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23 シュルツの家族 2(sideシュルツ)
しおりを挟む精霊の森から飛び立って竜帝国のシュヴァルツ家に向かうシュルツ。
先ほど飛び立つ前に父であるゼクスに通信を入れておいたので、自分が邸につく前には仕事を片付けて待っていることだろう。
───それにしても・・・。
イツキの魔法の才は底知れない。
転移の魔法など、名のある高位の魔導士でも両手で数えるくらいしか使い手はいない。
大陸で一番の国土と軍事力を有する竜帝国でさえ、お抱えの帝国魔導士の中で二人だけだ。
そんな二人さえも凌駕するほどの腕前・・・。
幾ら精霊王の力を借りたとはいえ、最初に魔石を手に取ったときの衝撃と言ったら・・・。
これでただの練習で魔法を籠めた?
嘘だろう?
純度の高い掌サイズの魔石にぎりぎりの量で高密度の魔力を注いであった。
そこに目視できないほどの精緻な転移魔法の魔法陣がびっしり転写されていて。
そこにどうやったのか、闇の精霊王ダルクの指示の元、魔法陣を描き換えたり追加したり。
なんてこと無いようにサラサラと・・・。
おそらく、比較するものが無いため本人は気付いていないのだろうが・・・。
・・・本当にイツキが善良なエルフで良かった。
そもそも精霊の森の【管理者】はそういう心根の者が喚ばれるそうだから当然と言えばそうなのだが・・・。
イツキには申し訳ないが、やはり迂闊に精霊の森からは出せないな。
危険すぎる。
そう思う心の内には、実は本人にも自覚のない独占欲が十二分に入っていたのだが・・・。
真面目で今まで浮いた話も無いシュルツは、そういう恋愛感情にもの凄く疎かった。
そうして凄い速さで翔んで行くことおよそ3時間。
竜帝国の外門に着いたシュルツは竜人の姿に戻り、門衛にギルドカードを提示して城下街に入った。
別にギルドカードを見せなくても門衛はシュルツがSランク冒険者でわが国の宰相閣下の次男だと知っているが、そこはキチンとお役所仕事なので確認はしっかりとする。
「さて、父上は在宅かな?」
『先ほどお戻りです』
「そうか。じゃあ、まっすぐ帰宅しても問題ないな」
当然のように側に控えた公爵家の影が告げた言葉に、ちょうど良いと早歩きで向かった。
そうして邸に戻ると、執事長のスミスがすでに待機していて、ゼクスが待つ執務室へと案内された。
執務室では公爵家の書類仕事をしていたらしいゼクスが、シュルツを見てキリのいいところで手を止めた。
「やあ、お帰り。10日振りくらい?」
「ええ、そうですね。急で申し訳ありません」
二人は挨拶もほどほどにソファに移動してスミスに淹れて貰ったお茶を飲んだ。
「・・・で?」
「先日、父上がイツキに会いたいと言ってたでしょう? その件をイツキに話したら精霊王に声をかけてくれて、会えることになったので」
「・・・え、もう?!」
思わず腰を上げるゼクスに苦笑したシュルツ。
「ええ。それで詳しい話をしに来ました。兄上は・・・?」
「今、こちらに向かっている。少し待て・・・ああ、来たな。入っていいぞ」
兄の所在を訪ねていると、ちょうど来たので部屋に通す。
「やあシュルツ、久しぶり」
「久しぶりです、アハト兄上」
「───じゃあ、その詳しい話を聞かせて貰おうかな」
「・・・何の話です、父上?」
話が見えないアハトにシュルツが最初から伝える。
「イツキに会う手段を持って帰ってきました」
「え? もう?!」
父親と同じ反応にシュルツは笑った。
「まずは父上と兄上、後は影の者でイツキに付けられる者限定で、会って頂きたい。場所は精霊の森の【管理者】のロッジです」
「・・・私達が行くんだね?」
「ええ、申し訳ないのですが、危険なので今はとにかくイツキを外に出せないのです」
シュルツがそう言うと、父達は思案顔になった。
「危険な意味は色々とありそうだが・・・そうだね、こちらから訪ねた方が良いだろう。影はすでに選定済みだ。構わないよ」
「ありがとうございます。ではここからは他言無用で。誓約魔法を使わせてもらいます。影は・・・」
「すでに公爵家に雇う時点で誓約魔法で縛ってあるから他言出来ないよ、大丈夫。私とアハト、今はスミスもいるがこの3人で良いか?」
側で控えるスミスも頷いたので、では、と誓約魔法を発動した。
「ありがとうございます。実は移動にはコレを使うのです」
そう言ってマジックバッグからあの魔石を取り出した。
テーブルの上にそっと置くと、父達は目を瞠った。
「───シュルツ、これは・・・」
「イツキが作った、転移魔法を組み込んだ魔石です」
それを聞いた全員が絶句した。
「だから危険だと申し上げたのです」
シュルツは真顔でそう言った。
※寝落ちて書き上がらず、遅くなりました。
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