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静かな夜 聖なる夜
しおりを挟むその日、俺は行きつけの酒場で飲んだくれていた。
今日はこの国の年に一度の聖者生誕祭。
国中、この街も例外なく祭りで大騒ぎしている。
そして今日は恋人達の日でもあった。
今日ばかりはほとんどの国民が休日となり、普段は仕事で逢瀬が叶わないようなカップルもゆっくりとデート出来る。
この日に想いを寄せる相手に告白したり、プロポーズをしたり。
とにかく街中が浮かれていた。
そんな中、俺は騎士という職業柄、何時もよりは勤務時間が短いとはいえ、夕刻まで街の見廻りをしていた。
騎士だが、俺は見た目が凛々しくないせいか女にモテた事が無い。
そして女姉弟のせいで、幼い頃から姉達の着せ替え人形にされて、やれドレスだやれお人形遊びだままごとだ、しまいには化粧を施されてお茶会に出された事もある。
・・・・・・我が家で行われた数人でのお茶会ではあったが。
おかげで俺は女という生物が苦手になった。
心底どうでも良い。
女にモテなくて大いにけっこう!というスタンスだった。
だからと言って男が好きだ、という訳では無いのだが・・・。
近年、同性愛が普通に受け入れられつつあるせいか、同性カップルも多く同性婚の率も高いので、街中でいちゃいちゃしているヤツらを良く見かける。
・・・それを(顔には出さず)良いなあ、とチラチラ見ている。
それが俺の今のところの楽しみというか癒しというか・・・・・・。
だがしかし、俺の事情を知る幼馴染みのスレッドが何気なく言った言葉で俺は気付いた。
「ユイはさ、NLは興味ないの?」
「・・・・・・え?」
NL・・・・・・って、ノン気のラブって事?
ていうか、俺は別に同性愛者じゃあないからノン気とか関係ないような・・・?
「俺は・・・」
言い淀んでいたら、勝手に解釈したらしいスレッドが言った。
「ああ、そうだよな。お前、あの姉達のせいで女が嫌いだもんな、ノーマルに興味無いか」
「・・・・・・」
---ああ!!
ノーマル・ラブか!!
異性愛者のラブ!!
・・・・・・うわ、俺、ノン気しか浮かばなかったわ。
ヤベえ。
え?
・・・・・・俺ってそんなに腐ってたの?
その後もスレッドが何やら言っていたが、腐を自覚したばかりでショックから立ち直れなかった俺は、最後に別れ際でスレッドが言った言葉で我に帰った。
「じゃあ、俺は婚約者とデートだから、またな!!」
「・・・・・・っああ、楽しんできてくれ」
そこから今に至る訳だ。
「マスター、おかわりぃ・・・!」
「・・・飲み過ぎですよ、シューヴァ副団長」
そう窘めながらも、火酒を薄ーく割って出してくれる。
「マスター、優しいねえ・・・。マスターみたいな人が相手ならいくらでも飲んじゃう・・・!」
「ふふふ、嬉しいですけど、本当に今日は飲み過ぎでは? どうかなさったので?」
ちなみにマスターはロマンスグレーのイケオジですけど。
「せっかくの生誕祭、今年もお一人ですか?」
「・・・いーのいーの、どうせ俺は腐ってるから」
「---どこが腐ってるんです?」
「あのねえ、俺ねえ、幼馴染みにぃ・・・NL興味ないの?って聞かれてぇ・・・ノン気ラブって思ったのぉ」
「ふーん、それで?」
「ノーマルラブって意味だって気付かなくてぇ、俺、けっこう腐ってたんだなあって。・・・俺ねえ、女が苦手なのぉ・・・」
「・・・そうなんですか?」
「そーなの・・・って、あれ? おたく、ダレ?」
マスターと話してるつもりで管を巻いていたら知らない男がカウンターの隣の席に座っていた。
「ああ、失礼。シュエ・ニクスと申します、ユイ・シューヴァさんですよね?」
「んん、俺のこと知ってんの」
「ええ、有名ですよね。第五騎士団副団長様」
そう言った男を見ると、俺よりもがっちりムキムキの、紺色の髪に琥珀色の瞳のキリッとした男らしいヤツだった。
俺よりも年下か?
