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41 優しい嘘 2(sideシュルツ)
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※前話をスキップされた方に、あらすじ。
イツキは生後数週間で奴隷狩りによって両親を亡くし、自身も捕まってしまう。
魔力封じの首枷で精霊達と交信出来ず、隔離されて手足にも枷を付けられ、言葉も分からず動かない人形のように育てられて、金持ちのゲス達に弄ばれてしまっていた※
『イツキと共に転生した精霊達は、イツキに付けられた魔力封じの首枷のせいでイツキを見失ったらしい』
光の精霊王が続けた。
『今、この世界は長い間精霊の森の【管理者】が不在だったために、精霊達も我等も力が弱くなっていて・・・。魔力封じでイツキの気配が消えた途端に気配が分からなくなった。あの精霊達はその後も必死で捜し続けて、ある噂を耳にした』
あの精霊達はそれでも諦めずに15年も捜し続けたのか・・・。
そしてその噂とは・・・。
「・・・それが奴隷商人のところの性奴隷だった・・・?」
シュルツが何とも言いようのない表情で呟く。
『そうだ。それを知ってあの子達はユトピア神に精一杯のお願いをしたそうだ。イツキを助けて、と』
『・・・そして願いは叶えられた。本来ならばソコまでしない。・・・・・・ユトピア神も、まさか御自ら転生させた子がその様な目に遭っているとは思わなかったらしい。神が地上に干渉することは滅多に無い』
それはそうだろう。
俺もそんな話は聞いたことが無い。
自ら転生させたイツキがそんな目に遭っていたなんて知ったら、俺だって同じ事をするだろう。
『そしてその惨状を見て、ユトピア神は転生からそれまでの記憶を消して、代わりに眠っていた前世の記憶を呼び起こしたのだ』
『我等もそれを聞いて思ったのだよ。それならば、ここで目覚めた時が始まりの記憶だと嘘をつけばいい、と』
『こんな嘘なら、幾らでもついてやろうと』
『あんな記憶なんて無くて良い』
『イツキには、幸せになって貰いたい』
『管理者とかじゃ無い。イツキには穏やかに幸せに暮らして欲しい』
それが我等の願い---。
『だからな、あの奴隷商人や奴隷狩り達には相応の報いを』
精霊王達は皆、怒りの感情を露わにした。
「───こちらでも調査の上、然るべき鉄槌を下します」
『無論、イツキには内緒でな!』
風の精霊王がバチッとウインクをしてそう言った。
「・・・ええ、そうですね、もちろんです」
重苦しかった空気が霧散し、ロッジには穏やかな空気が流れた。
重い話は終わりとばかりに精霊王達も帰って行った。
残されたシュルツは影に声をかける。
「───ヌル、聞いていたな」
『はい』
「父に、一言一句違わずに申し伝えるように。もちろん、イツキには悟らせるな。彼は好意には疎いが悪意には敏感だからな」
『心得ております』
「・・・・・・頼んだぞ」
『御意』
今日の影警護のヌルが公爵家に連絡を取る為に離れたのを確認して、シュルツもイツキの部屋へと戻る。
静かにベッドに入ると、無意識にシュルツを探すイツキの細い腕があった。
───この白く細い腕や足に重い枷を付けて動きを阻害していたのか・・・。
それならば貧弱で動きが鈍いのも頷ける。
生まれてから15年も身体を動かすことが無くて言葉も教わらない、聞かない、だから話さない・・・。
生きるための最低限の事だけで他に知識を与えられずにいれば、逃げることにすら思い至らないだろう。
逃げる、という意味すら知らないのだから。
───通りで知識の偏りが目立つわけだ。
この世界の常識を知らない前世のイツキ。
この世界を知らない今世のイツキ。
どちらもイツキで、純粋無垢。
「───お前を護るためならば、俺は・・・俺達は幾らでも平然と嘘をついてやろう」
それがイツキに取って優しい嘘ならば・・・。
「───お休み。愛しい俺の番い」
もぞりと身じろぎしたイツキは、シュルツの逞しい胸に顔を埋めると、ホッとしたように息を吐き出して擦り寄った。
そして規則正しい寝息を立てて眠った。
───ユトピア神、貴方の行いはイツキを幸せにしておりますよ。
