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54 俺にも遅い春が来た(sideアハト)
しおりを挟む弟の番いであるイツキが攫われた。
【管理者】というだけでも至宝なのに、番い至上主義を堂々と掲げる我等竜人には番いと引き離されることは何者にも代え難い、耐え難い苦痛。
ましてや既に我等の大切な家族なのだ。
今にも飛び出し、救いに行って相手を滅そうという気迫を感じるシュルツを宥め、我等も準備万端で臨んだ景緑国。
───一緒に付いてきたウサギのノインの独壇場だったが。
その動きの癖、常々思っていたがどう見ても亡き母上・・・。
その内、口もきけるようになってても不思議じゃない。
イツキと出会ってから退屈な日々は何処かへ行き、毎日が賑やかで楽しいモノになった。
ソレを壊そうとする輩には何倍もの苦痛を。
一瞬で終わらせるモノか。
そうして辿り着いた王の間で真っ青でガタガタとみっともなく震えて命乞いをする景緑国国王。
遅れてやって来たシュルツは、大切にイツキを包んで抱き上げている。
眠らせているのだろう。
早く休ませたいというその願いに当然の如く是と応えて二人を見送り・・・。
父上や母上達と共に、醜態を曝す国王を見つめ眉をひそめて様子を窺っていると、何事か呟いた。
『我を助けろ』
そう聞こえた途端、空間が歪んだのに気付き、俺は瞬時に王の間合いに詰めた。
瞬間、目の前には転移してきた子供・・・首枷をしている、おそらく違法奴隷。
アハトの顔を目に映した瞬間、一瞬、瞳が揺らいだ気がしたが、王ではなく俺と一緒にその場から転移してしまった。
父上の声が聞こえたが、返事は出来なかった。
瞬く間に屋外、森の中にいた。
「───ココは・・・いやそれより、先に首枷を外そう」
「・・・・・・」
アハトは子供を片手で拘束しながら話しかけるが、首枷のせいか、表情に変化はなく、何も話さず瞳も昏いまま、焦点が合っていないよう。
「・・・・・・心配するな。首枷は取り付けた者や主人の魔力を上回っていれば、難なく壊せる。それによる反動はないが、首枷で制御されていた部分の反動は壊した後、少なからずあるから何かおかしければ遠慮なく言ってくれ」
今は返事は期待できないが、きっと耳には残るはずと思い、そう告げてから首枷に魔力を籠めて破壊した。
外した後で更に粉々に砕く。
ふと気付くと、粉々になった首枷を呆然と見つめるその少年の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「・・・・・・大丈夫か?」
アハトの問いかけに、その子はゆっくり顔をあげて目を合わせると、くしゃっと泣き笑いをして、おそらく長く話せなかったのだろう、口をはくはくさせていた。
『ありがとう』
そう読めた唇の動きに、思わずチュッと触れるだけの口付けをした。
子供だとか頭から抜け落ちてしまった。
「───俺の番い、見つけた。もう辛い思いはさせないからな。俺と一緒に、帰ろう。俺の家に一緒に住んでくれ。大切にするから・・・」
「───っ」
この子が番いの事をどれだけ認識しているのかは分からないが、俺の言葉に一生懸命コクコク頷きながら涙を流していた。
コレはオッケーと受け取って良いよな。
森の中から城の方向を見つけて、上着を被せた彼を縦抱っこで歩いて行く。
少しして、安心したのかこくりこくりと舟を漕ぎ出し、王の間に戻った時にはすっかり身を預けて熟睡していた。
その様子に満足していると、父上が気付いたようだ。
「───もしや、その子は」
「はい、俺の番いでした。本人から連れ帰る許可も頂いてます。・・・良いですよね、父上?」
そう言ってにっこり笑ってやった。
父上は嬉しいが複雑そうな顔で溜息を吐き、ウサギは左手の指でグッ!!を作った。
おそらく『良くやった!!』と言っているのだろう。
うん。
俺、良くやった!!
ちなみに家に連れ帰った後で目が覚めたこの子は、褐色の肌に薄い金髪、右目が黒で左目が翠のエルフとダークエルフのハーフだと言った。
歳はおそらく9歳。
5歳まではエルフの隠れ里で暮らしていたが、ハーフだということで嫌っていた他のエルフに親の目を盗んで連れ出され、里の外に置き去りにされたらしい。
それからすぐに奴隷狩りで景緑国に連れ去られ、のちに転移魔法が使えることが分かって、国王の元でその力を使われていた。
今回も精霊の森に転移して【管理者】を攫い、首枷を付けろと命令されていた。
最後、国王に『助けろ』と言われ、それが国王が緊急事態に陥った時の鍵の言葉になっていたので、国王を転移させるためにあの場に転移してきた。
そうしたら目の前にアハトがいて驚いたと。
「何故か、首枷で何も感じないはずなのに、ドキッとしたの」
だいぶ口が回るようになってきてたどたどしく話せるようになって、のちにそう言われて。
「・・・そうか。ギルも俺と同じ事を感じてくれたんだな」
「ふふ、アハトに、付けてもらった名前、うれしい」
首枷で名を消されたらしい彼は、名前はアハトが付けてと言ってきた。
喜んだアハトは、輝く宝石の意味を持つギルミアという名を付けた。
喜んで笑ったギルミアの瞳は、まさに輝く宝石だった。
※補足。
この世界でのダークエルフはエルフよりは地位が下に見られるだけで悪い種族では無いです。悪さをすることもありません。
エルフは気位が高い人が多いので、ダークエルフを出来損ないみたいに扱う人も中にはいますが、大半は同じ仲間として気にしません。
隠れ里は別れてます。
この子の親がたまたまエルフの里に住んでいただけです。
後、アハトが手(口!)を出してますが、あれ以上はしません。Noタッチ!
もう少し、この二人関係の話が続く予定です。
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