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帰ってきた愛しい番い(sideサイファ)

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ラトナがカフェのトイレで攫われたときは例えようもないほどの絶望感を味わった。

不意に闇魔法の気配を察知した瞬間、それまで当たり前のようにあったラトナの、番いの気配が消えたのだ。

ソレからのことはよく覚えていない。

時々現れるラトナの気配を頼りに転移していく。
おそらく護衛騎士や王家の影達も裏で色々と動いてくれていたと思うが、そんなことに構う余裕などなかった。

そうしてかなりの距離を移動して、寂れた村に辿り着いた。
後で知ったことだが、スタンピードで廃村になったところだったらしい。

その中の建物のどこかにいるはずなのに、何かの力か魔導具なのか、ラトナの気配が分からない。

このときの俺はすでに竜体に変化していて周りの声がほとんど聞こえないほどラトナのことしか意識が向いていなかった。

とにかくラトナを求めて暴れていたらしい。
ラトナを求めているくせに気配も分からないほど正気を失っていた。

それがどれくらい経ったのか、不意にラトナのいい匂いがした。
ハッとして意識が俺の竜の鼻先に向いた瞬間、鼻がふわふわの毛で擽られ、思わずくしゃみをしてしまった。

そこでラトナが鼻先にくっ付いていて、今のくしゃみで吹き飛ばしてしまったことに気付く。

───っラトナ!?

見ると泣きながら仰向けで落ちていくところで───。

俺は一瞬で竜人の姿に戻るとラトナを抱えた。ラトナは痛みに耐えようとしてか、目をギュッと瞑っていて俺に気付いていない。

そしておそるおそる目を開けると、その真紅の瞳に俺を映して───。

「───お帰りなさい、サイファ」
「───っうん。・・・・・・ただいま」

本来なら俺が『お帰り』と言ってラトナが『ただいま』と言う場面なのに、俺はラトナの言葉に嬉しさで泣きそうになった。

思わずラトナのもふもふに顔を埋めてスーハーと匂いを嗅いでしまった。
・・・・・・ああ、ラトナの匂いだ。癒される。

チラリと見ると、ラトナは虚無の瞳で遠くを見つめていた。
その後ろでホッとする巡回騎士団や自警団達の姿が見えて、だいぶ迷惑をかけたことに気付く。

・・・・・・犯人達は無事だろうか? 事情聴取とか出来るのか? 何となくだが、相当やらかした記憶がある。

まあ、その辺りもアレックス達が上手くやってくれるだろう。

俺は顔をあげてラトナの可愛い口にチュッと触れるだけのキスをしてから自分のローブで包んだ。
するとラトナが哀しそうな顔で、この姿になったら服がない、髪留めもなくしたと泣きそうになり・・・・・・。

───そういえばピアスの詳しい仕様を教えてなかったな。

それに気付いて収納の魔法のことを伝えた。
ピアスが収納の魔導具を担っているから自動で出し入れ出来る。だから獣人姿になれば服も自動で身に着けていると。

するとホッとして笑った。
俺がプレゼントした髪留めをなくしたと思って哀しかったらしい。
・・・・・・可愛すぎか!

しばらくして残党を漏れなく捕獲し、証拠品なども押収したと報告があり、王都に帰還することになった。

王都に転移し終えると、アレックス達はそれぞれ後処理をしに戻った。
俺達散策組は王城に戻る。
いつの間にか誘拐から救出までを報告済みらしく、家族総出で出迎えられた。

そこでラトナがコトの重大さを改めて認識し皆に謝り倒していたが、悪いのはアイツらであってラトナは被害者なのだから気にすることはない。

「本当にごめんなさい。あの、助けてくれてありがとう」
「ラトナが無事で本当によかった。コレからはトイレだろうとお風呂だろうと付いていくからな」
「・・・・・・えええ・・・・・・お風呂はともかく、やっぱりトイレはちょっと・・・・・・」

獣人姿になったラトナは眉をハの字に下げて苦笑い。
だが完全に拒否しているわけではないから、多少は受け入れるんだろう。

父達と別れて俺の自室に戻ると、ラトナはかなり疲れたようでソファでうたた寝を始めてしまった。

「ラトナ、寝るならベッドに行こうな」
「・・・・・・ぅん・・・・・・」

ラトナを抱えて移動しそっとベッドに下ろすと、スコンと深く眠ってしまった。

「・・・・・・攫われたコトが精神に悪影響にならないといいが・・・・・・」

ヘンにトラウマになったりして暗闇や狭いところが怖いとかなければいいな。

リビングに移動してお茶を飲みながら、そういえば、とナージュに聞いてみる。

「ナージュ、離宮に立ち入った侯爵令嬢アレはどうなったんだ?」
「ああ、アレですか? 陛下がしっかり対応済みです。詳しいことは───」

そう言って報告書を見せてくれたので目を通す。
フン、この辺が妥当だろうな。
立ち入り以上の事があれば八つ裂きにしてやったが、まあ仕方ない。

ラトナに知られなければそれでいい。

「じゃあ、俺もラトナと少し眠る。緊急時以外は起こすな」
「畏まりました」

こうして波乱の一日はゆっくり過ぎていく。






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