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61 魔導師は今更思い出す
しおりを挟む「そういえばさぁ、宮廷魔導師団の宿舎の僕の部屋ってどうなったの?」
アレから公爵家に戻ってきて数日、忙しかった日々がようやく落ち着いてロザリンドとのんびりお茶を飲んでいた。
そこでふと思い出す。
---あれ?
俺の宿舎の部屋って、まだあんの?
両手で数えるくらいは覚えてるけど、初めっからほぼほぼ使ってなかった気がするんだけど?
徹夜が当たり前すぎて、帰らずに毎日浄化魔法で身綺麗にしてたから部屋のシャワーなんて使った記憶が無い。
第一、最低限の荷物を支給されただけで私物なんて身一つで攫われた俺には無かった。
当時着てた服くらいだよねぇ。
それもインベントリに収納してあるし。
買い物?
行く暇なんて有りませんでしたけども?
だから別に残ってなくても全然構わないんだけど。
思い出したらちょっと気になった。
「副師団長の部屋ならそのまま残ってるが」
「じゃなくて、最初に割り当てられた部屋・・・ん? 副師団長の部屋?」
「ああ、入団当初にあてがわれたあの部屋か? それならセイが副師団長に任命されたときに部屋替えがあって、その部屋はとっくに空き部屋になっているぞ。ちなみに任命後は副師団長用の広い部屋になっているが・・・まさか、知らないのか?」
「? いや、そもそも最初の部屋にもほとんど帰ってないし、副師団長任命の後もずっと執務室に缶詰めだったから『部屋? なにそれ美味しいの?』状態だったんだけど?」
「・・・・・・」
途端にロザリンドが険しい表情を浮かべた。
「・・・・・・ロズ?」
「・・・いや、スマン。そうか、そうだよな。どおりで荷物が無かったはずだ」
「そうでしょ? 制服なんかはインベントリに入れて持ってきてたし、他に僕の私物なんて何にも無いから気にしなくて良いよ? いや、ほぼほぼ締め切った空き部屋状態だったから、カビてないかなーとか埃積もってるんだろうなーとか思っただけなので!」
何に対してか分からないようなフォローを入れるセイリュウ。
しかしそれに対してロザリンドが応えを返す。
「・・・さすがに定期的に掃除はされていたようで綺麗ではあったんだが・・・おそらく掃除担当者はずっと空き部屋だと思って掃除をしてたんじゃないかな」
「---あー、うん、まあそうだろうね。大体ベッドにシーツも毛布も無かったし。剥き出しのマットレスに枕もなく寝転がってたもんな」
あの頃はそれでもベッドで横になれた。
・・・まあ数日でそれも無くなったけどね、仕事に忙殺されて・・・。
思い出したら眉間に皺が寄ったのが分かった。
この公爵家のベッドに慣れちゃったらもう二度とあんなベッドに横になれないや。
「---ちょっと待て。それは聞いてないぞ」
「え? そりゃあ僕は言ってないと思うけど」
「そうじゃない。セイじゃない、大丈夫、気にするな。・・・・・・アイツら、やっぱりシメる」
「? なあに?」
最後はぽそりと小さく呟いたので聞き取れなかったセイリュウが首を傾げるが、ロザリンドは何でもないと首を横に振った。
「いや、今度職場に行ったら案内するよ。ここから通うにしても、休憩用の私室がある方が良いだろう? あんな仮眠室など使う必要はない」
「そーだねぇ。えっと、来月から復帰だっけ? 職場の皆、大丈夫かなあ・・・」
何だかんだと4カ月も休んでたよ。
療養と父様と実子のお披露目準備なんかで忙しかった。
ずっと仕事任せちゃってて、疲れてないかな?
「前のヤツらと違って優秀だから、キチンと休みながら仕事を捌いてる。心配ない」
「そうだよね。良かった。あんなに忙しいのはゴメンだけど『働かざる者食うべからず』っていうし、適度に仕事しよう」
そう言うと、ロザリンドが心配顔で言った。
「別に辞めても良いんだぞ? 寧ろ辞めても文句は言われないくらい働いてたんだし」
「そんな事したら堕落した人になっちゃう。怠惰に慣れちゃうともう戻れなくなっちゃうよ。今だって十分、堕落してるのに・・・そんな甘言囁いて、ロザリンドは僕をどうしたいの?!」
全くもうって膨れたら、ロザリンドはニヤリと笑って・・・。
「そりゃあ、俺無しじゃ生きていけないくらい依存して欲しいかな」
「---?! ちょっと! 何サラッとヤンデレ発言してんの?! ・・・・・・もうとっくにロズ無しじゃ生きてけないんですけど?!」
そう叫んだらロザリンドは目を瞠ったあと、蕩ける笑みでセイリュウに口付けをした。
「嬉しいな。もっと、俺に堕ちて・・・愛しい人」
---もうとっくに堕ちてるっての・・・。
セイリュウは目を瞑って、その甘い口付けを享受した。
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