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35 竜帝国皇帝アウトクラトル
しおりを挟む私は竜帝国の皇帝・アウトクラトルである。
親しい者にはアウルと呼ばれている。
・・・梟じゃ無いぞ。
確かに白梟のように真っ白でふわふわな髪と黒曜石のような瞳ではあるが。
まだまだ296歳と若輩者ではあるが、宰相を始め国の重鎮がしっかりしているから問題は無い。
無かったのだが・・・。
最近『精霊の森』に新たな【管理者】が現れたらしいとの情報があり、宰相の息子でSランク冒険者のシュルツを調査に向かわせた。
この辺りの采配はほとんど宰相に一任しているので私が口を出す事は少ない。
この件も上がってきた調査書を読んで確認をして問題無しとなったのだから。
だがしかし、この時故意に隠されたであろう事実に私は気付きもせず、後日、そのせいで巻き起こる騒動を一欠片も予測できなかったのだ。
「・・・・・・何だって?」
私の聞き違いかな?
今、宰相の次男が番いを得たと聞こえたんだが。
「ですから、今日の午前中に宰相の執務室で偶然居合わせた文官がそう言っていたのです」
「・・・本当に? というか何故そんな話になったんだ? 執務室で何を話しているんだ?」
私がもっともな事を言えば、側近のドレイクが詳しく聞かせてくれた。
「その文官は書類の受け渡しで訪れた宰相の執務室で、偶然、宰相の影の者からの通信を聞いてしまったそうで。通信が入ったときは普段なら人払いをなさるので文官は慌てて出て行こうとしたそうですが、その時は興奮して文官の存在を忘れてしまったらしく」
・・・・・・あの宰相が? 興奮して忘れた? 嘘だろう?
「聞いてしまった事は仕方がないので通信の終わった宰相に確認を取ったところ、次男が番いと両想いになったとのことで。慶事だからと周りに知らせても良いとの言葉を頂いたと、昼休憩中に話しておりました」
「・・・・・・それをお前も聞いたと?」
「ええ。ただ、残念ながらお相手の方の詮索はするなと釘を刺されたそうです。・・・・・・宰相がお相手の方と敬っているということは、かなりのご身分の方なのでしょうね・・・。今現在、竜帝国に宰相の家柄よりも高い身分の家は皇家以外にはありませんが・・・どなたなんでしょうね?」
そう言われてみれば、確かに。
宰相が敬うほどの相手など、息子の番いだとしても普通なら有り得ないな・・・。
側近以上にその次男の番いとやらに興味津々になった私は、後日、宰相を呼び出して詳しく話を聞くことにした。
・・・・・・宰相と言えば、最近はその噂の次男から可愛らしいウサギのぬいぐるみ(しかもかなりの大きさらしい)をプレゼントされて、そのぬいぐるみに亡き奥方の名前をつけて呼んでいるとか。
「・・・・・・うん、想像出来ん」
思わず頭を振ってその姿を追い払う。
「? 何がですか?」
「いや、何でもない。後で宰相に時間を作って貰って、直接話を聞いてみるとしよう。人伝では中身が歪められる事も有るからな」
「そうですね。ただ今日はどうやら定時で帰れるように張り切って仕事を熟してるようですので、呼ぶのは無理ですね。というか、今日呼んだら野暮ですよ」
「分かってる。もうその話は一旦置いとこう。私も仕事を終わらせないとな」
「はい、頑張りましょうね」
そうして後日、なかなか時間の取れない宰相をせっついて、渋々やって来た宰相からの話に度肝を抜かれるのだが。
例のウサギの噂以上にヤバい情報に、聞かなきゃ良かったかな・・・・・・と後悔するのである。
宰相が意図的に隠した情報・・・。
「我が家の次男の番いですか? 【管理者】殿ですよ」
しれっとそう応える宰相・・・ゼクスにイラッとしたのは仕方がないと思うんだ。
───そういうのは最初に教えとけよ!!
まさかの後出し情報に場が混乱して詳しく聞けなかったじゃないか!!
「じゃあ、もう良いですよね?」
そう言って帰ろうとするんじゃない!
この腹黒狸・・・いや腹黒竜め!!
「ええ───、面倒な・・・・・・」
「面倒言うな!」
「・・・・・・仕方がないですねぇ・・・」
「お前ね」
そう言って聞かされた話に卒倒しそうになった。
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