優しい庭師の見る夢は

エウラ

文字の大きさ
上 下
25 / 89

24 シュルツの家族 3(sideシュルツ)

しおりを挟む

「・・・・・・危険どころじゃないぞ。そんなものを幾らでも作り出せると知られてみろ。誘拐されて奴隷にされて死ぬまで飼い殺しだぞ」

ゼクスが険しい表情で言った。
それにアハトも頷く。
何も言わないが、スミスも若干、青ざめた顔をしていた。

「そうです。だから精霊王の指示の元、特定の条件下でシュヴァルツ家とイツキのロッジ間でのみ発動するように設定してあるそうです」

それを聞いて少し安心したようだ。

「その条件は?」
「私の家族・・・父上とアハト兄上、それと護衛となる影の者数人を魔石に登録します。もちろん悪意があった場合は転移できませんし、もし万が一転移できたとしても、最後は精霊の森の聖域に弾かれてロッジには絶対に転移できません」
「───そうか。それならば安全か・・・。だが問題はこの魔石を何処に置いておくかなんだが」
「そうだよ、シュルツ。こんなの、何処に置いても安心出来ないだろう。どうするんだ?」

ゼクスとアハトがもっともな事を聞いてきた。それはそうだ。
ただの魔石だとしてもかなりの価値があるのだから。

だがそれも対策済みだ。

「ご心配なく。今は説明のために元の魔石のままにしてありますが、これに精霊王がただの宝石のように見える隠蔽魔法をかけてくれたのでその魔法を発動すればまず分かりません。その前に、父上と兄上、後はその選定した影の魔力登録をしたいのですが」
「そうか、分かった。聞いたな、お前達出ておいで」

ゼクスがそう言うと、音も無く現れた5人。
一人は影を束ねるリーダーで残り4人がイツキの護衛だろう。

「この者達はに忠誠を誓っている者だから安心して良いよ」

ではなくという事は、有事には公爵家の為に動くのではなく個人を優先するということだ。

ならば信用できるだろう。

「分かりました。では父上から、魔石に手を置いて魔力を流して下さい。登録が無事に済めば左手の小指の爪にシュヴァルツ家の紋章が刻まれます。その後は消えますが、この魔石に触れれば浮かび上がり、それが転移の鍵の一つとなります」
「・・・うん、確かに刻まれた。なるほど、コレなら容易くは使用できないな」

それから順に魔力を登録していき、影も登録したところでシュルツが隠蔽魔法を発動した。

すると誰が見てもただの綺麗な宝石になった。
その後、おもむろにマジックバッグからシュルツが取り出したのはもこもこふわふわの毛並みのデフォルメされた真っ白い垂れ耳ウサギのぬいぐるみ・・・。

しかも体長150cmはあろうかというサイズ。

「───えーと、シュルツ?」

ガタイの良い男前がそんな大きくて可愛らしいウサギのぬいぐるみを抱えている絵面は何とも言えない違和感があった。

「・・・・・・っぷ・・・」
「・・・くくっ・・・・・・」
「・・・・・・」

ゼクス達は笑いを堪えていた。
影は表面は無感情でいたが、おそらく心の中では苦笑しているだろう。

「・・・・・・父上達・・・、分かってますよ。自分でもおかしな組み合わせだって。・・・・・・仕方無いでしょう、イツキが作ったんですから」
「・・・おう、そうか・・・イツキ殿の趣味か・・・そうだよな、まさかお前の趣味かと・・・っ!!」

笑いを堪えきれなくなったゼクス達は腹を抱えていた。

「───もう良いです。で、この中に魔石を入れますから。この中に入れれば魔石の存在も隠蔽されますので、コレを執務室なり父上の部屋なりに置いておいて下さい。さすがに盗もうとは思わないでしょうが、このぬいぐるみ、防衛反応で動くのでご注意下さい」
「───は?」
「見てて下さい。影の誰かぬいぐるみに何か投げてみて」

そう言われて、リーダーが暗器を飛ばすと・・・。

シュババッという感じで、そのぬいぐるみの体格からは想像もつかない俊敏な動きで受け止め、更に相手に投げ返した。

リーダーは問題なくそれを受け止めたが、少し驚いたようだった。

「───おい、シュルツ・・・」
「何です?」

呆気にとられたゼクスが口を開いた。

「コレも精霊王が・・・?」
「いえ、イツキが独断で作りました。精霊王は関わっていません」
「───イヤイヤ、今時の錬金人形オートマタでさえ、こんな動きは出来ないと思うが」

有り得ん、と頭を抱えた。
そもそもぬいぐるみと言う名のとおり中身は綿なのだが、物理耐性、魔法耐性、状態保持の魔法が付与されている。

「・・・もう、予想の範疇を遥かに超えるハイエルフなんですよ。しかも無自覚。だから当分は精霊の森で過ごしますよ。父上達も、くれぐれも情報管理、お願いします」
「───分かった。・・・・・・はあ、会うのが楽しみなような怖いような・・・・・・」

ゼクス達は苦笑した。



ちなみにぬいぐるみは、ゼクスかアハトが邸にいて仕事をしているときは執務室に、それ以外はゼクスが寝室に抱えて運んでいる。

ぬいぐるみの本性を知らない邸の使用人達は、妻を亡くして数十年、ゼクスの寂しさを紛らわせようとシュルツがゼクスに贈った───と勘違いしている。

時折、夜中にぼんやりと光って歩いているウサギの姿を目撃した使用人は、亡き奥様の魂が乗り移っているのでは・・・と恐れ戦き、ウサギのぬいぐるみに不用意に近付く者はいなくなったので、結果的には良かったのかもしれない。

のちにウサギのぬいぐるみに愛着が湧き、亡き妻の名を付けて愛おしそうに呼ぶゼクスの姿が見られるようになったとか・・・。

「ノイン、お休み」

知らず、ゼクスの心も癒してくれたのだった。







※夜中に徘徊するぬいぐるみ。実は不審な気配を察知して防衛反応で動いてます。

しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。 ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。 黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。 黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。 本来なら白いはずの目玉は黒い。 「お帰りなさいませ、皇妃閣下」 男は美しく微笑んだ。 ---------------------------------------- ▽なろうさんでもこっそり公開中▽ https://ncode.syosetu.com/n3184fb/

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。 後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。 目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。 気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。 街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。 僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。 そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。 それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。 けれど、その幸せは長くは続かなかった。 前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。 そこから、僕の人生は大きく変化していく。 オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。 ✤✤✤ ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。 11/23(土)19:30に完結しました。 番外編も追加しました。 第12回BL大賞 参加作品です。 よろしくお願いします。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...