26 / 89
25 お揃いのピアス
しおりを挟むあれからシュルツは文字通り早く帰ってきてくれた。
行きは翔んでいったから数時間かかったけど(それでも相当早いらしい)、魔石の説明やら何やらを済ませたら速攻で転移してきたそうだ。
ちなみにシュルツの左耳と僕の右耳にはお揃いのピアスがある。
二人専用の転移魔法陣を付けた魔石を填め込んで作った。
これで何時でも何処でもお互いの元に転移出来るよ。
もっとも、僕がシュルツの元に転移するよりもシュルツが僕の元に来る方が断然多いだろう。
シュルツのピアスの魔石は何処にでも転移できるようにしたけど、僕のピアスの魔石には精霊の森の中と、森の中にいるシュルツのところ以外は転移できないように制約を付けてあるので。
だって、シュルツが森の外で冒険者活動をしている時にうっかりそこに転移しちゃったらやばいでしょ?
討伐依頼中とかに出くわしたらもう一瞬で死ぬと思う。
「イツキは絶対、うっかりやらかすからそれぐらい制限したほうが良い」
『うん』
『やらかすよね』
『無意識に跳んじゃうでしょ』
『絶対、シュルツのトコに行っちゃうね』
「・・・・・・うん、それは否定しない」
さすがに僕も自覚したよ。
焦ったら間違いなくシュルツのところに転移するね。
だってもう、シュルツの側が安心安全って本能で分かってるから。
───それがどういう感情かまでは良く分からないけど・・・。
「・・・ぅぐっ、それはそれで嬉しいんだが・・・危険だからな。転移では外に出られなくても歩けば出られるんだから、迷ってうっかり森の外に行くなよ? とにかく精霊の森からは出ないこと!!」
「・・・・・・はあい」
僕の信用は地に落ちてる・・・クスン。
『イツキ、結構方向音痴だよ?』
『そこは自覚して!』
『いっつもドライアドとか僕たちが誘導してるんだってば』
「え、そうなの?! 知らなかった!!」
『・・・・・・4年も住んでるのに』
「だって似たような木とか多いし、森の中って・・・」
「・・・・・・本当にエルフなのか? 森人が森で迷うって・・・笑えないだろう」
シュルツの呟きはスルーした。
僕は地球産のエルフだからね、色々と違うんだよ。
そんなことを言いながらお互いの耳にピアスを付けようとしてはたと気付く。
僕、ピアスホール開けてない。
どうする?
いや開けるんだけども・・・。
どうやって?!
ブスッと・・・痛い怖い自分じゃ無理!!
思わず涙目でシュルツを見上げた。
「ぅ、・・・・・・どうした?」
一瞬眉を寄せたシュルツだったけど、すぐに何時もの顔だった。
でもその間は何?
「・・・まあいいや。うん、僕の耳にピアスホール無いから・・・」
「ああ、俺がやってやるぞ」
「でででも、痛いんでしょ?! ブスッと刺すんでしょ?!」
「ブスって・・・まあ、そりゃあ・・・でも冷やして感覚を鈍くしてから一瞬だぞ。治癒魔法ですぐに治せるし」
ちょっと腰が引けてるイツキに笑ってそう言うシュルツ。
それを信じて御願いする。
右耳の耳朶をそっと摘ままれ、思わずヒクッと肩が揺れる。
ふっと笑うような吐息が耳元で漏れて、耳だけでなく首筋まで真っ赤に熱を持った。
摘まんだままの耳朶をたぶん氷魔法で冷やしだしたシュルツ。
火照った耳もひんやりしてきた。
───冷たくて気持ちい・・・。
呑気に思ったその時に一瞬、ピリッとした衝撃と、ふわっとした魔法の動きが・・・。
「終わったぞ」
「───え、もう?!」
そう言われて耳を触ってみれば、ひんやりピアスの感触が・・・。
「・・・・・・凄ーい!! 全然痛くなかった! ありがとう、シュルツ!」
「どう致しまして。俺のは開いてるから、イツキが付けてくれるか?」
「もちろん!」
僕はウッキウキでシュルツの少し尖った耳を撫でた。
エルフみたいに長くはないけど、少し先が尖ってる。
珍しくて夢中でさわさわと擦っていたせいで、シュルツが耳を赤くしてることに気付かなかった。
そうしてシュルツにもピアスを付けて、満足げに見やったのだった。
454
お気に入りに追加
2,657
あなたにおすすめの小説
セカンドライフは魔皇の花嫁
仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。
ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。
黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。
黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。
本来なら白いはずの目玉は黒い。
「お帰りなさいませ、皇妃閣下」
男は美しく微笑んだ。
----------------------------------------
▽なろうさんでもこっそり公開中▽
https://ncode.syosetu.com/n3184fb/
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。
後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。
目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。
気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。
街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。
僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。
そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。
それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。
けれど、その幸せは長くは続かなかった。
前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。
そこから、僕の人生は大きく変化していく。
オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
11/23(土)19:30に完結しました。
番外編も追加しました。
第12回BL大賞 参加作品です。
よろしくお願いします。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる