ぐ治る、死なないと分かると、扱いは更に酷くなった。
死ななくても痛いし、空腹感はないけど、心は疲弊していく。
かろうじて、戦争相手の人、獣人さん達をなるべく殺さないように、それを胸に秘めて、戦う日々。
元々無表情な顔は、首輪と殺伐とした毎日で完全に動かなくなった。
そんな日々があの日、変わったんだ。
『リッカ』
耳を疑った。
日本語で呼ばれたソレは、召喚される前は当たり前に呼ばれてた、僕の、名前で。
コッチでは当たり前に呼ばれたことのない、僕自身すら忘れかけてた名前で。
何で?
どうして?
と視線を向ければ。
『リッカ、俺だよ。初フレンドの』
『・・・アッシュ?』
だって、でも、どうして・・・。
頭ではぐるぐると思考がパニクっているが、恐らく表情には出てないだろう。
昔からそうだった。
言葉にも出ない。
苦手だった。
いわゆる異世界転生らしいと、つい先日訳もなく記憶が戻ったと。
一目見てリッカだと分かったよ。
ちっさくて可愛いな。
そう言って見せた笑顔に、僕は救われたんだ。
雨が降る度、他愛ない話をして、笑って。
(僕の表情は変わらないけど)いつしか雨が待ち遠しくて、何となくこの日々が続くと思ってた。
あの日、精霊の森が魔素に包まれた。
僕を召喚したときから、森の精霊は少しずつ数を減らし、魔素が濃くなっていった。
魔素は濃くなりすぎると、魔物を生み出すんだって誰かか言ってた。精霊は魔素を吸収し、綺麗な空気?にしてバランスをとってるんだって。
・・・誰が言ってたんだっけ?
時々もふもふな何かが側にいる気がするけど、関係あるのかな?
さすが異世界。空気清浄機が精霊だなんて。
・・・精霊さんゴメンなさい。
ちょっと頭のネジが飛んじゃってます。
そして、頑張って森を綺麗にしていた頃、僕にとっての第二の悲劇が始まっていた。
国なんて、王族なんて、僕には関係ない。
恨みこそすれ、助ける気持ちなんてこれっぽっちもない。
滅べばいい、とすら思っている。
自分が滅亡を止める肉盾となっている矛盾に心が壊れていって。
加護を失ったこの機会に攻め入られて、僕はよかったと思った。
やっと一矢報いれると。
その先に何があるか何て、考えることすら出来ない位、壊れていたんだ。
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