癒しが欲しい魔導師さん

エウラ

文字の大きさ
上 下
20 / 85

20 王太子も暗躍する

しおりを挟む

私は父上・・・現国王陛下の長子で王太子のエドワードである。

私には叔父がいる。
父上の歳の離れた弟・・・王弟である。

歳は私の少し上で、今は辺境の神殿で神官長を勤めている。

その彼とは密かに連絡を取り合うほどの長い付き合いになる。

最初は好奇心からだった。

自分に近しい王族の血筋が『神託』の祝福とはいえ辺境の神殿に行くなど、おかしいなと。
しかしソレが王位継承問題解決の為と聞けば、幼くも申し訳なく思われた。

時々様子を窺ってみれば、王位には全く興味は無く、本当に神官として穏やかに過ごしていたのだ。

私には却ってソレが羨ましかった。

次期王として日々、厳しく躾けられ、教育を受けさせられ、自由な時間などほとんど無い。
寄せられるのは王太子としての期待。
個人の、エドワードとしての関心や愛情は薄かったように思う。

何時しか、レグルス叔父様にこっそりと影を送り、連絡を取り合うようになった。
拒絶されるかも、忌避されるかも・・・という不安を他所に、すんなり私を受け入れてくれた。

王太子ではなくとして・・・。

これがどれ程嬉しかったか。

父である国王はかなり選民意識が高い故に、国民を蔑ろにするような政策を好んでいた。
私は叔父に話をし、また話を聞かされて国民の為に何が良いかと議論することもしばしば。

叔父は身分に囚われない考えの方だった。
歳が近いことも有り、本当の兄のように慕っていった。

そんなある日、弟である第二王子が婚約者だった侯爵令嬢である聖女を婚約破棄するという騒動を起こす。

庶子であった男爵令嬢と不貞を犯した為に、王族の責での破棄であったが、侯爵令嬢は傷心で辺境の神殿の聖女になったとのこと。

その際、実家の侯爵家から籍を抜かれ、平民となったことを後から知り、慌てて叔父に連絡をした。

実は叔父は、その侯爵令嬢を好いていたのだ。
偶然知った事だが、弟の婚約者となり、傷心で辺境の神殿に向かったらしいと。

今の侯爵令嬢と同じような状況だなと密かに苦笑いしたモノだ。

陛下はその男爵令嬢をとある伯爵家に養女として迎い入れさせ、弟の婚約者に据えた。
弟は今はもう婚姻し、公爵位を賜っている。

・・・陛下第二王子には甘い。


およそ19年前、辺境の神殿で幸せに暮らしていた元侯爵令嬢が悲劇に見舞われ、乗り越えて愛を確かめ合って生まれた愛息子セイリュウを、今また失いそうになっている叔父レグルスの為に・・・。

私は助力を惜しまないつもりだ。

王宮への手引きはもちろん、腐りきった魔導師の貴族共や同じような選民意識の高い騎士団員共の排除・・・。

もちろん、その中には国王陛下あなたも含まれますよ?

だから精々足掻いて下さいね。



「---王位など欲しいと思ったことは無いが、必要とあらば手に入れましょう。何、遅いか早いかの違いだ。・・・叔父あなたの為に・・・」

今頃は父の寝室に忍び込んでいるだろう叔父レグルスを思って月明かりの元、ニヤリと笑う顔は兄と慕うレグルスにそっくりだった・・・。


「さあ、終わりの始まりです」




その部屋で付き従うエドワードの影は、気配を殺して主を窺っていた。

---奇しくも辺境のレグルスに過去、命を救われた元暗殺者。

レグルスを殺す依頼を受け、失敗し、逆に命を救われた。
その恩を返すため、エドワードに付き従っている。
エドワードもレグルス信者といっていい。
だからエドワードに従うのは引いてはレグルスの為となるのだ。

だからその為に命を賭けても良いのだが、彼の方はソレを良しとしない。
愛息子であるセイリュウ様が哀しむからだ。
レグルス様の愛する者は影にとっても護るべき者。

それはエドワードも同じだ。



二人は狂気にも似た敬愛をレグルスに捧げる。

もちろん他には知られてはいけない。
二人は普段、完璧に仮面を被っている。


・・・諸々の準備をしているうちに、割と同類信者が集まっていることには薄々気付いているが。


ここに来て漸く、反撃の狼煙のろしが上がった。




しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...