誰だろう・・・?
ジッと見ていたが酒で回らない頭はそれ以上考えるのを止めた。
「・・・そうなんだ? 何で有名なんだろ?」
「まあまあ、それは別にいいじゃ無いですか。せっかくの生誕祭、独りで寂しそうだったんで。どうです、うちで飲み直しませんか?」
そう言ったシュエに驚いて言った。
「ええ? あんたも誰かいい人いるんでしょ。カッコいいもん」
「いえいえ、いたらここに独りで飲みに来ませんよ」
「---そっかあ、そーだよね。うん、じゃあ、一緒に飲もーか!」
「ええ、じゃあ行きましょう。マスター、お代はこれで、釣りは良いです」
「毎度ありがとうございます・・・ほどほどにお願いしますよ?」
「・・・善処する」
そんな会話をマスターとしていたことには気付かなかった。
「---お帰りなさいませ、シュエ様。そちらの方は」
「ああ、彼はユイ・シューヴァ殿だ。俺の部屋で飲むから、酒とつまみを頼む」
「---ユイ・シューヴァと申します。お邪魔致します。・・・・・・あの、本当に良いのか?」
来てみたらめちゃくちゃデカい邸で、あれ、俺、場違いじゃんと引け腰になったんだが。
おかげで一気に酔いも醒めた。
「良いんですよ。どうせ俺も独りだし。ほら早く飲みましょう。明日は休日ですし、ゆっくり出来ますよ」
そうだった。
今日出勤した代わりに明日が休日なんだった。
だからこうして飲んでいる訳なんだが・・・。
あれよあれよという間にシュエの私室に連れ込まれて、着ていた上着も脱がされ、すっかり寛いだ空気になっていた。
「何が好きですか? 色々ありますよ」
「・・・特に拘りは無いから何でも・・・」
「ああ、そう言えば先ほどは火酒を飲んでいましたね? お好きなんですか?」
「うん、好き・・・」
「そうですか、好きなんですね」
「ん、一番好き・・・」
優しい微笑みで聞かれて思わず好きと連呼していた。
気恥ずかしい。
不思議とシュエの優しさに自分の気持ちを吐露したくなる。
「・・・俺って、出来損ないの人間なんだな・・・」
「・・・どうしてそうだと?」
「だって、女が苦手で、跡取りなのに婚約者もいない」
「俺だっていないですよ?」
「ええ? でもシュエ、まだ若いでしょ? 俺なんかもう27だよ? このまま結婚出来なかったら姉の子でも養子に貰って・・・」
・・・もう、それで良いかも。
「---俺じゃ、駄目ですか?」
「・・・へ?」
「それなら俺が嫁に貰っても良いですか?」
「・・・シュエ・・・?」
お前、何言って・・・?
「取りあえず、俺でも大丈夫か確認しません? ・・・体の相性ってヤツ・・・」
「・・・は」
気が付いたらガチムチなシュエにベッドに押し倒されていた。
「ぇ、まっ・・・シュエ・・・?!」
「ユイさん、綺麗な体だ」
訳が分からない。
シュエは片手で俺の両手を頭の上で拘束して、空いた手でシャツの裾から中を・・・素肌を弄っている。
ソフトタッチで触られて、肌が粟立つ。
背筋がぞわぞわとした。
自慢じゃないが、俺はこの歳になっても童貞だ。
だって女が苦手なんだぞ。
娼館はもとより、恋人すらいたことがない。
何時も自家発電で処理するだけ。
それもここ最近は抜いてないんだ。
そこにこんなことをされたらひとたまりも無い!!
