15 / 89
14 森人あるある?
しおりを挟む森に入ること数十分。
巡回ルートは毎回違うのだが、さすがに4年も歩いていればそれなりに道のようになってくるモノで、人一人が十分通れるような獣道に近いモノが出来ている。
そこをゆっくりと歩きながら辺りをキョロキョロと見回す樹希。
ゆっくりではあるが、当然地面は凸凹なわけで・・・。
「───っわっ!」
足元がお留守になってしまって木の根に躓き、転びそうになる。
そこをすかさずシュルツが腕を回して抱え込む。
───それをこの数十分で何度繰り返したのか・・・・・・。
「・・・大丈夫か?」
「ん、ごめん」
「・・・・・・これで良く森の巡回が出来るな・・・」
危なっかしくて見てられん、とぼやくシュルツだった。
「転びそうになると大抵、近くの蔓性植物が蔓で支えてくれるんだよ・・・ほら」
そう言って指差した方向にはプラプラ揺れる丈夫そうな蔓が・・・。
「・・・・・・魔性植物?」
「無害だよ?」
「いや、分かってるが・・・自我を持って自ら助けてくれるのか? 凄いな、この森は・・・」
「皆、良い子だよ」
「さすがは森人。植物に好かれてるんだな。・・・・・・それにしてもイツキは本当に鈍くさいんだな」
エルフにあるまじき運動音痴・・・。
エルフは俊敏で魔法に長けていて、自然との親和性が高い。
食べるために動物を狩ることは少ないが、危険の排除のために弓で狩りをするくらいには弓の腕が良い。
今ではその姿を見るモノはほとんどいないが、かつてのエルフ達はそうらしかった。
それに当てはめると、目の前のエルフは余りにもひ弱で鈍くさい。
もう一度言う。
本当に鈍くさい。
・・・これで良く生きていたな。
生まれ付きなのか、それとも育った環境故か。
───イツキは『森に入ったことないから』と言っていた。
エルフに限らず、森に入ったことの無い者などほとんどいないだろう。それこそ籠の鳥のように何処にも出られないような生活でも無ければ・・・。
「あとねぇ、この森の木々は優しいから、僕が通るとき避けてくれるんだ」
『長く生きてるとドライアドになるんだよ』
『外のトレントとは違うよ』
『ドライアドは樹木の精霊』
『トレントは樹木の魔物』
『竜の人は知ってるよね?』
「ああ、そうだな。トレントは悪さをする事があるが、ドライアドは神聖な存在だ。そうか、この森はドライアドがたくさんいるんだな」
感慨深そうに辺りを見回すシュルツにイツキが笑って言った。
「うん、大きい木は大抵そう。森を歩くとあちこちから声をかけられて、ソッチに気を取られるから・・・」
だから良く転けるし、ドライアドになっていない若木は避けてはくれないからぶつかるし。
「───うん、まあ、そういうことにしておこう・・・」
そう言ってぽすっと頭を撫でられた。
だから子供じゃ無いってば。
『イツキはエルフっぽく無いからね』
『普通は当たり前のように避けるから、ぶつからないんだよ?』
『木の枝、ぴょんぴょん跳ねるの当たり前』
『イツキは跳ねても木に登れないもんね』
「ううぅ煩い!」
『『『『そこが可愛い!』』』』
「可愛くなーい!」
精霊達に同調するかのように森の木々がさわさわと揺れたようだった。
ソレに合わせて、清浄な魔素が溢れ出てくる。
───これが、森人の力・・・。
エルフが森と共に在る理由。
この魔素が世界中に満ちれば、魔物の活動も抑えられ、人々の暮らしも楽になるだろう。
ユトピアの神が護ってきたこの精霊の森を、エルフを、俺達は護っていかねばならない。
517
お気に入りに追加
2,657
あなたにおすすめの小説
セカンドライフは魔皇の花嫁
仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。
ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。
黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。
黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。
本来なら白いはずの目玉は黒い。
「お帰りなさいませ、皇妃閣下」
男は美しく微笑んだ。
----------------------------------------
▽なろうさんでもこっそり公開中▽
https://ncode.syosetu.com/n3184fb/
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。
後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。
目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。
気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。
街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。
僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。
そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。
それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。
けれど、その幸せは長くは続かなかった。
前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。
そこから、僕の人生は大きく変化していく。
オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
11/23(土)19:30に完結しました。
番外編も追加しました。
第12回BL大賞 参加作品です。
よろしくお願いします。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる