27 / 30
帰ってきた愛しい番い(sideサイファ)
しおりを挟む
ラトナがカフェのトイレで攫われたときは例えようもないほどの絶望感を味わった。
不意に闇魔法の気配を察知した瞬間、それまで当たり前のようにあったラトナの、番いの気配が消えたのだ。
ソレからのことはよく覚えていない。
時々現れるラトナの気配を頼りに転移していく。
おそらく護衛騎士や王家の影達も裏で色々と動いてくれていたと思うが、そんなことに構う余裕などなかった。
そうしてかなりの距離を移動して、寂れた村に辿り着いた。
後で知ったことだが、スタンピードで廃村になったところだったらしい。
その中の建物のどこかにいるはずなのに、何かの力か魔導具なのか、ラトナの気配が分からない。
このときの俺はすでに竜体に変化していて周りの声がほとんど聞こえないほどラトナのことしか意識が向いていなかった。
とにかくラトナを求めて暴れていたらしい。
ラトナを求めているくせに気配も分からないほど正気を失っていた。
それがどれくらい経ったのか、不意にラトナのいい匂いがした。
ハッとして意識が俺の竜の鼻先に向いた瞬間、鼻がふわふわの毛で擽られ、思わずくしゃみをしてしまった。
そこでラトナが鼻先にくっ付いていて、今のくしゃみで吹き飛ばしてしまったことに気付く。
───っラトナ!?
見ると泣きながら仰向けで落ちていくところで───。
俺は一瞬で竜人の姿に戻るとラトナを抱えた。ラトナは痛みに耐えようとしてか、目をギュッと瞑っていて俺に気付いていない。
そしておそるおそる目を開けると、その真紅の瞳に俺を映して───。
「───お帰りなさい、サイファ」
「───っうん。・・・・・・ただいま」
本来なら俺が『お帰り』と言ってラトナが『ただいま』と言う場面なのに、俺はラトナの言葉に嬉しさで泣きそうになった。
思わずラトナのもふもふに顔を埋めてスーハーと匂いを嗅いでしまった。
・・・・・・ああ、ラトナの匂いだ。癒される。
チラリと見ると、ラトナは虚無の瞳で遠くを見つめていた。
その後ろでホッとする巡回騎士団や自警団達の姿が見えて、だいぶ迷惑をかけたことに気付く。
・・・・・・犯人達は無事だろうか? 事情聴取とか出来るのか? 何となくだが、相当やらかした記憶がある。
まあ、その辺りもアレックス達が上手くやってくれるだろう。
俺は顔をあげてラトナの可愛い口にチュッと触れるだけのキスをしてから自分のローブで包んだ。
するとラトナが哀しそうな顔で、この姿になったら服がない、髪留めもなくしたと泣きそうになり・・・・・・。
───そういえばピアスの詳しい仕様を教えてなかったな。
それに気付いて収納の魔法のことを伝えた。
ピアスが収納の魔導具を担っているから自動で出し入れ出来る。だから獣人姿になれば服も自動で身に着けていると。
するとホッとして笑った。
俺がプレゼントした髪留めをなくしたと思って哀しかったらしい。
・・・・・・可愛すぎか!
しばらくして残党を漏れなく捕獲し、証拠品なども押収したと報告があり、王都に帰還することになった。
王都に転移し終えると、アレックス達はそれぞれ後処理をしに戻った。
俺達散策組は王城に戻る。
いつの間にか誘拐から救出までを報告済みらしく、家族総出で出迎えられた。
そこでラトナがコトの重大さを改めて認識し皆に謝り倒していたが、悪いのはアイツらであってラトナは被害者なのだから気にすることはない。
「本当にごめんなさい。あの、助けてくれてありがとう」
「ラトナが無事で本当によかった。コレからはトイレだろうとお風呂だろうと付いていくからな」
「・・・・・・えええ・・・・・・お風呂はともかく、やっぱりトイレはちょっと・・・・・・」
獣人姿になったラトナは眉をハの字に下げて苦笑い。
だが完全に拒否しているわけではないから、多少は受け入れるんだろう。
父達と別れて俺の自室に戻ると、ラトナはかなり疲れたようでソファでうたた寝を始めてしまった。
「ラトナ、寝るならベッドに行こうな」
「・・・・・・ぅん・・・・・・」
ラトナを抱えて移動しそっとベッドに下ろすと、スコンと深く眠ってしまった。
「・・・・・・攫われたコトが精神に悪影響にならないといいが・・・・・・」
ヘンにトラウマになったりして暗闇や狭いところが怖いとかなければいいな。
リビングに移動してお茶を飲みながら、そういえば、とナージュに聞いてみる。
「ナージュ、離宮に立ち入った侯爵令嬢はどうなったんだ?」
「ああ、アレですか? 陛下がしっかり対応済みです。詳しいことは───」
そう言って報告書を見せてくれたので目を通す。
フン、この辺が妥当だろうな。
立ち入り以上の事があれば八つ裂きにしてやったが、まあ仕方ない。
ラトナに知られなければそれでいい。
「じゃあ、俺もラトナと少し眠る。緊急時以外は起こすな」
「畏まりました」
こうして波乱の一日はゆっくり過ぎていく。
不意に闇魔法の気配を察知した瞬間、それまで当たり前のようにあったラトナの、番いの気配が消えたのだ。
ソレからのことはよく覚えていない。
時々現れるラトナの気配を頼りに転移していく。
おそらく護衛騎士や王家の影達も裏で色々と動いてくれていたと思うが、そんなことに構う余裕などなかった。
そうしてかなりの距離を移動して、寂れた村に辿り着いた。
後で知ったことだが、スタンピードで廃村になったところだったらしい。
その中の建物のどこかにいるはずなのに、何かの力か魔導具なのか、ラトナの気配が分からない。
このときの俺はすでに竜体に変化していて周りの声がほとんど聞こえないほどラトナのことしか意識が向いていなかった。
とにかくラトナを求めて暴れていたらしい。
ラトナを求めているくせに気配も分からないほど正気を失っていた。
それがどれくらい経ったのか、不意にラトナのいい匂いがした。
ハッとして意識が俺の竜の鼻先に向いた瞬間、鼻がふわふわの毛で擽られ、思わずくしゃみをしてしまった。
そこでラトナが鼻先にくっ付いていて、今のくしゃみで吹き飛ばしてしまったことに気付く。
───っラトナ!?