「まっ、シュエ・・・待って、ぉ、俺、初めてっ」
そう言ったら、ピタッと動きが止まった。
「・・・・・・初めて? それはどういった意味の・・・?」
シュエは俺を真っ直ぐ見つめながら聞いた。
それに戸惑いつつも応える。
「ど、どういった意味って・・・それは、恥ずかしながら・・・ど、童貞で・・・」
「・・・・・・処女?」
シュエが後を引き取ってくれたので、コクコクと頷いた。
瞬間、華が咲いたようにぱあっと笑顔になったシュエに不覚にも見蕩れてしまった。
「あの・・・・・・シュエ?」
「---嬉しいです。まさか、口付けも、ですか? この行為がイヤでは無いんですね?」
「え? そりゃあ、もちろん初めてだけど、何でだろう、シュエとはイヤじゃ無い・・・」
「・・・最高な気分です! こんな奇跡が起こって良いのでしょうか?! 素敵です、ユイ!!」
・・・・・・いつの間にか呼び捨てにされていたが、気にしないでおこう。
・・・イヤじゃ無いし。
そして初めての口付けと共に再開される愛撫に、あっと言う間にイカされて。
知らなかった男同士での繋がり方にビビりまくり。
魔法で洗浄され丁寧に解された後孔にシュエの体に見合った太くて長い逸物を受け入れる頃には、俺の体力はほとんど残ってはおらず、されるがままに突き入れられ、突き上げられて・・・。
---ずっと、泣きながら啼いていた気がする。
俺の初めての経験は思った以上に気持ち良過ぎて・・・・・・。
気絶するように寝落ちした。
◇◇◇
---やっと手に入れた。
シュエは寝落ちしたユイの体をぎゅっと抱き締めた。
今は穏やかに打つ鼓動を聞きながら、体中に散る赤い鬱血痕にうっそりと笑う。
「貴方をあの日初めて見てから13年・・・やっと、ここまで来た」
実はユイのお茶会のあの日に、ユイの姉と交流のあった俺の姉も呼ばれていて、当時10歳の俺もついでにと参加させられていたのだ。
14歳だったユイは女装させられていて、居心地悪そうにもじもじしていた。
おそらく、同席していた俺の事なんて気にかける余裕など無かったに違いない。
白金色の長い髪に潤んだ碧い瞳。
俺よりも4歳も年上なのに可愛らしい童顔で細い体・・・。
男と知っててもなお、庇護欲をそそる愛らしい姿に一瞬で心臓を掴まれた。
あのあとユイは暫くして席を立ち、戻らなかった。
俺は自分の姉やユイの姉達に散々揶揄われたが、それでも構わなかった。
彼を絶対に手に入れる。
あの日から13年、どうやって手に入れようかと色々裏で手を回したり、自分を鍛えて彼に相応しい男になれるように経験も地位も自分の力でもぎ取った。
彼は侯爵家の嫡男、俺は公爵家の嫡男。
どちらも跡取りだが、俺には弟もいる。
すでにユイの事を話して許可は得ている。
弟の子を養子に貰うか、弟に家督を譲っても良いと・・・。
それを13年前に聞かされた家族は若干・・・いやかなり引いていたが。
それでもちゃんと応援してくれた。
そうして、世の中も同性愛、同性婚が当たり前になり、大っぴらに口説けるようになって・・・。
やっとここまで来た。
彼があの酒場の常連なのも知っていたし、毎年この生誕祭には独りで飲んでいることも把握済み。
そもそも、酒場のマスターは我が家に長年勤めた護衛騎士だった。
引退を機に店を持ちたいというその騎士に、店を持たせる代わりにユイの話し相手になって行きつけの酒場にするように仕向けたのだから。
彼もまた、俺のユイへの執着を知っている一人だった故の『ほどほどに・・・』だったのだから。
一時は幼馴染みのスレッド・バーンとくっつくのではと、心配をしていたが。
彼は普通に異性愛者で、間もなく婚約者が出来て、ユイとはただの幼馴染みに留まった。
ユイも自分の性癖に気付かなかったので、助かった。
