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33 神官長はお芋掘りをする
しおりを挟むセイリュウが公爵家で芋掘りに精を出している頃、辺境の神殿でも今まさに芋掘りをするところだった。
「レグルス様、大量ですねえ」
ほくほく顔で畑を見やる農民達。
つい先ほど、王都にいるセイリュウがやらかしたおかげで、こちらの芋畑は豊作だ。
元々、生長を促す魔法陣を組み込んだ魔導具で大きく育つのだが、どうやらセイリュウが幸せを感じて【神の愛し子】の祝福が現れたようだ。
やはり本人の幸不幸が大きく作用するのだろう。
4年前からここ最近は、収穫量も横這いだった。
こちらでは魔法の暴走で良くセイリュウがやらかしていたので違和感なく受け入れられているが、公爵家では大騒ぎだろうな。
おそらく、庭に突如、芋畑が出現したことだろう。
「・・・ふふふ」
想像すると笑いが込み上げる。
「神官長様?」
「ふふ、すみません。セイリュウがいれば大喜びでお芋掘りをするだろうなと」
「・・・そうですねえ。坊ちゃんがいれば、土まみれで大喜びでしょうねえ。元気でいるかな?」
「きっと今頃、向こうでも芋三昧ですよ。さあ、私達も頑張りましょうか」
そういって、セイリュウ考案の芋掘り魔法を使って掘り出す。
「そーれ!」
「「「「そーれ!!」」」」
掘り上げた芋を水魔法で洗い、風魔法で乾かし箱詰めしていく。
皆、セイリュウが考案した魔法で、随分と楽に作業が出来るようになった。
これも前世の知識なのだろう。
セイリュウはスピカの言うとおり、生まれつき前世の記憶を持っていたようだ。
お腹が空いたり排泄の不快さなどで泣いたりする以外は比較的大人しい子だった。
周りの人の声を聴いて理解していた。
その中で生みの母がすでに亡く、自分が孤児であることも理解していた。
普通ならば親が恋しい歳であるのに、我が儘も言わず、何時しか私の書斎の本を勝手に読み出した。
・・・おいおい、さすがに2歳で魔導書を読むのはおかしいから止めなさいね。
だが、全く意に介さず黙々と読書をする姿に、半ば諦めて勉強するかと声をかければ嬉々として頷くセイリュウ。
暫く後で我に返ってワタワタと焦る姿に愛情が溢れる。
可愛いセイリュウ、愛しいセイリュウ。
私とスピカの大切な子。
スピカは生前良く言っていた。
『成長したこの子は不遇の時を過ごすけど、この子を愛し慈しむ人が現れるわ。その人と幸せになるはずよ。だから、その時まで、セイリュウを護ってあげて』
---そうだね。
確かにセイリュウはこの4年間、不遇だった。
でも君の言うとおり、セイリュウを愛し慈しむ者も現れた。
今、セイリュウは幸せらしい。
後は君とセイリュウを不幸にした者達に、君流に言うなら・・・。
「もうじき、ざまぁ・・・をするからね。見てて」
ある程度掘り終えたらしい農民達が、今日は祭りだと賑やかに騒いでいる。
「レグルス様! 何時もの焼き芋ですか?! 焼けるまでお芋のスープ作りますから、焚き火の方へどうぞ---!」
「ああ、ありがとう」
焼き芋もスープもセイリュウが大好きな料理だな。
公爵家でも食べているのだろうか。
早く元気な姿を見たいな。
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