箱庭

エウラ

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箱庭の外は思った以上にコワイトコロ 2

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それからウィンドウショッピングしながらぶらぶらと歩き(サイファに抱っこされたまま)、何か飲もうとなって、小洒落たカフェに入った。

五人もいたからか、店員さんが衝立で簡易的に仕切られた窓際の席を二つ分くっつけてくれて、護衛騎士さん達と隣同士で座ってメニューを見る。
見るんだけど───。

『ラトナ、飲み物は何がいい?』
『うーん、ちょっと俺にはよく分からないからサイファにお任せする』

メニューを見てもお茶の味やケーキの種類も分からない。知らない名前がいっぱいだから想像できない。
ならばコレまで過ごしてきたサイファに丸投げしよう。
俺以上に俺の好みを分かっていそうだからな。

『そうか? じゃあ───』
『その間に、俺ちょっとおトイレ』

サイファにコソッと囁くと渋い顔で言われた。

『俺も一緒に───』
『いやいや、連れションじゃないんだからやだよ! 恥ずかしいだろ』
『連れショ・・・・・・いや、危険だから』
『何で? 何が危険? トイレに行くだけじゃん!』

一緒に行く気満々のサイファに顔を赤らめる。いくら蜜月であんなコトやあんなコト(大事なので二回言う)してるからって俺にだって羞恥心はあるからな!

『・・・・・・仕方ない。エリック、トイレの出入り口で待っててやれ』
『は』

一番真面目なエリックさんが指名されて、ビシッと返事をする。

『・・・・・・それはそれで恥ずかしいんだけど』
『中にまで付いていかないぶん、譲歩した。これ以上は許可できん』

ちょっと駄々を捏ねたらサイファにそう言われて。

『諦めて下さい、ラトナ様』
『コレがサイファ様の最大限の譲歩ですって(ラトナ様が断らなかったらトイレの中どころかシモのお世話まで───)』
『モーガン?』
『いやっ、何でもない!』

ハサードさんとモーガンさんもサイファに続いてそう言った。
モーガンさんの後半は聞き取れなかったけどハサードさんにツッコまれて口を噤んでそれ以上は言わなかったから別にいいか。
それで、じゃあ仕方ないとエリックの付き添いで店の奥の方にあるトイレに向かう。

『はー、スッキリしたー』

用を足し、手を洗ってハンカチで拭いてズボンのポケットにしまおうと下を向いたとき───。

『・・・・・・え?』

足元に見えた魔法陣みたいな発光する模様にキョトンとした次の瞬間、慌てて中に入ってきたエリックさんの真っ青な顔を最後に、俺の意識はスコンと落ちた。

次に気付いたのは埃っぽい、古い倉庫のような建物の一室。

板の隙間から光が差し込んでいることからさほど時間は経ってないと思うけど、身体の背中側に回された腕と両足には枷のような物が嵌まっている。

さっきカフェに入ったときにローブは脱いでいたので、今はシャツと半ズボンのみ。
キャスケット帽は額が見えないように被ったままだったから、たぶんカーバンクルだってバレたわけじゃないと思う。

じゃあ、何でこんなことになってんの?

ぐるぐると考えても世間知らずの幻獣には分からない。

そんなことを考えているウチに、誰かの気配がして、咄嗟に気絶してるフリをする。
すると扉が軋んだ音を立てて開き、知らない声が聞こえた。

『おい。本当にこのガキなのか?』
『間違いないっす。ずっと抱きかかえて歩いてたっすよ!』
『絶対あの冒険者ヤロウの弱点ですって!』
『・・・・・・なら今頃焦って探してるだろう。バレねえウチに例のトコに売り払え』
『了解っす!』

そんな会話をしながら俺のそばに腰を下ろしたらしいリーダー格の男が、俺の顎を持ち、顔を覗き込んできた。
ひえ! が、ガマンだ! 起きてるのがバレたら絶対ヤバいヤツ!

『・・・・・・』
『おめえも、アイツに大事にされなきゃこんな目に合うこともなかったろうに、可哀想になぁ?』

そう一方的に告げて踵を返す輩に、心臓バックバクで俺は耐えた。

そしてアイツらの言った内容に何とか想像を働かせて辿り着いた結論は───。

Sランク冒険者のサイファに怨みがある、もしくは嫉妬→そんなサイファが大事そうに抱えてる俺=弱点→掻っ攫ってどこかに売り飛ばす→サイファにダメージ!

・・・・・・いやいや、大体あってると思うけどサイファにダメージどころか地雷踏んでるじゃん!
絶対、被害が甚大になるのが目に見えてるわ!

うーわー・・・・・・。
サイファの言う危険って、こういう意味もあったってこと?
自分が幻獣だから危険なんだと思い込んでたわ。

───アレ? コレって俺が幻獣ってバレたら更にヤバいんでは?

サーッと血の気が引く。
そうだよ、のんびり寝転がって助けを待ってる余裕なんかないじゃん!
帽子取られたら速攻で疑問に思われて、そこで幻獣ってバレたら───!!

なりふり構ってられないと、俺は枷を外すために幻獣であるカーバンクルの姿に戻った。
すると着ていた服飾品はどこかに消えたが気にしない。

小さくなった手足は簡単に枷から外れた。
そっと頭突きで扉を押すと、鍵はかかっておらず廊下みたいなところに出られた。
細心の注意を払い、すこーしだけ聴力を解放する。
男達が数人話す声が聞こえて、そっちとは反対方向に足を向けると静かに歩き出す。

───こうして俺の必死の逃走劇の幕が切って落とされたのだった。





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