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9 魔導師は限界を迎える 1
しおりを挟む今日は王都の四方に設置された結界の魔導具の定期点検と魔力の充填の予定だけかな。
あとはずっと書類捌くだけ・・・はぁ、外出すると何時も書類増えるんだよなぁ・・・。
仕方ないけどさ。
今夜は徹夜かな。
何時もの死んだ目に加えて遠い目をしていたのが分かったんだろう。
ロズが心配そうにこちらを窺っているが、あえて視線に気付かないふりをする。
・・・・・・ここ数週間、ロズの御世話の甲斐あって、セイリュウは随分と体調が良くなっていた。
心なしか肌ツヤが幾分かマシになった気がする。
いつの間にか櫛も用意されて、俺がもきゅもきゅ食べてる間に香油を付けて丁寧に梳いてくれる。
ここに入団させられてからは暇が無く、伸ばしっぱなしで適当に一つに纏めるか、そのまんまだったが、器用に髪を切り揃えてくれた。
今は腰まである髪が、おかげで艶も出てきた。
それに何かと口に食べ物を押し込まれるから、知らず知らずのうちに食事の量が増えた。
おかげで脳に栄養が行くようになり、止まっていた思考がマトモに動きだして、最初に名乗られたフルネームを記憶から掘り起こしてその顔をまじまじと見つめて漸く、彼が4年前のあの時、自分を護衛してくれた『オーディン』だと気付いたのだ。
---いやぁ、気付くの遅すぎるだろ、俺ぇ。
いくら再会した時は頭が回っていなかったとはいえ、かつての護衛騎士に甲斐甲斐しく御世話されちゃって、何やってんだよ、俺ぇ!!
あーん、なんて、何やってくれちゃってんの、俺ぇぇぇ---!!
無表情の中ではめちゃくちゃ大騒ぎしていたのだった。
「・・・あー、ロズ、今日の日程ね」
もはや敬語は不要と言われて折れたセイリュウは砕けた感じで接するようになった。
以前、何も言わずに転移で外に仕事に行ってしまい、帰ってきてからめちゃくちゃ怒られてお説教されたのだ。
その時につい『だって今まで誰もついてきたこと無いし、誰も気にしないからコレが普通だったんだもん! そんなの知らないよ!』ってブチ切れて、以来そのまんま。
---だもんって・・・ガキか!
ロズにはもうだらしないところとかいっぱい見られてるから、気にしないようにした。
もちろん外面は猫をいっぱい被っている。
だってロズって第三騎士団の副団長だったんだもん。
気付かなかったとはいえ、俺、そんな人によくロズなんて愛称つけたな。
そんでもって良くあーんされて、身の回りの御世話されてたな。
---幼児か?!
でもそれが心地良くてつい縋っちゃう。
これはあれか、ひよこの刷り込み?
ここに来て初めて優しくしてくれた人に依存しちゃった?
優しくされて甘やかされて・・・お父様や神官達とは違う甘やかしに、なんて言うかムズムズするような・・・。
---前世でも無かった不思議な感覚に戸惑いながらも、ロズの御世話を受け入れ続けている。
---それはともかく、今日の予定をロズに転送する。
これは最近俺が開発した魔導具で、前世で言うところのスマホみたいなモノ。
音声通話とメール機能のみだが、使用する魔石の質によって距離が変わる不便さはあるが、概ね良好に使えている。
試作段階だから俺とロズのみの使用。
外部にも漏らさない。
漏れないように隠蔽魔法をかけてある。
---魔導師達色々と煩いからな。
昔から人にやらせて成果は自分のモノって・・・。
巫山戯んじゃねえぞ。
以前、前世の宅配ボックスを真似て、転移魔法陣を組み込んで更に空間魔法陣も組み込んで転送アイテムボックスなるモノを開発したら、これも自分達の手柄にするべく手を回したようで、危うく開発者名義をヤツらに取られそうになって。
でも俺が自分の名前と魔力を魔法陣に組み込んでいたからアイツらには手が出せなくて、腹いせのように殴る蹴るの暴力を受けて酷い目にあったんだ。
それを誰も彼も見て見ぬ振り。
貴族階級のヤツらは身分に厳しい。
どんなに相手がクロだろうと自分より上の階級がシロと言えばその通りにならうのだ。
訴えたところで、ただの孤児(他称)の言う事なんて聞いて貰えない。
まあ、さすがにあの時は体が辛くて自前の魔法で治癒したけども。
そういうわけでアイテムボックスは俺名義で登録したから、売り上げの一部は俺の資産口座に毎月振り込まれている。
その口座は元々辺境地で作った口座だから、レグルス父様に毎月仕送りとして使って貰ってる。
だって下手に貯めとくと魔導師団とか騎士団の御貴族様とか煩いし、難癖付けて盗られてもイヤじゃん。
お父様の事だから引き出して隠し金庫とかに保管してそう。
有り得る。
というわけで、あれ以降、何を作っても秘匿して表には出してない。
だからコレが上手くいっても、遠くの辺境地のお父様と話すためだけに作ったモノだから、当然公表はしない。
実はアイテムボックスは辺境地に送ることも許されなくて向こうには無いから、やり取りは出来てない。
そもそも外部に連絡を取らせて貰えない。
だから4年前、攫われてここに入れられてから一度も、手紙のやり取りすらさせて貰えないんだ。
---いや、転移して会いに行けばって?
それが無理なんだよねぇ。
その辺りも厳しくて、王都から結界の外へ転移、もしくは外から王都へ転移ってのは結界の防衛反応に引っかかるらしくて、特殊な魔法陣を敷いた場所だけオッケーで、許可も必要。
俺を辺境地から転移させたのは事後承諾のような特別措置だったらしい。
・・・・・・あの時、その魔法陣をちょっとでも見てたら色々改良してやったのに・・・。
昏睡してたし、それ以降もその部屋に行く用も無く、一人で出歩くのもさせて貰えず、部屋に缶詰状態。
用があるときだけガッチリ囲まれて出されて、終わればまた缶詰・・・。
良く腐らなかったな、俺。
缶詰だったからか。
・・・・・・なんてアホな事を考えてた。
それはともかく。
意識が無いときだったから、レグルス父様にお別れも言えてない。
---だからさ。
スマホもどきくらい許されるよね、神様?
あー、でもロズにはあげよう。
俺の護衛騎士だし優しいしカッコいいし。
---何時まで護衛騎士でいてくれるんだろうか・・・。
考えたら胸の奥がチクッとした。
「この後、4カ所回るから。ロズ、大丈夫?」
「何を言ってるんです? 護衛騎士なんですから、何時でも何処でも地の果てまでもついていきますよ」
「ソ、ソウデスカ・・・」
だからその笑っていない目を止めて欲しい。
それってアルカイックスマイルっていうんだろ?
レグルス父様が良くしてた。
貴族の感情を悟らせない笑み。
怖いんだよぉ!
内心ガクブルしながら告げる。
「あと半刻(一時間)で転移で行くから、準備よろしく」
「畏まりました」
「普通に喋って?!」
「ふふ、分かりました」
ちょっと意地悪なところも良い、なんて・・・俺、ちょっとヘンだ。
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