ユイは自分が女にモテない醜男だと思っているようだが、そうではない。
あまりにも美人過ぎて、女が隣に立ちたくないのだ。
誰が自分より綺麗な(しかも男)人間の側にいたがるか・・・。
比較され蔑まされるなど、屈辱でしか無いだろう。
故に自然と女が寄りつかなくなった。
反対に男には非常にモテた。
しょっちゅう秋波を送られていたが、本人が鈍いのか、異性愛者と思い込んでいたからか、全く気付かなかった。
これも幸いだった。
もちろん裏で手を回してはいたが・・・。
ユイが第五騎士団の副団長になった頃、俺は近衛騎士団に入団した。
この頃にはもうユイは、男なのに『麗人』の二つ名が付いていた。
もちろん本人の与り知らぬところでだ。
本人は全く知らないだろう。
剣捌きが優雅で無駄が無く、小柄で細いのにしなやかな筋肉で、幼く儚い印象の顔立ち。
知らぬ者が見たら、まさしく『男装の麗人』だった。
何故近衛騎士にならなかったのか不思議でならなかったが、自身を醜男と思っている自己肯定の低い考えのせいで、近衛騎士になど微塵もなろうとは思わなかったようだ。
身分も実力も十分素質があったろうに・・・。
周りがいくら勧めても自分には分不相応だと頑として断っていたそうだから、そこは少々不憫だったが。
結果として、近衛騎士の野郎どもの毒牙にかからずに済んだ。
第五にはうちの息のかかった騎士が多く在籍していたから、護るのは容易かった。
そして今年の生誕祭の夜に、管を巻いているユイを誘い出して家に連れ込み、(一応)同意の下に既成事実を作った。
---目を閉じて思い出されるのは、無垢な体を俺に拓かれ、感じ入り、善がるユイの痴態・・・。
口付けすら初めてだと言ったユイに歓喜した俺の気持ちが分かるか?!
逸る気持ちを鋼の意志で抑えて、その体を傷付けぬよう、初体験を気持ちいいことだけで刻みつけようと、丁寧にじっくり解して拓いていった。
「あっあっ・・・、しゅえ・・・しゅえ、きもちい・・・そこ、らめえ---イッちゃう・・・!」
白金色の髪を振り乱して碧い瞳を赤く潤ませて何度もイくユイに暴走が止まらず、腰を何度も突き動かした。
「しゅ、え・・・も---むり・・・おれ、ぉりぇ・・・きもち、よすぎぃ・・・もう、でないぃ・・・」
しまいにはユイの陰茎からは潮が噴き出し、ずっとイっているようだったユイはついに気をやって意識を手放した。
それに気付いてまだ萎えない自分の剛直を引き抜くと、締まらない後孔からどろっと己の放った白濁が溢れ出た。
「・・・どんだけヤッたんだ、俺・・・」
苦笑して、まだまだ硬い己の剛直をユイの痴態を思い浮かべながら擦ってユイの薄い腹にぶちまけた。
「・・・薄い腹、でも今は俺のでぽっこり・・・最高・・・」
うっそりと笑いながら浴室に抱き上げて連れて行き、ユイと自分を綺麗に洗って出る。
寝室は綺麗にベッドメイキングされていた。
「・・・さて、目を覚ましたときのユイの反応が楽しみだ」
シュエはユイを抱き締めて暫しの眠りへと入った。
目覚めたらあれとこれとそれもやって・・・。
ユイを確実に囲う為の策を頭に巡らせながら・・・。
目が覚めたユイが顔を赤くしたり青くしたりするまで、あともう少し・・・。
※24日に身内とした会話が元ネタです。
NLって・・・からの。
腐っていたのは私だった・・・。
という、聖夜に相応しくない?話。
24日中に間に合いませんでした。
なんか私が書くと病んでる感じになってしまう・・・何故?!
他の話(迷い子の月下美人など)もよろしくお願いします!
Merry Christmas
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