優しい庭師の見る夢は

エウラ

文字の大きさ
上 下
10 / 89

9 自覚(sideシュルツ)

しおりを挟む

「───で? ずいぶんとお早いお戻りで」

夜遅く帝都の冒険者ギルドに戻ったシュルツは、ギルマスがいることを確認するとさっさと報告に向かった。

ギルドは通常、職員がシフトで仕事をしていて24時間開いている。
だがギルマスやサブギルマスは当然一人づつなので24時間働いているわけじゃ無い。
夜は普通に休みなんだが、おそらく今日は俺が来ることを予想していたんだろう。

「幸いな事に行って直ぐに接触出来たんですよ。はい、報告書」

そう言って作成しておいた報告書を渡す。

「どれどれ・・・・・・おお、やっぱりエルフか。ふうん、4年前から住んでるって?」
「ええ、見たところまだ子供でしたが、可愛らしくて穏やかな感じでしたよ」
「・・・子供って・・・エルフも竜人と同じで長命種だから見た目じゃわからんだろう? 歳は聞かなかったのか?」

報告書から顔をあげてギルマスが呆れるようにそう言ってきたが、そう言えば歳の話はしなかったな。

「・・・・・・ちょっと訳ありっぽかったので、深くは踏み込まなかったんですけど・・・」
「───まさか、奴隷狩りにあってたのか?」

ギルマスが顔色を変えて聞いてきた。
エルフの訳ありと聞くと真っ先に浮かぶのがそれだ。

「・・・分かりません。・・・が、精霊以外に拒絶反応を起こすと精霊達が言ってましたね。4年前の事を聞いたとき、本人が昏い瞳でと口を閉ざしましたので、あるいは・・・」
「・・・・・・そうか。まあ、傷を抉りかねないことは黙っておくに限る。コッチは【管理者】として生活してもらえれば御の字だ」

暗にそれには触れるな、と言うギルマス。
俺だって好き好んでイヤな記憶を刺激したくは無いので頷いておく。

「じゃあこれで、私は帰ります」
「おう、ご苦労様・・・・・・と言いたいが、この報告書、公爵様に持っていってくれ。手間が省ける」
「───チッ、・・・持ってきゃ良いんでしょ?」

そもそも親父の依頼だから、俺から話せば良いんだが・・・二度手間!

「頼んだぜ。さて、俺もやっと帰れるー!」

やっぱり俺を待ってたな。
やれやれだぜ。


冒険者ギルドをあとにして、すでに10時を回っている夜遅くに我が家に向かった。

「お帰りなさいませ、坊ちゃま」
「坊ちゃまはよせと何時も言ってるだろう」
「ホホホ、まだまだ独り身のうちは坊ちゃまでございますよ」
「・・・・・・父上は?」
「執務室でお待ちでございますよ」

古くから仕えている執事長のスミスが揶揄うように言うのを聞き流して親父のことを聞くとそう返ってきた。
やっぱり待っていたのだろう。

帰ったその足で執務室に向かう。

「父上、シュルツです」
「入れ」

間髪入れずに返って来た応えにドアを開ける。

「遅くなりました。これが今回の依頼の内容です。じゃあこれで」
「───待て待て待て! 少しは話をしていけ!」

サッサと踵を返すと引き留められた。

「別に話す事は無いでしょう? それに書いてあるし。支度をして早く戻りたいんですよ」

イラッとしてそう言うとニヤリと笑われた。
・・・何だ?

「・・・・・・見つけたな?」
「・・・・・・何を・・・」
「ええ・・・無自覚かい?! 番いだよ、! おそらくだけど、【管理者】がお前の番いだろう?」
「───え?」

そう言われて、ハッとする。
そういえばやたらと会いたくなったし、どきどきした。
すでにあそこには帰るって無意識に思っていた。

───そうか。

あんなに目が離せなくて側にいたいと思ったのは、そういうことだったのか。

自覚した途端、カーッと顔が熱くなった。
目に映った父親が驚いた顔をしているのが見えた。

おそらく俺は今、真っ赤な顔で固まっているだろう。

「───ああもう、そんな顔されちゃ、もう何も言えないよ。サッサと荷物纏めて行っちゃいな。ああ、通信魔導具は持っていって。毎日と言いたい所だけどせめて数日に一度は連絡を入れなさいよ?」
「───っ、分かった。じゃあ・・・」

