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39 神官長は子離れ出来ない
しおりを挟む先日、密かにロザリンドに、スピカから聞いていた前世の愛の告白の定番の台詞を教えておいた。
その後、三日後の満月の夜に求婚して諾の言質をとったらしい。
その翌朝、本日報告と共に婚約宣誓書のサインを求める手紙と宣誓書が送られてきて苦笑する。
もちろん愛しいセイリュウの為だ。
否やは無い。
寧ろそう仕向けたのだから。
・・・しかし。
「それとこれとは別問題だよねえ」
この4年間、王太子殿下と公爵家の協力の下、たまに王都に転移してセイリュウの様子をこっそり見ることはあったが、セイリュウに直接会うことは出来ず。
まともに見たのは、つい数週間前。
倒れて骨と皮だけの姿で昏睡するセイリュウだった。
状態が良くないとは聞いていたが、これほどとは・・・と己の力不足に嘆いた。
しかし嘆くよりもやることがあるだろうと己を叱責し、以前から準備していた事を実行に移しだしたのだが。
どうやら賢いくせに恋愛感情に色々疎いセイリュウがロザリンドを気にしているらしい。
---自覚が出たか?
スピカのいう事にもはや疑いは無いが、ロザリンドがセイリュウの運命の相手ならば、と二人をくっつける事にしたのだが。
あっと言う間に嫁に行くことになった。
親としてはこの上なく寂しい。
もちろん嫁いだとしても親子であることに変わりは無いのだが、もうこれは感情論である。
「でもまあ、まだ婚約だからね。嫁入りまでは私が可愛がっても良いよね?」
婚約宣誓書にサインをして公爵家に送り返してから、レグルスは神殿でお勤めをしている神官や修道女に声をかけ、セイリュウが婚約したことを伝えて回った。
「まあまあ!! なんて吉報でしょうか!!」
「おめでとうございます、神官長様!!」
「お相手の方はどちらの?!」
「今、世話になっているオーディン公爵家の次男、ロザリンド殿だよ」
「あらあら、オーディン公爵家次男様って、4年前のあの時の・・・?」
「え! あの時護衛を引き受けて下さった方ですか?! へええ、運命だったんですねえ!」
「そうですね、運命でしたね」
私は寂しそうに微笑んで言った。
「---あらイヤだ、神官長様、もう子離れしないとですか? でも4年間ずっと会えなかったんですもの、まだまだ子離れなんて出来なくて良いんですよお!」
「そうそう! 大体セイリュウ様の方が親離れ出来ないんじゃないですか? 父様父様って、いっつも後ろをくっついていましたもん」
「可愛かったよねえ!」
皆が口々にレグルスを慰める。
そう言う皆だって本当は寂しいのだが。
「ねえねえレグルス様、街の皆さんにも教えて、パーティーしましょうよ!」
「この間もお芋パーティーしなかったかい?」
レグルスがクスリと笑って言った。
つい先日も、セイリュウのやらかしで豊作の芋料理で騒いだよね?
「それはそれ!! こんないい話、黙ってられないでしょう! 俺、ひとっ走り行って話してきます!」
そういってあっと言う間にいなくなった。
ポカンと見送るレグルスに年嵩の神官が声をかけた。
「いつまで経っても親は親、子は子です。セイリュウ様も同じ気持ちですよ。元気になったらこちらにも顔を出してくれますよ」
「・・・・・・そうか、そうだな。ありがとう」
「これでも孤児院での子育てはレグルス様よりも長くて人数も桁違いですから! 血の繋がりなんてあっても無くても、心は親子であることに変わりは無いです。レグルス様は立派に父親してますよ」
そういってくれた。
そうか、私はちゃんと父親出来てたんだな。
不意に、とーたま、と呼ぶ舌っ足らずな幼い声が聞こえた気がした。
廊下をとたとたと危なっかしく歩くセイリュウの姿が見えた気がした。
・・・いないはずのスピカの姿が見えた気がした。
---ここにはセイリュウとスピカの思い出が詰まっている。
私は死ぬまでスピカの最愛で、セイリュウの父親だ。
だから、寂しくても大丈夫。
感傷に浸ったのはほんの少し。
先ほどの神官が住民達を大勢引き連れて来てあっと言う間に賑やかになり、さっそくパーティーだと皆が準備に取りかかる。
呆気にとられて、次には困り顔で苦笑する。
---ああ、ここでは感傷に浸る暇も無い。
スピカとセイリュウのおかげで皆の生活環境も食糧問題も良くなってきた。
セイリュウが色々やらかすから毎日笑顔が絶えなくて・・・。
「そうだね。子離れなんて一生出来なくていいや」
セイリュウが早くこちらに帰れるように、父様、尽力しちゃうよ。
わいわいと朝から大賑わいの神殿では、今日も今日とてお芋料理がたくさん並ぶのだった。
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