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85 愛の迷路なら迷ってもいい
しおりを挟むそこは秘密の通路といえど、さすが体格のいい竜人用に作られたモノだけあって僕が数人並んでも余裕なくらいの道幅があった。
「僕には十分広いけど、シュルツ達にとっては狭い方じゃない?」
「まあ、俺と兄上が横に二人並んだら身動きし辛いくらい狭いとは思うな。だが広すぎても剣を抜いて襲ってこられて大変だからこれくらいがいいんだ」
「・・・・・・ああ。この幅は鞘から抜きにくくする意味もあるんだ?」
確かに追っ手が剣を抜いて振り回してきたら大変だもんね。でも逆に自分達も戦えない訳で・・・・・・。
「俺達もこの広さじゃ大剣は使えないがショートソードくらいは使えるし、何よりこの通路の中は敵のみ魔法が使えなくなる仕組みなんだ」
「え、じゃあ追っ手は魔法も使えなくなるんだ? 凄いね」
「何事も用心するに越したことはない」
「ふええ・・・・・・。僕には考えられない世界だった」
僕だったらこの通路があっても絶対に逃げられない自信があるね。
精霊の森に引き篭もっていよう。そうしよう。
あ、でもシュルツはどうなのかな?
「シュルツは僕とずっと一緒?」
「・・・・・・何を今更、いつも言っているだろう。当然死ぬまで一緒だが?」
「僕が精霊の森に引き篭もってても?」
「もちろん。イツキがずっと住みたいなら俺も住む。そもそも今だって住んでいるじゃないか」
なんてことないように当たり前のように応えるシュルツに、僕は胸が熱くなる。
「ふふっ、そうだった。うん、これからも末永くよろしくね」
「こちらこそ、イヤだと言ってももうイツキを手放せないぞ。いいのか?」
「いいのかって聞いてるクセに手放せないってすでに言ってるし」
「・・・・・・ふっ、そうだった」
二人でクスクス笑いながら仄かな通路を進んでいく。
通路は追っ手から逃げられるように幾重にも分かれ道があり、さながら迷路のようだった。
「・・・・・・シュルツ、もしかして道順覚えてるの?」
「まあな。子供の頃、最初に入ったときは迷って最終的に父が捜しに来たが。それからは口伝で教えられて徹底的に頭に叩き込んだ」
「・・・・・・地図は?」
「敵に漏れたら一大事だからな、そもそもない」
「・・・・・・僕、絶対迷子になって出られないや」
僕が溜息を吐いてそう言うと、シュルツは笑って言った。
「イツキが一人になることも危機的な状況に陥ることも、これからはないと思うが絶対じゃない」
「・・・・・・うん」
この前のように、精霊の森にいても攫われたんだもんね。
もっともアレから精霊の森の結界は最高レベルに引き上げられたらしい。精霊王達によって。
内容は知らないけどね。
「だが、もしそうなっても俺が絶対に助けるから、そのときは信じて待っていてくれるか?」
「うん、もちろん。でも・・・・・・こうして時々、不安になるっていうか、独りじゃないかってヘンに考えちゃうから、そのときはぎゅってしてね」
「ああ。いつでもいいぞ。毎日、一日中でもぎゅっとしててやる」
「・・・・・・ふははっ、一日中はちょっとー」
シュルツが至極真面目にそう言うから、思わず気が抜けて笑った。
僕はたぶん一生、迷い続けると思う。
こんな僕でいいのか、シュルツに愛されていてもいいのか・・・・・・。
たぶん、シュルツが好きだからこその不安なんだろう。
この隠し通路みたいな迷路はイヤだけど・・・・・・。
愛の迷路なら迷っててもいいのかな?
きっとシュルツは、なんてことないように僕を簡単に見つけて、救い出してくれる。
「ほら、もうすぐ出口だ」
通路の先に微かに光が漏れてる。
秘密の通路の先にあるのはなんだろう?
どんな場所に出るのかな?
僕の恋の迷路はまだまだ抜けられそうにないけど。
でもその迷路を抜けた先にあるのはきっと、ありふれてて、でもだからこそ愛おしいものなんだと思う。
※迷路でイツキの心を迷わせてみました。
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