記憶を消して下さってありがとうございます。
イツキを抱き締めてシュルツも目を瞑るのだった。
イツキは生後数週間で奴隷狩りによって両親を亡くし、自身も捕まってしまう。
魔力封じの首枷で精霊達と交信出来ず、隔離されて手足にも枷を付けられ、言葉も分からず動かない人形のように育てられて、金持ちのゲス達に弄ばれてしまっていた※
『イツキと共に転生した精霊達は、イツキに付けられた魔力封じの首枷のせいでイツキを見失ったらしい』
光の精霊王が続けた。
『今、この世界は長い間精霊の森の【管理者】が不在だったために、精霊達も我等も力が弱くなっていて・・・。魔力封じでイツキの気配が消えた途端に気配が分からなくなった。あの精霊達はその後も必死で捜し続けて、ある噂を耳にした』
あの精霊達はそれでも諦めずに15年も捜し続けたのか・・・。
そしてその噂とは・・・。
「・・・それが奴隷商人のところの性奴隷だった・・・?」
シュルツが何とも言いようのない表情で呟く。
『そうだ。それを知ってあの子達はユトピア神に精一杯のお願いをしたそうだ。イツキを助けて、と』
『・・・そして願いは叶えられた。本来ならばソコまでしない。・・・・・・ユトピア神も、まさか御自ら転生させた子がその様な目に遭っているとは思わなかったらしい。神が地上に干渉することは滅多に無い』
それはそうだろう。
俺もそんな話は聞いたことが無い。
自ら転生させたイツキがそんな目に遭っていたなんて知ったら、俺だって同じ事をするだろう。
『そしてその惨状を見て、ユトピア神は転生からそれまでの記憶を消して、代わりに眠っていた前世の記憶を呼び起こしたのだ』
『我等もそれを聞いて思ったのだよ。それならば、ここで目覚めた時が始まりの記憶だと嘘をつけばいい、と』
『こんな嘘なら、幾らでもついてやろうと』
『あんな記憶なんて無くて良い』
『イツキには、幸せになって貰いたい』
『管理者とかじゃ無い。イツキには穏やかに幸せに暮らして欲しい』
それが我等の願い---。
『だからな、あの奴隷商人や奴隷狩り達には相応の報いを』
精霊王達は皆、怒りの感情を露わにした。
「───こちらでも調査の上、然るべき鉄槌を下します」
『無論、イツキには内緒でな!』
風の精霊王がバチッとウインクをしてそう言った。
「・・・ええ、そうですね、もちろんです」
重苦しかった空気が霧散し、ロッジには穏やかな空気が流れた。
重い話は終わりとばかりに精霊王達も帰って行った。
残されたシュルツは影に声をかける。
「───ヌル、聞いていたな」
『はい』
「父に、一言一句違わずに申し伝えるように。もちろん、イツキには悟らせるな。彼は好意には疎いが悪意には敏感だからな」
『心得ております』
「・・・・・・頼んだぞ」
『御意』
今日の影警護のヌルが公爵家に連絡を取る為に離れたのを確認して、シュルツもイツキの部屋へと戻る。
静かにベッドに入ると、無意識にシュルツを探すイツキの細い腕があった。
───この白く細い腕や足に重い枷を付けて動きを阻害していたのか・・・。
それならば貧弱で動きが鈍いのも頷ける。
生まれてから15年も身体を動かすことが無くて言葉も教わらない、聞かない、だから話さない・・・。
生きるための最低限の事だけで他に知識を与えられずにいれば、逃げることにすら思い至らないだろう。
逃げる、という意味すら知らないのだから。
───通りで知識の偏りが目立つわけだ。
この世界の常識を知らない前世のイツキ。
この世界を知らない今世のイツキ。
どちらもイツキで、純粋無垢。
「───お前を護るためならば、俺は・・・俺達は幾らでも平然と嘘をついてやろう」
それがイツキに取って優しい嘘ならば・・・。
「───お休み。愛しい俺の番い」
もぞりと身じろぎしたイツキは、シュルツの逞しい胸に顔を埋めると、ホッとしたように息を吐き出して擦り寄った。
そして規則正しい寝息を立てて眠った。
───ユトピア神、貴方の行いはイツキを幸せにしておりますよ。
記憶を消して下さってありがとうございます。
イツキを抱き締めてシュルツも目を瞑るのだった。
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