敬語どころじゃ無く、そう言ってシュルツは行儀悪くドアをバタンと閉めて出て行った。

「そっか。やっぱり予感は当たったか・・・・・・」

報告書を見るに、良い子っぽいから良かった。

いくら次男で冒険者なんて自由にさせているとはいえ、それでも王家の縁戚だ。
良識の無い者がシュルツの番いであったなら、その者を密かに殺してでも止めただろうが・・・。

番いは身分や育ち、種族が違えども我々竜人にとっては至宝。
全身全霊で愛し、番いの願いは何でも叶えようとしてしまう───良くも悪くも、一途なのだ。

故に悪い方に暴走してしまえば・・・・・・。

「影数人を交代で警護にあたらせねばな。いくら精霊の森が安全とはいえ【管理者】イツキ殿に何かあればシュルツは荒れるだろう。・・・後はイツキ殿の過去・・・奴隷狩りの被害者かもしれないんだよね?」

独り言のように呟いたそれに応えるモノが・・・。

『ギルマスとその可能性を話しておりました』
「・・・そっか。こちらで密かに動いておこう」
『御意』

何処にでも馬鹿はいるもんだからね。
そのせいでこの世界が危機に瀕しているというのに・・・。
目先の事しか見られない愚か者共め。

森人エルフが森と共生しているからこそ魔力が溢れ、我々も生活できているというのに・・・」

誰ともなしに呟いた声は、今度は誰も拾うことは無かった・・・。


「おや、坊ちゃま。こんな時間にお出かけですか?」

廊下で執事長のスミスにあった。
俺がせかせかとしているのを気に止めたのだろう。

「スミス。ああ、支度をして精霊の森に戻る」

シュルツがそう言っただけでピンときたらしい。

「・・・・・・ああ、なるほど。分かりました。お相手の方はどのような感じの?」
「えっ?! いや、ああ、うん・・・・・・薄金茶色の髪に柔らかい新緑色の瞳で、俺の胸くらいの高さの可愛らしい小柄な森人エルフの少年だ」

今さら隠しても無駄なのでそう告げた。

「・・・・・・ほうほう、【管理者】殿ですな。・・・では厨房の方から甘味などを持ってこさせましょう。何、女性やお子様は大抵甘いものがお好きでしょうから、手土産にどうぞお持ち下さい」
「・・・そう言えばピチの実をシロップ漬けにしたものを茶請けに出されたな。確かに森では菓子類は手に入らないか」

焼き菓子を作るにしても材料は手に入らなそうだ。

「そうで御座いましょう? さあさあ、なれば手早く支度を整えませんと。あの森までは急いでも数時間かかりますでしょう」
「ああ、早く向かいたい」
「ほっほ、まさかこのような慶事に相まみえようとは、長生きはするものですな」

そう言って足早に厨房に向かうスミスは心なしかルンルンしている気がする。


───まあ良いか。


逸る心を宥めて、荷物を纏めるシュルツだった。











しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾
BL
星呂康泰、十八歳。 ある日の夕方、家に帰れば知らない男がそこに居た。 黒を纏った男。さらりとした黒髪。血のように赤い双眸。雪のように白い肌。 黒髪をかき分けて存在を主張するのは、後方に捻れて伸びるムフロンのような一対の角。 本来なら白いはずの目玉は黒い。 「お帰りなさいませ、皇妃閣下」 男は美しく微笑んだ。 ---------------------------------------- ▽なろうさんでもこっそり公開中▽ https://ncode.syosetu.com/n3184fb/

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。 後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。 目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。 気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。 街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。 僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。 そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。 それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。 けれど、その幸せは長くは続かなかった。 前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。 そこから、僕の人生は大きく変化していく。 オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。 ✤✤✤ ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。 11/23(土)19:30に完結しました。 番外編も追加しました。 第12回BL大賞 参加作品です。 よろしくお願いします。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...