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39 イツキの過去
しおりを挟む樹希がシュルツと初めて結ばれて正式に番いになった。
───実は、ただの口約束や署名、それに身体を重ねたというだけでは番いとはならない。
ソレを知らない樹希は、シュルツと致していて前後不覚になっているときにしっかり正式に番わされていたことに気付いていなかった。
「───え?」
「だから、あの時イツキに俺の逆鱗を飲ませてから中出ししたろう? アレが正式な番いの行為だったんだよ」
「・・・・・・っ中・・・っいやいや、エ? げきりん? 逆鱗・・・・・・飲んだっけ?」
シュルツにそう言われて真っ赤になって考えるも、記憶が朧気で思い出せない。
「俺が番ってくれと乞うたら、うんうん頷いて、口移しで飲んでくれたぞ」
「え---え---? うーん・・・・・・あの時はもう気持ちいいしか頭に無くて・・・・・・そう言われれば・・・・・・?」
シュルツに口を塞がれて苦しくて、何か飲み込んだ気もする・・・。
その後、ガツガツ揺さぶられて、気持ち良すぎて死ぬって思ったような・・・。
「とにかく、ちゃんと番い同士になったんだよ。その証がイツキと俺の心臓の位置にあるこの痣だ」
そう言われてシャツを捲り上げると、樹希の胸にはシュルツの色・・・黒に紫色の入った鱗の模様、シュルツの胸には樹希の金茶色に新緑の色の葉っぱの模様が付いていた。
「僕のは竜の鱗なんだね。シュルツのは・・・」
「イツキの色の世界樹の葉っぱだな」
「・・・・・・エ? コレって世界樹の葉っぱの形なの?!」
「知らなかったのか?」
「うん、いや、葉っぱは知ってるよ? 知ってるけど、世界樹っていうのは・・・・・・気付かなかったな・・・・・・」
ナヴィさん、最近活用してなかったし、身近すぎて気にもしなかった。
だって前世の楓の葉っぱに似てるから、てっきり楓の木かと・・・。
そういえば紅葉も落葉もしなかったな・・・。
まさかこのロッジを覆い隠すように枝を広げている大樹が世界樹だったなんて・・・。
「誰も教えてくれなかったじゃんか・・・!!」
『いや、すまんの・・・。当たり前すぎて誰も気にせんかったわ』
いつの間にか来ていた光の精霊王が気まずそうに笑った。
「だからって、そんな・・・もう4年も経つのに」
思わずガックリ膝をつく樹希だった。
「・・・イツキ、その・・・以前の生活は言いたくないと言っていたが・・・。知らないことが多いように思うんだが、俺に出来ることがあるなら、言って欲しい・・・。番いは唯一無二で、俺はイツキを裏切らないから」
躊躇いながら真剣にそう言うシュルツに、樹希も身体を起こしてシュルツの隣に座った。
「・・・・・・その、信じて貰えるか分からないんだけど・・・実はここで目を覚ました4年より前の事は・・・・・・覚えていないんだ。いや、覚えてるんだけど、ソレはハイエルフとしての僕じゃ無い、別の世界の樹希として生きていた記憶・・・前世なんだ」
俯いたままポツポツと話す樹希をそっと抱き寄せるシュルツ。
「・・・前世の、記憶?」
「うん・・・・・・、その世界では魔法なんてないし精霊も見えない。でも僕はずっと精霊が見えて聞こえて・・・異質な存在だった。ずっと一人で、病気で19歳で死んじゃった」
そう言う樹希に続けるように精霊が言った。
『それで神様がこのユトピアの神様に頼んでここに転生させてくれたの』
『向こうにいた僕たちも一緒に連れて来てくれたの』
「・・・ユトピアの神様が、僕の母親がこの世界のエルフの血を引いてたから、ここに転生させたんだって。それで気付いたらこの森にいたんだ。神様もそう言ってたし、最初はこの年齢の身体に転生したんだと思ってたんだけど・・・」
違和感があったんだ。
前世はここまで運動音痴じゃ無かったのに、この身体はあまりにも動きが鈍すぎる。
本当は僕はこの世界でハイエルフとして赤子から生き直していたんじゃ無いかって。
そしてこの鈍すぎる身体を作り上げた原因がソコにあるんじゃ無いかって。
でもその記憶が無い。
ユトピアの神様が意図的に記憶を消したんじゃ無いかって・・・。
じゃあ、消さないといけないような記憶って、何・・・?
「・・・・・・確かに前世で、辛い思いもたくさんしたけど、ソレよりも辛い記憶って・・・・・・」
僕は俯いていた顔を上げてシュルツを見た。
シュルツは何か察したようだった。
「僕は・・・・・・奴隷狩りにあってた? そしてソレは、神様が記憶を消すほど、酷いものだった?」
精霊王は口を噤んだ。
精霊達も、何も言わなかった。
───おそらく、ソレが、答え。
僕がこの森から絶対に出たくないと思う本能的な恐れ・・・。
絶対に思い出したくない記憶なんだ。
※いきなりシリアスぶっ込みました。スミマセン。
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