【完結】雨を待つ隠れ家

エウラ

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愛しい番 前(sideエアヴァルト)

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見つけた。

この魔力、姿形、あの頃のままだ。

やっと、やっと・・・。

 
 
俺には前世の記憶がある。
何なら前々世の記憶も。

前々世はこことは違う地球という世界の日本人だった。
平々凡々ながら仕事をしつつVRMMO『Free Fantasy Online』でフレンドと一緒に討伐クエストに行ったり、馬鹿騒ぎしたり、それなりに楽しんでいた。

そんなある日、1人のプレイヤーがログイン中に死んだと噂が流れ、フレンド達にも聞いた結果、そのプレイヤーは『FFO』では有名な『リッカ』だと分かった。
原因は不明で、ゲーム会社の不備ではなく、事故として処理されたそう。

『リッカ』は生産メインのくせにやたらと火力が強く、ソロながらレイドボスを倒してしまうくらいの異常な強さだった。
バランスブレイカー、運営会社の回し者かと噂が立つ位。
逆に運営会社側がバグを疑ってたわ。

俺とは特に接点はなかったが、一方的に知っていた。
一度、リッカの作った、桜と雪の結晶を象った幸運のピアスを買った時に話をしたが、戦闘の時とは違い、穏やかで優しい人だった。
何でも、生産用の素材集めの為にレベル上げまくったらしい。

『リアルでも友達いないんだ。自覚ありの無表情だし、人付き合いって苦手で。独りは慣れてるけど戦闘は困るからね』

『幸運の効果は大したことないけど。好きなんだよね、このデザイン。だからシリーズ化してるんだ。買ってくれて嬉しいよ』

そう言ってほんの少し口の端を上げて微かに頬を染めた、綺麗なオッドアイの、初めて見る照れた(と思われる)顔に心臓が跳ねた。
 
今思えばこの瞬間、恋に落ちたんだと思う。俺、ノーマルな筈なのに。

思わずフレンド申請してしまったのは仕方ないだろう。
『嬉しい。初めてのフレンドだ』
今度こそハッキリと微笑んだ。あの顔が忘れられない。

リアルでは会ったことはない。
ゲーム内でたまに会い、当たり障りのない会話をして別れる。
俺のこの気持ちは心の片隅に、そんな日々が続くと思っていた。


ニュースで彼の事が流れた。
桜庭六花、21歳の大学生。
天涯孤独で、発見が遅れた。
ゲーム会社がヘッドギアの長時間ログインのアラートが何時までも止まらず異常を感じて通報したらしい。

顔写真が、色彩を変えただけの、『リッカ』そのままだった。

涙が止まらなかった。

俺は恋心を心に沈めたまま。


気付いたら剣と魔法の異世界に転生していた。

記憶を思い出した時は15歳で、人族の国の兵士で、平々凡々なヤツだった。
チートはなかった。
前世と同じで笑えた。

強さも魔法も程々の俺の仕事はある奴隷の世話だった。

世話と言っても、食事を運ぶでもなく、ただ檻の中の奴隷を一日一回、ちゃんと檻に戻っているか確認し、浄化の魔法で清潔にする事、だそうだ。

何だ?それ。

ひとまず前任者に連れられて奴隷の所へ行って、見て、叫ばなかった自分を褒めてやりたい。

「此奴だ。隷属の首輪で反抗しないし自死も出来ない。最も、首を切り落とそうが心臓を潰そうが傷付いたそばからすぐに回復して死なないらしいがね」

「異世界から召喚した時は、意識はないしこんなガキ、すぐに死んじまうと踏んでいたが、飲まず食わずでも平気らしくて」

おかげでいい戦力だよ。

隣で愉しそうに言う兵士に反吐が出そうになった。顔に出さなかった自分を褒めてやりたい。(二回目)

とりあえず、一日一回は足を運ぶ事。
用(主に戦闘)が済めば首輪の転移魔法で勝手にここに戻ってくるとのこと。
戦闘によっては何日か戻って来ない事もあるらしい。
檻の中ではほとんど寝ているので、暇になるからこっちの仕事も手伝え、と言うだけ言って来た道を戻っていった。

1人になったのを確認して、俺はそっと檻の中の奴隷に声をかけた。日本語で。

『リッカ』

眠っていた筈の奴隷がチラリと横目で此方を見た。
5歳位の、白銀の髪を無造作にくくった男の子の右目は琥珀色、左目は紫水晶色で。

予想通りの色で、顔は幼い頃はこんなだったろうと想像したモノで。

---こんなところでこんな再会、望んでなかった。
綺麗だったオッドアイは生気のない濁った色で。
首には無骨な隷属の首輪。
一体どれほどの絶望の日々を過ごしたのだろう。
どのくらいの時が過ぎたのか。

ああ、日本で突然死したのは、ここに召喚されたからか。

『リッカ、俺だよ。初フレンドの』

『・・・アッシュ?』

掠れた声で、俺のアバターネームを呼ぶリッカに、かつてのように涙が溢れて止まらない。
泣きたいのはリッカだろうに。

『泣かないで。アッシュにまた会えて嬉しいよ』

こんな姿だけど、と。
ああ、変わらないな。
優しいまんま。
でもギリギリのところで正気を保っているのが分かる。
何時切れるか分からない細い糸。
 
俺達は数ヶ月程、他愛ない話をしながら過ごした。
一兵士の俺には隷属の首輪をどうにも出来ないし、リッカも分かっていたから。
ただ檻越しに温もりを感じ、ひたすら懐かしいFFOの話をした。

そんな中、リッカが3日程帰らなかったあの日、元々減っていた精霊の加護が完全になくなったと国中大騒ぎしている時に乗じて亜人達が進行してきた。

亜人とは人族が勝手にそう呼んでいるだけで、龍人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族の事を指した言葉で、蔑称だ。
人族の国が、神に選ばれた自分達が上だと主張し、周りの国へ戦を仕掛けていたのだ。

俺、人族だけど。
この世界で生まれて、神様は平等だって教わってきたけど?
あの神官様がまともだっただけ、と。
クソだな。

自分達に都合よくねぇ?
大義名分ってヤツ。
でもってその最たる犠牲者がリッカだった訳だ。
首輪で無理矢理戦わせて自分達は高みの見物。そんな醜いヤツらの国、精霊が去って当然だ。

そうしてあっと言う間に国は墜ちて、平々凡々な俺は逃げ切れずに敵の剣のサビになった。

その後のリッカの事は分からない。

ゴメンな、側にいてやれなくて。

心を壊してなきゃいいな。今度はずっと側にいて幸せにしてやりたいなあ。



この世界の神様、どうかリッカを幸せに・・・。



暗転する意識の中、誰かの声を聞いた、気がするけど、応えは出来なかった。
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