見ると泣きながら仰向けで落ちていくところで───。
俺は一瞬で竜人の姿に戻るとラトナを抱えた。ラトナは痛みに耐えようとしてか、目をギュッと瞑っていて俺に気付いていない。
そしておそるおそる目を開けると、その真紅の瞳に俺を映して───。
「───お帰りなさい、サイファ」
「───っうん。・・・・・・ただいま」
本来なら俺が『お帰り』と言ってラトナが『ただいま』と言う場面なのに、俺はラトナの言葉に嬉しさで泣きそうになった。
思わずラトナのもふもふに顔を埋めてスーハーと匂いを嗅いでしまった。
・・・・・・ああ、ラトナの匂いだ。癒される。
チラリと見ると、ラトナは虚無の瞳で遠くを見つめていた。
その後ろでホッとする巡回騎士団や自警団達の姿が見えて、だいぶ迷惑をかけたことに気付く。
・・・・・・犯人達は無事だろうか? 事情聴取とか出来るのか? 何となくだが、相当やらかした記憶がある。
まあ、その辺りもアレックス達が上手くやってくれるだろう。
俺は顔をあげてラトナの可愛い口にチュッと触れるだけのキスをしてから自分のローブで包んだ。
するとラトナが哀しそうな顔で、この姿になったら服がない、髪留めもなくしたと泣きそうになり・・・・・・。
───そういえばピアスの詳しい仕様を教えてなかったな。
それに気付いて収納の魔法のことを伝えた。
ピアスが収納の魔導具を担っているから自動で出し入れ出来る。だから獣人姿になれば服も自動で身に着けていると。
するとホッとして笑った。
俺がプレゼントした髪留めをなくしたと思って哀しかったらしい。
・・・・・・可愛すぎか!
しばらくして残党を漏れなく捕獲し、証拠品なども押収したと報告があり、王都に帰還することになった。
王都に転移し終えると、アレックス達はそれぞれ後処理をしに戻った。
俺達散策組は王城に戻る。
いつの間にか誘拐から救出までを報告済みらしく、家族総出で出迎えられた。
そこでラトナがコトの重大さを改めて認識し皆に謝り倒していたが、悪いのはアイツらであってラトナは被害者なのだから気にすることはない。
「本当にごめんなさい。あの、助けてくれてありがとう」
「ラトナが無事で本当によかった。コレからはトイレだろうとお風呂だろうと付いていくからな」
「・・・・・・えええ・・・・・・お風呂はともかく、やっぱりトイレはちょっと・・・・・・」
獣人姿になったラトナは眉をハの字に下げて苦笑い。
だが完全に拒否しているわけではないから、多少は受け入れるんだろう。
父達と別れて俺の自室に戻ると、ラトナはかなり疲れたようでソファでうたた寝を始めてしまった。
「ラトナ、寝るならベッドに行こうな」
「・・・・・・ぅん・・・・・・」
ラトナを抱えて移動しそっとベッドに下ろすと、スコンと深く眠ってしまった。
「・・・・・・攫われたコトが精神に悪影響にならないといいが・・・・・・」
ヘンにトラウマになったりして暗闇や狭いところが怖いとかなければいいな。
リビングに移動してお茶を飲みながら、そういえば、とナージュに聞いてみる。
「ナージュ、離宮に立ち入った侯爵令嬢はどうなったんだ?」
「ああ、アレですか? 陛下がしっかり対応済みです。詳しいことは───」
そう言って報告書を見せてくれたので目を通す。
フン、この辺が妥当だろうな。
立ち入り以上の事があれば八つ裂きにしてやったが、まあ仕方ない。
ラトナに知られなければそれでいい。
「じゃあ、俺もラトナと少し眠る。緊急時以外は起こすな」
「畏まりました」
こうして波乱の一日はゆっくり過ぎていく。
520
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる