優しい庭師の見る夢は

エウラ

文字の大きさ
上 下
28 / 89

27 御対面からの圧迫面接 2

しおりを挟む

そして恙無く始まったお茶会だが、お茶菓子を作りお茶を淹れているのは当然のようにシュルツである。

「・・・あの、僕、あんまり料理出来なくて・・・。ハーブティーくらいは淹れられるんだけど・・・」
「気にしなくて良いんだよ、イツキ君。そもそもエルフは私達のように様々な調理を必要としないんだろう? こういうこともシュルツが好きでやっていることだし、シュルツからも時々話を聞いているよ」

申し訳なさそうに言う樹希にゼクスがそう言えば、ちょっとホッとしたようだった。

ちなみに、お茶会の前に『お互い敬語は無しで』と言う樹希に合わせて普通に話している。

「あの、えと・・・どんな話をしてるの?」

そう言いながらシュルツを見る樹希。
それにそっと目を逸らしつつ、誤魔化しても仕方ないので正直に告げた。

「・・・イツキが鈍臭いって。この間、滝壺に落ちたこととか・・・」
「・・・・・・ウン、概ねその通りだから否定はしないけど・・・自覚はあるけど・・・言い方・・・」
『あと、方向音痴ねー!』
『森の中で目隠ししてぐるぐるしたら、もうどっちの方向か分からなくなるもん』
「それは誰でもそうなるでしょ?!」
「いや、俺はならん」
「「私達もならんな」」
「えー?!」

ガーンという音が聞こえそうなほど可愛い口をあんぐりと開けて固まる樹希に、皆が吹き出す。
そこには当然、精霊王達も混じっている。

樹希が一人で住んでいた頃はガランとした寒々しい広いだけのリビングだったが、シュルツが住むようになってリビングのテーブルに料理やお菓子が並ぶようになり、精霊王達も頻繁に様子を見に来て賑やかな雰囲気になってきた。

そして今日は、シュルツのお父さんやお兄さんや影の人達もいて。
精霊王は実体があるから窮屈そうだけど。

「ふふっ」

幸せだなあと思わず笑ってしまった。

「僕ね、こんなにたくさんの人に囲まれてお茶会なんて初めてで、嬉しいんだ」
「・・・そう言って貰えてこちらも嬉しいよイツキ君」
「また時間を作ってお茶を飲もうね」
「ありがとうゼクス父様、アハト兄様。あ、でも無理しないでね。今日のためにもの凄くお仕事したって聞いたから・・・」
「うっ・・・優しい子だ」
「ああ・・・癒される・・・」
「・・・父上、兄上・・・」

いつの間にか自分達の事を父様兄様呼びさせている腹黒父子を呆れた目で見るシュルツ。

精霊王達はというと、リビングのソファやその近くの椅子に腰掛け、圧迫面接?を続けていた。

とは言っても、遠巻きにゼクス達を観察しているだけだが。

『ふむ、この森に来られただけでも合格だが、アレぐらいの強かさがあればなお良しだな』
『あのくらいサラッと言いくるめられるならば安心だな。・・・うん、イツキが純粋過ぎて怖いからな』
『ああいう輩に過保護にされた方がイツキも良いと思う。悪感情に触れてイツキが傷付いては敵わん』
『うーん、イツキは鈍いけど悪感情には敏感だからな。なるべく排除しないと心が病んでしまう』
『その点、あの竜の子達は優秀』
『竜の子は愛情が重いからな。受け入れた身内にはとことん愛情を注ぐ。其れが親愛だろうとな』
『早いうちにイツキの番いが見つかって好かった』

などとぽそぽそ話をしている精霊王達。
どうやらお眼鏡に叶った模様。

───合格らしいな。

聴覚も良い竜人故にしっかり耳で拾っていたゼクス達。
精霊王達も分かっていて囁いている。
どちらも似た者同士だった。

ただ、エルフの癖に耳が悪いと思っていた樹希だけは案の定、全く聞いておらず、精霊達に揶揄われていた。

『イツキは耳が悪いんじゃ無くてー』
『聞くつもりが無いから耳に入んないの!』
『どうでも良いと思ってると、本当に聞こえないよね』
『そのくせ、竜の人の声にはすぐに反応するよねー?』

そう言われて樹希はキョトンとした。

「そ、そう? どうしてかな? 不思議だね」

その言葉に全員が唖然として、シュルツは遠い目をした。

「・・・・・・ウン、そうだと思ってた」
「え? え? 何が??」
「・・・シュルツが不憫に思えてきた」
「お前・・・思ったよりも苦労してたんだな」
『心配するな。イツキがコレだからの。我等は全面的に竜の子を応援しておるよ』

分かってない樹希にゼクスとアハトが憐憫の目を向け、精霊王達はシュルツの味方だと告げた。

顔合わせの圧迫面接(物理)は、最終的にシュルツを励ます会になってしまったようである。


それからは時間ギリギリまで和やかなお茶会を楽しみ、またその内遊びに来ると言って、公爵家に転移で戻っていった。

『では我等も退散しようかの。明日もゆっくり過ごすと良い。森の見廻りも毎日じゃなくて良いのだからな』
「うん、明日は目が覚めるまで寝坊してみる」
「ぷっ・・・って・・・。無理に寝坊する事無いだろう」

樹希の物言いに吹き出すシュルツ。
だが次の樹希の発言で思わぬダメージを食らった。

「うーん、じゃあ、起きてもシュルツとお布団の中でごろごろするー」
「───うぐっ・・・・・・」
「シュルツ? 大丈夫?!」

急に顔を掌で覆って蹲るシュルツにわたわたする樹希。

『───竜の子、頑張れ・・・』
『不憫過ぎる』
『『『『生殺し』』』』

精霊王達も苦笑してそう言うしか無かった。






しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。 ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。 黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。 黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。 本来なら白いはずの目玉は黒い。 「お帰りなさいませ、皇妃閣下」 男は美しく微笑んだ。 ---------------------------------------- ▽なろうさんでもこっそり公開中▽ https://ncode.syosetu.com/n3184fb/

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。 後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。 目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。 気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。 街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。 僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。 そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。 それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。 けれど、その幸せは長くは続かなかった。 前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。 そこから、僕の人生は大きく変化していく。 オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。 ✤✤✤ ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。 11/23(土)19:30に完結しました。 番外編も追加しました。 第12回BL大賞 参加作品です。 よろしくお願いします。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...