癒しが欲しい魔導師さん

エウラ

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65 魔導師と隣国の魔剣士 2

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気付いたら爆睡してたセイリュウ。

涎を垂らしてだらしない顔で寝ていたようだが、それすらもロザリンドにはカワイイ要素らしく、何故かにっこにこだった。

「セイリュウ、今日の泊まる予定の宿だ。安全の確保のため、宿を一軒、丸ごと貸切にしてある。もっともこの人数だから貸し切らないと泊まれないんだが」

ロザリンドが苦笑して言う。
そうなのだ。
今回は公式に隣国リヴァージュに訪問するため、これでもかという数の護衛が付き従っているのだ。

第三騎士団から選抜で10名、王族の警護や要人を警護する第一近衛騎士団から10名。
更にはオーディン公爵家の専属騎士団からも10名。

総勢30名の騎士達が護衛任務にあたっていた。

え? 僕の世話人?
そんなの、ロザリンドが他人に許すわけないでしょ?
だから僕の世話をする使用人は一人もいませんよ。
もっとも、僕もロザリンドも自分のことは自分で出来るから元々必要ないんだけどね。

で、今回はそういうことで大人数なんだけど、そんなに色んな所の騎士が混じったら意見とか連係とか大丈夫なのって思って聞いてみたんだけど、どうやら選抜の条件に僕やロザリンドに傾倒しているっていう意味不明なモノがあって?

ソレをクリアしてるから意志は一つで問題無いそうな・・・。
いやいや、ソッチが問題でしょうよ!
何なの、僕やロザリンドに傾倒って・・・!!
何処かの怪しいカルト信者じゃあるまいし、勘弁してくれ!!

---って思った僕は悪くないよね?
そして思ったよりも志願者が多くて、篩にかけるのが大変だったとか・・・聞きたくなかったわ。



思い出して内心疲れていると、今日のお宿に到着。

国境付近の大きな街の大きな宿。
明日は国境を越えて隣国に入り、向こうの宿を同じように貸切にして泊まった後にルラック公爵家に向かうそうだ。

「お手をどうぞ」
「ありがとうございます?」
「何故に疑問形」
「いやあ、こんな馬車のエスコートなんて慣れなくて・・・えへ?」
「・・・ック・・・天然め・・・」

馬車から降りるときに手を差しだしてエスコートをするロザリンドにヘンな言い方のセイリュウ。
誤魔化すように笑うセイリュウを、顔を覆って悪態をついた後にロザリンドが復活してスマートに降ろした。

そんな様子を、周りを警戒しながらも暖かく見守る護衛騎士達。

周りはほのぼのとした空気が流れていた。

そんな時、騎士達の隙間を縫うように駆けてくる子供がいた。

「あっ!!」
「---え?」

騎士の声にセイリュウが驚いて振り向くと、ロザリンドがセイリュウを背に庇いながら子供を捕まえていた所だった。

「うわっ!! 離せよー!!」

摘まみ上げるように持ち上げられた子供は5歳くらいだろうか。
手足をバタバタさせて暴れている。

「・・・何処の子供だ?」
「すみません、オーディン団長!!」

騎士達が慌ててやって来て子供を抱えて離す。

「いや、悪意は感じなかったから大丈夫だ。おい、何の用だ? この辺りは今日明日は人払いがされているだろう?」

そうロザリンドが言ったので、セイリュウが驚いた。

「え? 人払いがされているの?」
「・・・もう忘れたのか? お前は魔導師団長で陛下の従弟だと言ったろう? お前はもう少し、人から敬われる身分だという自覚を持て」
「あー・・・はい、すみません」
「そうやってホイホイ頭を下げて謝るのも・・・はあ、仕方ないか。セイリュウだものな」

今まで庶民どころか孤児扱いだったから、つい・・・ねえ。ヤレと言われればちゃんと出来ますけども。

そんな話をブツブツ言っていたら、その子供が反応して騒ぎ出した。

「やっぱり、おーさまのいとこさまだった! きれいなかみのけー!!」
「---わー!! すみませんすみません!! ウチの孤児院の子が大変なご無礼をっ!!」

そこに息を切らせた神官が慌てた様子でやって来てそう言った。
なるほど、人払いがされているので誰が来るのか興味津々で突撃してきたのか。

このくらいの子供なら、ダメと言われれば逆に行きたくなるよね。

「何も起きませんでしたから心配ないですよ。でも危ないですから、気を付けて下さいね」
「・・・あっ、ありがとうございます! 本当にすみませんでした。ほら、オリー、戻りますよ!」
「ちえっ、さよなら、きれいなせーりゅーさまー!!」
「コラッ!!」
「ふふふ、さよなら」

騒がしくしながら帰っていった子供と神官を見送り、今度こそ宿へと入る。

「ロズ、ありがとうね」
「それが俺の仕事だしな。それに愛する婚約者を護るのも俺の仕事だ」
「---っ頼りにしてます。旦那様」
「・・・だからこの天然・・・」
「?」

---苦労しますね、オーディン団長・・・。

騎士達は再び生温かい目で二人を見つめたのだった。




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