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12 神官長は決意する
しおりを挟む私が神殿に身を寄せたのは5歳の祝福の儀で授かった『神託』が大きかった。
『神託』とは、その言葉通り神から直接お言葉を受けられる力だ。
もちろん何時でも何処でも受け答えが出来るわけじゃない。
神殿の神が御座す祭壇で祈りを捧げて、それでも何時も応えてくれるわけではない。
割と気紛れなのだ。
だがそれでもかなり珍しい祝福で、コレを機に私を玉座に据えようと考える輩が増えた。
この時、兄王子はすでに立太子していて王子・・・私の甥にあたる男児がすでに誕生していた。
私はスペアとしてココにいるだけで端から王位に興味は無かったし、甥の婚約者にスピカが選ばれて傷心だった為、当時の国王陛下ー父に頼んで、辺境地の神殿に見習い神官として送り込ませて貰った。
王位継承問題に巻き込まれるのはゴメンだった。
そうして辺境地に王弟がいることは極秘とされ、順調に神官として過ごし、やがて神官長になった頃・・・。
スピカが婚約を破棄され、当時の私のように傷心でこの神殿に聖女として赴いてきた。
私は嬉しさ半分、悔しさ半分で彼女を迎えた。
スピカは王城で私と何度か会っていたが、小さかったため覚えていないのだろう。
「初めまして、神官長様」
「・・・初めまして。こんな何もないところに良く来てくれたね」
「・・・こちらこそ、私の噂をご存知でしょうに、受け入れて下さってありがとうございます」
そういって辛そうに笑った。
そんな顔をさせたバカ王子に無性に腹が立ったが、おかげでスピカと過ごせる事に仄暗い感情が湧き上がった。
未だに消せない恋心が再燃した瞬間だった。
暫くは穏やかな日々が続いていた。
併設された孤児院に毎日顔を出して世話を焼く。
子供達の笑い声に何時しか、多少なりとも持っていたあの王子への恋心が少しづつ消えていき、代わりに楽しそうな笑顔が増えた。
私も、今までに無く充実した日々だった。
---あの日までは・・・。
思い出すのも悍ましい。
王都から視察と称しやって来た貴族どもは、あろう事か、スピカを凌辱したのだ。
スピカは辺境地に赴くにあたり、実家の貴族家から縁を切られていて、謂わば平民の身分だった。
それだけで無く、大人しいスピカにとっては男だというだけで恐怖だったろう。
スピカの為に付けた護衛でさえ、金で裏切り、一緒になって襲ったというのだ。
駆けつけた私達が目にしたモノは・・・。
スピカの尊厳を奪うような悍ましい有様で。
直ちに身を清め連れ帰ると、修道女達に任せて私はクズどもを追った。
しかしすでに辺境地を発ったあとで、僅かに手は届かず・・・。
王都に抗議をするも『たかが辺境地の聖女一人、罪に問われる謂れは無い』と。
ならばと、かつての家族に連絡を取れば『縁は切れていて他人だ』と・・・。
巫 山 戯 る な!!
---アイツらが駄目なら私が代わりに成敗してやろう。
そう心に決めた。
その後、執念でアイツらの胤を滅したスピカは、大人しかった性格が急に積極的になり、孕んでいなかった事に安堵して暫く経ったあの夜、私の寝所に夜這いに来たのだ。
「---レグルス様、私を抱いて下さい。あんな記憶を・・・上書きして、消して・・・・・・こんなに穢れてしまったけれど・・・・・・貴方が、好きなんです」
そう、涙を零しながら。
「・・・・・・スピカは穢れてなんかいないよ。たった今、この瞬間も神殿の結界の中だ。神はちゃんと見てくれている。私もね、スピカをずっとずーっと愛しているんだ。覚えていないだろうけど」
「---いいえ、思い出したの。・・・私、襲われたときに。・・・うんと小さいとき、王宮で迷子になった私をお茶会の場所まで送って下さった・・・あとで王弟殿下って聞いて、御礼が言いたかったの・・・ありがとうございます」
「うん、私はね、あの時君に一目ぼれしたんだ。甥の婚約者になってしまって、傷心でここに逃げてきたんだよ」
「・・・ふふ、じゃあ私達、同じですね」
「ああ、同じだ。君を愛してる。だから抱きたい」
「私も、愛してるから、抱いて欲しい」
そうして過ごした夜に、スピカのお腹にセイリュウが宿ったんだ。
「---この子の名前は『セイリュウ』・・・男の子なんです」
愛おしそうに膨らんだお腹を撫でるスピカ。
「どうして分かるんだい?」
「---あのね、私・・・襲われたときに他にも思い出したことがあって・・・聞いてくれる? 突拍子も無い話なんだけど・・・」
「もちろん。君の言うことは何でも聞くよ」
「まあ、ふふ、嬉しい」
そう笑って聞かされた話に正直どうかしたのかと思ったが、生まれたセイリュウを見ていて、真実だと理解した。
『私ね、前世の記憶があるの』
『この世界の事を少しだけ知ってるの』
『この子は青龍というの。凄い力を持つ事になるわ』
『この子も、きっと私のように前世の記憶を持って生まれる。でも怖がらないで、愛してあげて』
『とても大きな渦に巻き込まれる。でも大丈夫。この子を愛し、護ってくれる存在がいるから』
『私がこの世界から消えても・・・・・・この子が貴方を愛してくれるから』
そういって優しい笑みで語った君が愛おしい。
君の言うとおりになったよ、スピカ。
セイリュウは私とスピカを、愛してくれてる。
だから、大きな渦に巻き込まれたあの子を、私は助けたいんだ---。
※この後、ストック切れるので不定期になると思います。
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