癒しが欲しい魔導師さん

エウラ

文字の大きさ
上 下
61 / 85

61 魔導師は今更思い出す

しおりを挟む

「そういえばさぁ、宮廷魔導師団の宿舎の僕の部屋ってどうなったの?」


アレから公爵家に戻ってきて数日、忙しかった日々がようやく落ち着いてロザリンドとのんびりお茶を飲んでいた。

そこでふと思い出す。

---あれ?
俺の宿舎の部屋って、まだあんの?

両手で数えるくらいは覚えてるけど、初めっからほぼほぼ使ってなかった気がするんだけど?

徹夜が当たり前すぎて、帰らずに毎日浄化魔法で身綺麗にしてたから部屋のシャワーなんて使った記憶が無い。

第一、最低限の荷物を支給されただけで私物なんて身一つで攫われた俺には無かった。
当時着てた服くらいだよねぇ。
それもインベントリに収納してあるし。
買い物?
行く暇なんて有りませんでしたけども?

だから別に残ってなくても全然構わないんだけど。

思い出したらちょっと気になった。

「副師団長の部屋ならそのまま残ってるが」
「じゃなくて、最初に割り当てられた部屋・・・ん? 副師団長の部屋?」

「ああ、入団当初にあてがわれたあの部屋か? それならセイが副師団長に任命されたときに部屋替えがあって、その部屋はとっくに空き部屋になっているぞ。ちなみに任命後は副師団長用の広い部屋になっているが・・・まさか、知らないのか?」
「? いや、そもそも最初の部屋にもほとんど帰ってないし、副師団長任命の後もずっと執務室に缶詰めだったから『部屋? なにそれ美味しいの?』状態だったんだけど?」
「・・・・・・」

途端にロザリンドが険しい表情を浮かべた。

「・・・・・・ロズ?」
「・・・いや、スマン。そうか、そうだよな。どおりで荷物が無かったはずだ」
「そうでしょ? 制服なんかはインベントリに入れて持ってきてたし、他に僕の私物なんて何にも無いから気にしなくて良いよ? いや、ほぼほぼ締め切った空き部屋状態だったから、カビてないかなーとか埃積もってるんだろうなーとか思っただけなので!」

何に対してか分からないようなフォローを入れるセイリュウ。
しかしそれに対してロザリンドが応えを返す。

「・・・さすがに定期的に掃除はされていたようで綺麗ではあったんだが・・・おそらく掃除担当者はずっと空き部屋だと思って掃除をしてたんじゃないかな」
「---あー、うん、まあそうだろうね。大体ベッドにシーツも毛布も無かったし。剥き出しのマットレスに枕もなく寝転がってたもんな」

あの頃はそれでもベッドで横になれた。
・・・まあ数日でそれも無くなったけどね、仕事に忙殺されて・・・。

思い出したら眉間に皺が寄ったのが分かった。
この公爵家のベッドに慣れちゃったらもう二度とあんなベッドに横になれないや。

「---ちょっと待て。それは聞いてないぞ」
「え? そりゃあ僕は言ってないと思うけど」
「そうじゃない。セイじゃない、大丈夫、気にするな。・・・・・・ら、やっぱりシメる」
「? なあに?」

最後はぽそりと小さく呟いたので聞き取れなかったセイリュウが首を傾げるが、ロザリンドは何でもないと首を横に振った。

「いや、今度職場に行ったら案内するよ。ここから通うにしても、休憩用の私室がある方が良いだろう? あんな仮眠室など使う必要はない」
「そーだねぇ。えっと、来月から復帰だっけ? 職場の皆、大丈夫かなあ・・・」

何だかんだと4カ月も休んでたよ。
療養と父様と実子のお披露目準備なんかで忙しかった。
ずっと仕事任せちゃってて、疲れてないかな?

「前のヤツらと違って優秀だから、キチンと休みながら仕事を捌いてる。心配ない」
「そうだよね。良かった。あんなに忙しいのはゴメンだけど『働かざる者食うべからず』っていうし、適度に仕事しよう」

そう言うと、ロザリンドが心配顔で言った。

「別に辞めても良いんだぞ? 寧ろ辞めても文句は言われないくらい働いてたんだし」
「そんな事したら堕落した人になっちゃう。怠惰に慣れちゃうともう戻れなくなっちゃうよ。今だって十分、堕落してるのに・・・そんな甘言囁いて、ロザリンドは僕をどうしたいの?!」

全くもうって膨れたら、ロザリンドはニヤリと笑って・・・。

「そりゃあ、俺無しじゃ生きていけないくらい依存して欲しいかな」
「---?! ちょっと! 何サラッとヤンデレ発言してんの?! ・・・・・・もうとっくにロズ無しじゃ生きてけないんですけど?!」

そう叫んだらロザリンドは目を瞠ったあと、蕩ける笑みでセイリュウに口付けをした。

「嬉しいな。もっと、俺に堕ちて・・・愛しい人」


---もうとっくに堕ちてるっての・・・。


セイリュウは目を瞑って、その甘い口付けを享受した。







しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...